Yulia Reznikov
英ベンチャーキャピタルのアトミコ(Atomico)の調査によると、ヨーロッパのテック系スタートアップ企業は2021年、過去最高額となる1210億ドル(約13兆円)の資金を調達する見込みである。これは2020年の約3倍の数字だ。
また2021年には、評価額が10億ドル(約1100億円)超の未上場ベンチャーであるユニコーンが新たに約100社誕生し、ヨーロッパのユニコーン企業数は323社にのぼった。
アトミコは、2021年の総調達額が1210億ドルになると予測している。
Dealroom/Atomico
「ヨーロッパで、テック系スタートアップの評価額が1兆ドル(約113兆円)に到達するまで数十年かかり、ついに2018年12月に達成しました。その24カ月後には2兆ドル(約226兆円)、そして2021年は3兆ドル(約339兆円)に達しました」と話すのはアトミコのパートナーであるトム・ウェーマイヤー(Tom Wehmeier)だ。
「将来性が高まるとともに成長も加速していて、ヨーロッパにおけるビッグテック時代に突入しました」と続けた。
高揚感が高まっているとはいえ、ヨーロッパはアメリカと比べると、若干の後れをとっている。アーンスト・アンド・ヤング(Ernst & Young)によると、アメリカでは2021年末までに資金調達額が2000億ドル(約22兆円)に達すると予測されている。アジアでは2021年第3四半期までに1000億ドル(約11兆円)を突破したと、米ビジネス情報サービス会社のクランチベース(Crunchbase)は報告している。
ヨーロッパのスタートアップ企業は、ますます多様化する投資家層からの恩恵を受けている。ヘッジファンドや従来の常識にとらわれない投資家が、高いリターンを求めて資金を投入しているからだ。
そんな投資熱の理由のひとつが、ヨーロッパのテック企業にさらなる成長が見込まれていることだと、ウェーマイヤーは言う。「かつてないほど優秀な人材と創業者がヨーロッパに集まっていて、成功がさらなる成功を生むという好循環が生まれています。成長の主要なエンジンとなっているのが、テクノロジーなのです」
ヨーロッパでは、アーリーステージのスタートアップの資金調達ルートが万全に整備され、全世界で500万ドル(約5億6000万円)以下のラウンドに投資された総額のうち、アメリカが35%を占めるのに対し、ヨーロッパは33%を占めるまでに増えている。また、レイターステージで大規模な資金が投入されるラウンドも急増した。これは、スタートアップがより長い期間、上場しないことを選択し、民間の投資家から資金を調達しているためだ。2億5000万ドル(約280億円)以上のラウンド数は、2020年から10倍に増加した。
ただ、ヨーロッパで大成功を収めているテック系スタートアップが、いつ、どこで新規上場を果たすのかということは、疑問として残る。もちろん、それ以前にアメリカの巨大テック企業に事業を売却する可能性もゼロではない。
ヨーロッパでは現在、ベンチャーキャピタルが支援するユニコーンが122社あるのに対し、上場したユニコーンはわずか50社。アメリカでSPAC(特別買収目的会社)上場の人気が高まっていることもあり、アメリカでの上場を選択する企業が増えている。とりわけイギリスでは、この傾向が顕著となっている。
しかしアトミコは、ほとんどのヨーロッパのテック系スタートアップは、ヨーロッパで上場するだろうと指摘する。IPO(新規公開)は一般的に小規模なものの、2021年(訳注:11月15日時点の数字)には122社のテック企業がIPOを行ったのに対し、アメリカでIPOを実行したテック企業は90社だった。英フードデリバリー会社のデリバルー(Deliveroo)、英決済サービス会社のワイズ(Wise)、英サイバーセキュリティ会社のダークトレース(Darktrace)などがヨーロッパで上場している。
米法律事務所オリック・ヘリントン・アンド・サトクリフ(Orrick, Herrington & Sutcliffe)のロンドンオフィスで働くパートナー、クリス・グルー(Chris Grew)は、プレスリリースでこう述べている。「ヨーロッパのテック企業は転機を迎えています。現在の記録的な投資水準は、長年の地道な活動が実を結んだものです」
(翻訳:西村敦子、編集:大門小百合)