「コロナ対策最優先」首相所信演説がどうしても心配な理由。2021年の「日本回避」経済がくり返されるかも…

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12月6日、第2次政権発足後初の所信表明演説を行った岸田首相。「慎重すぎる」オミクロン変異株対策に「批判は自らがすべて負う」と発言。「コロナ対策最優先」のスタンスを強調した。

REUTERS/Issei Kato

第2次政権発足後初めての所信表明演説(12月6日)に臨んだ岸田文雄首相は、「経済あっての財政であり、順番を間違えてはいけない」との姿勢を示し、行き過ぎた健全財政主義が経済成長を阻害するシナリオをけん制した。この点には筆者も強く同意する。

しかし、肝心の経済については「経済社会活動の再開は決して楽観的になることはなく、慎重に状況を見きわめなければならない」と述べ、コロナ対策が経済正常化に優先する姿勢も合わせて示した。要するに「コロナ対策>経済成長>健全財政」という順位づけだ。

先進国のなかで唯一、マイナス成長をくり返した2021年の反省に立つならば、経済成長に向ける視線はもっと切迫したものであるべきではないだろうか。

日本の防疫対策は世界でそれなりに高い評価を受けており、それを維持しながら、そろそろ経済に軸足を移してもいいはずだ。

例えば、日本のワクチン接種率(1回でも接種した人口の割合)は79.28%(12月5日時点)で、カナダと並んで世界最高レベルに達している。

また、100万人当たりの死亡者数は約140人(同)で、主要7カ国(G7)のなかで日本に次いで死亡率が低いカナダ(約780人、同)と比べても段違いに低く抑えられている。

そんな状況にもかかわらず、いまだに「コロナ対策が経済より優先」との姿勢を崩さない政府の姿勢から透けて見えるのは、いくらワクチン接種率を高めて重症・死亡者数を抑えても、結局のところ「感染(の発生)は悪で許容できない」という固執した考えばかりだ。

こうした過剰防衛とも言える考え方が変わらない限り、消費・投資意欲が改善されることはないだろう

もしそれが国民の間に根差した「空気」だと言うなら、日本経済を守る観点から、政府が自らそうした空気を払拭するような情報発信をすべきと筆者は考える。

以前の寄稿でも指摘したが、「高いワクチン接種率」は手段であって、その目的は「経済・社会の正常化」だったはずだ。

少なくともアメリカやイギリスはそうした順序をわきまえた戦略を採用しているが、日本では手段が目的になってしまっているように見える。そしてそのことが、2022年の日本経済に暗い影を落としているように思える。

絶対に避けたい「2021年のリプレイ」

目下感染拡大が続くオミクロン株への懸念は、米政府の首席医療顧問を務めるファウチ博士が「これまでのところ、重症化の度合いはそれほど高くないようだ。これは勇気づけられる兆候だ」と発言(12月7日)したのをきっかけに後退し、金融市場は息を吹き返した。

かたや日本では、冒頭で引用した岸田首相の演説内容に加え、厚生労働省が(オミクロン株を念頭に)入国2週間以内の全陽性者を入院させる方針を打ち出すなど、再び不穏な空気がただよっている。

変異株の全貌はまだ明らかになっていないため、予断を許さない状況であることは間違いない。しかし、事実関係とは別に、首相演説や政府周辺の動きなどから、何やら悪い予感を抱いてしまうのは筆者だけではあるまい。

確かに、日本でも早々にオミクロン株が発見されているが、新規感染者数は依然きわめて低い水準に抑制されている。にもかかわらず、いずれ来るかもしれない感染拡大を理由に、経済正常化まで躊躇(ちゅうちょ)する姿勢を大々的に発信するのはいかがなものだろうか。

いま注力すべきは、緊急事態宣言を2度と発出しなくて済むように医療資源を確保することであり、経済社会活動の再開を戒めることではないはずだ。

防疫対策や医療体制についてここで議論するつもりはないが、経済・金融の専門家としての視点から筆者に言えるのは、こうした日本特有のコロナへの向き合い方が、欧米との成長率格差に直結している可能性は非常に高いということだ。

2021年下期(7〜12月)はデルタ株、供給制約、資源高、インフレ高進などコロナ危機からの回復を阻むさまざまな問題が浮上したが、それらはいずれも世界共通の足かせであって、日本経済だけが沈む理由にはならない。

しかし、現実には日本経済だけが沈んだ。第1四半期(1~3月)から第3四半期(7~9月)までの実質GDP成長率(前期比年率換算)の平均を比較すると、アメリカがプラス5.0%、ユーロ圏がプラス5.5%、日本だけがマイナス1.9%だった【図表1】。

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【図表1】日米欧の実質GDP成長率(2021年第1四半期から第3四半期の平均、前期比年率換算)。

出所:Macrobond資料より筆者作成

日本の潜在成長率はもともと高くないことを加味しても、異様な格差が見てとれる。

2021年4月以降、およそ6カ月間にわたって緊急事態宣言あるいはまん延防止等重点措置のもとで行動制限を続けてきた結果としか説明のしようがない。

2022年、同じような展開に陥ることだけは絶対に避けねばならない。

為替も株価も「日本回避」

そうやって低迷を続けた2021年の日本経済への評価は、為替市場では全面的な円安、株式市場では先進国に比べて劣後した株価上昇率という形で現れた

下の【図表2】【図表3】を見ると一目瞭然だ。

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【図表2】G7およびアジア通貨の名目実行為替相場の推移(2021年1月1日を100とする)。一番下を這うグレー線が日本円。

出所:Macrobond資料より筆者作成

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【図表3】主要国の株価指数の推移(2021年1月1日を100とする)。一番下を這うグリーン線が日経平均株価(日経225)だ。

出所:Macrobond資料より筆者作成

失敗の経験から学ばずに同じことがくり返されれば、2022年も「日本回避」が続くことになる。

とりわけ、最近の円安傾向については、日本の購買力低下を通じて成長率を貶めるという見方がようやく市民権を得るようになってきた。

アベノミクス最盛期の2013~14年にそのような主張をしても批判されるばかりだったが、いまは足もとの資源高も相まって、「悪い円安」への危機感が高まっている。

本寄稿の前半で指摘したような「コロナ対策>経済成長」という政府の態度、あるいは国民の空気が変わらない限り、2021年と似たような成長率低迷の構図が再現される可能性は高く、そうなれば円安はより一段と進むことが予想される。

それが国民の生活に良い影響を及ぼさないことは言うまでもない。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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