半導体不足がグローバル自動車産業の重い足かせとなるなか、米調査会社ガートナー(Gartner)が大胆な、しかし納得の予測を公表した。写真は独インフィニオン製のマイコン。
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半導体不足が世界中で深刻化するなか、その影響を最も直接的に受けて苦しむ自動車業界について、米調査会社ガートナー(Gartner)がきわめて興味深い予測を発表している。
同社によれば、長期化する半導体不足、それと並行して進む電動化、自動運転化のトレンドを受け、グローバル自動車メーカー上位10社のうち半分が、2025年までに半導体設計の内製化に動くという。
結果として、(足もとで不透明化している)製品ロードマップやサプライチェーンのコントロールが可能になる。
ガートナーのバイスプレジデント(調査・アドバイザリー担当)ゴーラフ・グプタ氏は次のように指摘する。
「車載半導体のサプライチェーンは複雑です。完成車メーカーにとって、半導体メーカーは伝統的にTier3(三次)あるいはTier4(四次)サプライヤー(部品メーカー)の位置づけなので、自動車市場の需要に影響をもたらす変化があったとしても、それに対応するにはしばらく時間がかかります。
そうしたサプライチェーンの見通しの悪さを問題視した自動車メーカーは、半導体供給をこれまで以上にしっかりコントロールしたいと考えるようになっています」
また、足もとの半導体不足は主に、生産能力の増強が難しい8インチ(200ミリ)の小口径ウェハーに、成熟したプロセステクノロジーを使って製造した半導体デバイスで起きており、自動車メーカーにとっては悩ましい課題が露呈した形だ。
「自動車業界にとっては、一世代前の半導体デバイスを最先端(12インチ)の大口径ウェハーに置き換えるのをためらってきたことが災いしました。そのことも半導体設計を内製化するモチベーションになるのではないでしょうか」(グプタ氏)
ガートナーによれば、設計内製化(業界的には「OEMファウンドリー・ダイレクト」と呼ばれる)は自動車業界にとどまらず、テック企業にも波及していくトレンドになりそうだ。
いまや台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)やサムスンなどファウンドリー(受託製造)事業を手がける企業が最先端の製造プロセスを提供してくれる。
カスタム半導体の設計を容易にしてくれる高度なIP(回路ブロック)を提供するベンダーも存在し、内製化のハードルは格段に下がっている。
実際、日本勢ではトヨタ自動車と系列の部品大手デンソーが2020年4月、ミライズ テクノロジーズ(MIRISE Technologies)を設立し、内製化に向けた車載半導体の開発を進めている(ただし、進捗についてはまだ具体的な情報が出てきていない)。
車載半導体市場のゆくえ
自動車市場では近年、事故や衝突を未然に防ぐ「先進運転支援システム(ADAS)」の機能向上の取り組みが本格化し、そのために車載半導体へのニーズが急増している面もある。
また、日本ではまだ実感がわかないものの、世界に目を向ければ、電気自動車(EV)の普及が急速に進んでおり、その中核部品とも言えるパワー半導体(=電力・電圧制御を通じてパワートレインの効率化に寄与する)はじめ車載半導体の需要が「爆増」基調にある。
米市場調査会社KBVリサーチによれば、車載半導体の市場規模は2021〜27年に年平均6.3%という高成長が続き、27年に605億ドル(約6兆6500億円)に達する見通し。
(文・訳責:川村力)