女性が労働の半分以上を行っているが、労働所得に占める割合は35%に過ぎない。
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- 経済データを使った大規模な調査で、女性への所得分配率はこの30年間であまり変わっていないことが分かった。
- 多くの国で、女性の教育水準が男性を上回っているにもかかわらずだ。
- この格差の原因のひとつは、女性が「実質的に多くの時間」を無給の介護や子育てに費やしていることにある。
世界的に見ると、女性の労働所得は全体の約3分の1に過ぎないが、労働の量が少ないということではない。
1990年以降、多くの国で大学教育を受けた女性の数が男性の数を上回っているにもかかわらず、この数字はほとんど変わっていない。
トマ・ピケティ(Thomas Piketty)、ガブリエル・ズックマン(Gabriel Zucman)、エマニュエル・サエズ(Emmanuel Saez)といった経済格差研究の第一人者が執筆した初の報告書「世界不平等レポート2022(World Inequality 2022 Report)」によると、世界全体の労働所得に占める女性の割合は、1990年代前半には約30%だったが、現在では35%弱だという。
「男女平等の世界であれば、女性は労働所得全体の50%を稼ぐことができる」と同研究チームは書いている。
「この30年間では、世界レベルで見ると進展は非常に遅い。また国によって動きが異なっていて、所得に占める女性の割合が向上した国もあれば低下した国もある」
世界各地で労働力の男女格差が生じている原因にはいくつかの構造的な理由がある。つまり、女性が特定の業界で昇進できない、あるいは特定の職業から女性が完全に締め出されるような差別が存在しているのだ。また、女性は子どもや高齢の家族の世話をすることが圧倒的に多いため、給料をもらえる仕事に就くことができないのだ。
「このレポートの内容は、女性の仕事が過小評価されていることを明確に示すものだと思う。女性の賃金は低く、賃金格差は世界中に広がっている」と、全米女性法律センター(National Women's Law Center)のリサーチディレクター、ジャスミン・タッカー(Jasmine Tucker)はInsiderに述べている。
女性は男性よりも高学歴であることが多いにもかかわらず、男女間の賃金格差を生んでしまう重要な要因をこの報告書は明らかにしている。最初の大きな問題は、仕事の種類によって価値観が異なること、そして性別によってキャリアアップの機会が限られてしまうことだ。
いずれの場合も、問題は採用時にある。ある業界では女性は除外されていて、またある業界では女性が入社できたとしてもキャリアアップの可能性を妨げられてしまうことがあるという。
例えば、2016年に発表したマッキンゼー(McKinsey)のレポートによると、自動車業界の新入社員に女性が占める割合はわずか26%にとどまっている。
テクノロジー業界も同様に厳しい状況だ。マッキンゼーによると新入社員に占める女性の割合は37%だという。
またヘルスケアや製薬会社では、新入社員では女性が59%と圧倒的に多いものの、昇進できるのは少数派である。
なぜ女性の賃金は低いのか。世界のどこで停滞しているのか
T.ニーフ(T.Neef)とA.Sロビリアード(A.S.Robilliard)の研究に基づいた不平等レポートの男女不平等に関する章では、労働所得に占める女性の割合は30年前に比べてあまり増えていないことを示している。例えば、北米では30年間で34%から38%に増えただけで、中国では減少している。
「女性が全収入の50%を占めるようになるために我々が正しい方向に進んでいるかを確認しなければならない。我々は、働きたいと思う女性が働けるようにしなければならない」とタッカーは述べた。これには、最低賃金の引き上げや有給休暇のようなものも含まれる。
全世界でこの格差が残っている理由のひとつは、女性が子育てや介護など無給の労働に費やす時間が男性よりも「大幅に多い」ことだ。これはすべての地域に当てはまる。
「女性の労働は世界中で低い評価を受けている。世界的に見ても子育てや介護の責任を担っているのは女性が圧倒的に多く、それらのすべてが女性の賃金に影響を与えている」とタッカーは話している。
新型コロナウイルスのパンデミックによってこの状況が悪化しているのは、女性がより多くの介護の役割を担うようになったことと、託児所に空きがないなどの子育ての問題で場合によって労働できなくなるケースがあるためだ。働きたいと願う女性をサポートするために「アメリカはもっと多くのことができるはず」とタッカーは述べている。
「そうすれば、女性がパートタイムでしか働けなかったり、パンデミックのために一時的に労働から離れなければならなかったりした場合でも、多くの家庭で収入が増えるだろう」
[原文:All the women on Earth make about half as much money as the men. That's barely changed since 1990.]
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)