いきなりですが、私が開発した「プロティアン・キャリア診断」に挑戦してみてください。
所要時間はたったの1分。該当する項目に「1」と書き込んでいき、最後に足し合わせます。過去にトライしたことがある人も、改めて挑戦してみてください。
プロティアン・キャリア診断はすでに3万人以上の方に実施してもらっています。15点満点中、あなたは何点になりましたか?
設問はどれも簡単ですが、これであなたのキャリア形成のコンディションを把握することができます。得点ごとの診断結果を3つに類型すると——。
12点以上の方はプロティアン人材。日頃から自ら主体的にキャリアを形成し、変化にも対応できる行動状態にあります。
4〜11点の方はセミプロティアン人材。キャリア形成はできているものの、変化への対応力が弱い行動状態にあります。
3点以下の方はノンプロティアン人材です。現状へのキャリア維持にとどまり、変化にも適応できない行動状態にあります。
筆者作成
このプロティアン・キャリア診断を開発した背景には、主に2つの狙いがあります。
1. キャリア形成を日常的にセルフチェックできるようにする
組織内キャリアから自律型キャリアへの転換期のただ中で働く私たちは、自ら主体的にキャリアを形成していかなければなりません。この歴史的転換期が持つ本質的な意味合いは、「キャリアを組織に預けるのではなく、自らのキャリアは自ら守っていく」ということです。キャリア形成のセーフティネットが弱体化していく中で、私たちは人生100年時代を生きているのです。
そうした時代状況の中で、「守る」のではなく「攻める」ことでキャリアを築いていくのがプロティアンキャリアです。「攻める」というとちょっと物々しいかもしれませんが、要するに、自ら変化に適合しながらアクションし続けることがキャリア形成につながる、ということです。
個々の能力差は微々たるものですが、行動量の差は、これからますます圧倒的な違いとなって現れてきます。組織にキャリアを預けて何もしないでいる人と、組織を活かしながら新たなチャレンジをし続ける人とでは、どう考えても後者の人のほうがチャンスを掴めるわけです。
そこで、今の行動状態を自分でチェックするように習慣づけることをお勧めします。アスリートがフィジカル・コンディションをチェックするのと同じように、ビジネスパーソンも自らのキャリア・コンディションを把握しておくようにするのです。
ここで重要なポイントは、この診断点数は「自ら加点していくことができる」という点です。例えば、あなたがプロティアン・キャリア診断を試してみたところ、7点だったとします。
仮に「海外の社会変化に関心がある」という項目にチェックがつかなかったのなら、翌朝からCNN、BBC、New York Timesなど、海外のニュースをチェックする習慣を始めればいいのです。
SNSのフィードは多くの場合、アルゴリズムによって「自分の関心に限定された情報」ばかり選定されて届きます(私のInstagramはフィットネスとテニスの動画ばかりです。困ったものですね)。したがって、これまでとは違う情報に触れるなら、自ら意識的に行動を起こす必要があるわけです。
このようにして自ら変化を起こすことで、あなたのスコアは1点増えて8点になりますね。同様に、他の項目でも行動を一つひとつ変えていくことでスコアを改善することができます。
2. 行動適正から行動変容へとキャリア知見を発展させていく
私がプロティアン・キャリア診断を開発した2つ目の狙いは、キャリアを行動適正で捉えるのではなく、行動変容で捉えていくようにすることです。
あなたもこれまでに、適正診断(タイプ別診断)や適職診断など、さまざまな場面で行動適正診断を受けてきたのではないでしょうか? 数十問に及ぶ設問に答えていくと、「あなたのタイプは○○○です」と診断される類のものです。
しかしこうした診断はあくまで、あなたの行動への認識や思考の特性から「他の人たちと比べて」「相対的にこのタイプにカテゴライズされます」と言っているにすぎません。
もちろん、「私はAタイプ、あなたはBタイプ」という集団内比較のきっかけにはなりますが、それが働くうえでどんな意味を持つのかについては立ち止まって考えてみる必要があります。
加えて、これだけ変化の激しい時代に「変わらないもの」を判断するより、変化に適合しながら「変わっていくもの」を抽出する方が得策ではないか、という見方もできます。
そこでプロティアン・キャリア診断では、「行動適正」ではなく「行動変容」を把握できる設問群を用意しました。これによって、自ら変わっていくこと、行動を変容させていくことを客観的に診断していくことが可能になるのです。
もちろん、プロティアン診断の各設問は、本連載でも紹介してきた「キャリア資本論」にも対応しています。キャリア資本との対応表は、次の通りです。
キャリア資本で捉えることがなぜ大切かというと、蓄積と転換のモデルで考えられるようになるからです。ビジネス資本と社会関係資本はどちらも、これからのキャリア形成に欠かせない資本。プロティアン・キャリア診断を定期的にチェックしながら、ビジネス資本と社会関係資本のバランスを把握していくようにしましょう。
キャリア形成で悩んでいる人の多くは、「自らのタイプを決めつけ」、新たなチャレンジに自らブレーキをかけています。行動適正で自己の特徴を把握すること自体は、悪いことではないのですが、それによって自己を規定したり、抑制する必要はありません。
昨今では「リスキリング」という言葉をよく耳にしますが、この言葉が示唆するとおり、人はいつからでもどこからでも、学び直すことができます(ちなみに私は、「リスキリング」より「アップスキリング」という表現を好みます。再び学ぶというより、学び続けるというキャリア開発を大切にしたいからです)。
私たちは、自ら行動変容を起こしていける。そして新たな行動の積み重ねによって、キャリア資本は着実に形づくられていくのです。
キャリア資本は一日にしてならず。目の前の行動を一つひとつ変えながら、人生100年時代をキャリア・サバイブしていきましょう。
それではまた次回!
この連載について
物事が加速度的に変化するニューノーマル。この変化の時代を生きる私たちは、組織に依らず、自律的にキャリアを形成していく必要があります。この連載では、キャリア論が専門の田中研之輔教授と一緒に、ニューノーマル時代に自分らしく働き続けるための思考術を磨いていきます。
連載名にもなっている「プロティアン」の語源は、ギリシア神話に出てくる神プロテウス。変幻自在に姿を変えるプロテウスのように、どんな環境の変化にも適応できる力を身につけましょう。
なお本連載は、田中研之輔著『プロティアン——70歳まで第一線で働き続けるキャリア資本術』を理論的支柱とします。全体像を理解したい方は、読んでみてください。
田中研之輔(たなか・けんのすけ):法政大学教授。専門はキャリア論、組織論。社外取締役・社外顧問を23社歴任。一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事、UC. Berkeley元客員研究員、University of Melbourne元客員研究員、日本学術振興会特別研究員(SPD東京大学)。著書は『プロティアン』『ビジトレ』等25冊。「日経ビジネス」「日経STYLE」他メディア連載多数。〈経営と社会〉に関する組織エスノグラフィーに取り組む。