JPモルガンで定量的研究チームを率いるマルコ・コラノビッチ(Marko Kolanovic)は、市場を動かすような発言をすることで知られる。現在彼は投資家向けに、2022年は2021年と比べてどんな変化が起きそうかという予想を立てている。
コラノビッチは、このところずっと株式市場で強気の予想を続けており、年明けになってもそれは変わらないものとみられる。同氏はクライアント向けの最近のメモの中で、これまでは「コロナ禍での勝者」が過大評価される傾向にあったが2022年には投資家はよりリスクの高い資産の購入を選択することになるだろうと述べている。
JPモルガン社で定量的研究チームを率いるマルコ・コラノビッチ。
Hollis Johnson/Insider
「2022年はパンデミックが収束し世界が完全に回復する年になるだろうと我々は見ています。経済と市場はコロナ禍以前の水準に戻るでしょう。我々の見立てでは、シクリカル資産とシクリカルバリュー(景気敏感の割安株)が高パフォーマンスで推移し、リスク資産とボラティリティ資産が回復する一方、これまでコロナ禍の恩恵を被ってきた市場セグメントのディフェンシブボンドプロキシ(防衛的債券プロキシ)は向かい風に打たれることになるでしょう」と、彼は書いている。
コラノビッチはまた、2022年の主要テーマとして、原油価格の上昇、人流の再開、サプライチェーンの混乱緩和、中国をはじめとする新興市場の環境改善、利回り曲線の上昇に伴う金利上昇などを挙げた。また、「旅行、レジャー、体験」というテーマには、非常に魅力的なリスクリワード(報酬)があるという。
本稿では、コラノビッチがその他の株式市場の好機を地域別(アメリカ、ヨーロッパ、新興国、日本)、セクター別、テーマ別に分析した結果を紹介する。
アメリカ
コラノビッチが示した2021年末ターゲットの「5050」という数字は、S&P500が2022年に現在の水準から約7%上昇することを意味している。その大半は2022年上半期に達成される可能性が高いと述べた。
「特に最近の景気後退を踏まえると、プロシクリカル(景気連動性が高い)傾向が続くと見られ、景気刺激策に敏感なセクター——(生活必需品・公益事業に比べ)エネルギー・金融、(消費財に比べ)消費者サービス、(他のディフェンシブセクターに比べ)ヘルスケア、(大型株に比べ)小型株が好まれると予想する」と続ける。
また、低ボラティリティ株とバリュー株の間、そして高価株と安価株の間には、バリュエーションに大幅な差があると警告した。バリュエーションが通常の水準に戻り始めれば、バリュー株や安値株がおそらく高パフォーマンスを示すだろうと考えられる。
ヨーロッパ
コラノビッチによると、欧州株は米国株よりも上昇幅が大きい。債券利回りが高ければ、高グロースの米国テック株のパフォーマンスが低調となるからだ。とりわけ、ヨーロッパの素材セクターと銀行セクターについて楽観的な見方を示し、後者についてはこのところの上昇傾向が続くはずだと述べている。
「これらのセクターの財務状況は堅調で、資本利益率も高く、高パフォーマンスにもかかわらず2021年初頭よりも安値で取引されています」と語っている。
さらに続けて、「理論的には、サプライチェーンの問題が改善される可能性から恩恵を受けそうな銘柄だけでなく、ヨーロッパ産業界の事業再編成・グリーン化や二酸化炭素排出量の削減を促進するような位置づけの銘柄も有望視している」と述べている。
また、スイス株よりもイギリス株やイタリア株の方が投資対象として適していると指摘している。
新興国市場
コラノビッチによれば、新興国株の収益改善と大幅な値下がりにより、米国株の上昇幅が約2倍になったという。また、MSCIエマージング・マーケット・インデックスについては18%のリターンと予想している。
「2022年は、新興国市場に対するセンチメント(投資家心理)の(現状の低水準からの)回復、企業収益の強い成長、歴史的な低バリュエーションが落ち着く見通しなどの要因から、米国市場よりも高パフォーマンスとなる見通しであり、国レベルでは、マレーシアやペルーよりも、中国、インドネシア、ロシア、ブラジルが有望」であるという。
さらに「トレンドを上回る世界GDPの成長、ゼロに近い実質金利、ワクチン接種と経済活動の再開、そして米国市場と比較して過去最高となっている新興国市場のERP(訳注:株式リスクプレミアム。株式の期待収益率と無リスク資産の収益率との差のこと。この差がなければ、リスクを取る価値はなく、株式に投資する場合は、そのリスクに見合うだけの十分なリスクプレミアムが必要になる)に牽引された、新興国市場モデルのポートフォリオでのリスク志向の配分を我々は推奨しています」と語る。
こうしたなかで、中国、サウジアラビア、エネルギー銘柄を「オーバーウエイト」に格上げし、南アフリカ、台湾、資本財銘柄を格下げした。また、ブラジルを「オーバーウエイト」に格上げするとともに、一般消費財株やバリュー株などの「リスクオン」銘柄(この場合は素材、エネルギーおよび銀行)に比重を置くことを提案した。
日本
日本株に対するコラノビッチの期待はもう少し小さいものだった。企業収益は改善するが、政府による経済対策の規模が縮小しているので、こうした企業収益に対して投資家が投資したいと思う額はさらに標準的な水準に戻るだろうと述べている。
「『合理的な価格での成長』(GARP)に投資するスタイル(訳注:企業の成長性と割安性の両方を考慮して投資する方法)がうまくいくのではないかと我々は考えています。
サプライチェーンの問題が解消して収益が回復すると予想される自動車産業、国内インフレ上昇の恩恵を受けると思われる不動産産業、設備投資の回復の恩恵を受けると思われる機械・ITサービス産業に対しては、我々は強気予想をしています」と結んだ。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)