NFT・ブロックチェーンゲームを開発・運営する「double jump.Tokyo」 CEOの上野広伸さん。
撮影:西山里緒
2021年、ビットコインが史上最高額の700万円超えを記録し、仮想通貨に関するニュースが話題をさらいました。その中でも大きな注目を集めたのは、なんといってもブロックチェーン上のデジタル資産「NFT(Non-fungible Token)」でしょう。
3月にはデジタルアート作家「Beeple(ビープル)」のNFT作品が約75億3000万円で落札され、同時期にはTwitterの創業者、ジャック・ドーシー氏の一番最初のツイートが約3億1600万円で落札されたことで、NFTの知名度が急上昇。
国内でも、コインチェックやGMO、SBIをはじめとして、多くのネット企業がNFTマーケットプレイスに参入しました。2022年、NFTのトレンドはどうなっていくのでしょうか?
NFTをゲームに取り入れた「ブロックチェーンゲーム(NFTゲーム)」の開発・運営を手がける「double jump.tokyo」CEOの上野広伸さんに、「2022年のNFTブームを占う6つのキーワード」を挙げてもらいました。
1. NFTはキャズム超えの前夜
今やテレビや雑誌でも取り上げられるようになったNFT。けれど、実際にNFTを購入した経験はないという人が大半なのが現実なのではないでしょうか。 マーケティングの理論のひとつに「キャズム理論(図参照)」というものがあります。
キャズム理論:新サービスなどが世に出たとき、技術やサービスを「受け入れやすい顧客(期市場)」と「受け入れにくい顧客(メインストリーム市場)」がおり、サービスが受け入れられるために超えなければならない障壁(キャズム=溝)を表したもの。
画像:Shutterstock
2020年までは仮想通貨やNFTというのは、全体からするとごくわずかなイノベーター層までにしか届いていなかった。それが今年になって、アーリーアダプター層に広がった。 アーリアダプター層というのは、人口全体の15%ほどを占める、次の流行を先取りするインフルエンサーのような人たちです。
この後に、全体の3割超を占める「アーリーマジョリティ層」に届けば、マス(過半数)がその技術を受け入れたことになります。
NFTは今、アーリーマジョリティ層に届く前にある「キャズム(溝)」を超える一歩手前の所に来ていると思っています。 とはいえ、利用者がまだマス層にまで広がっていないにも関わらず、市場規模がすでに非常に大きくなっており、マスアダプション(大規模な普及)された際のポテンシャルは計り知れない状態です。
これはビジネス関係者にいうとビックリされるのですが、世界最大のNFTマーケットプレイス「OpenSea」の8月の月間流通総額は約3500億円(Dune Analyticsのデータより)。これは同時期のメルカリの四半期の流通総額よりも大きい数字(※)です。
※Openseaの月間ユーザー数(月に1度でも取引をしたことのあるユーザー)は9月時点で約30万人、メルカリの同期間の月間利用者数は約2000万人と、ユーザー数には大差がある
市場規模は大きいにも関わらず、マス層にはまだ来ていない。この点を踏まえて、2022年以降のNFTを考えるにあたり「キャズムをどう超えるか」が重要になるでしょう。
2. 保有するNFTから、使えるNFTヘ
The Sandbox:世界で4000万DLを記録したモバイルゲームのブロックチェーン版。ユーザーはメタバースと呼ばれる仮想空間上にLAND(土地)を購入し、アートなどを売買できる。
画像:The Sandbox
僕の予想では、キャズムを越えてアーリーマジョリティ層に届けるうえで重要になるのはゲームです。というのも、ブロックチェーンに限らず、新しいテクノロジーはゲームから浸透していくことが多いからです。
ゲーマーは、比較的ITリテラシーがあり、新しい技術を受け入れやすい。インターネット自体もそういう側面がありましたし、最近注目されているメタバースもゲームがきっかけとなって火がついています。 メタバース関連のゲームといえば「The Sandbox(※1)」や「Decentraland(※2)」です。
これは後述しますが、NFTとも非常に親和性が高い。
(※1)The Sandbox:世界で4000万DLを記録したモバイルゲームのブロックチェーン版。ユーザーはメタバースと呼ばれる仮想空間上にLAND(土地)を購入し、アートなどを売買できる。
(※2)Decentraland:イーサリアムを基盤としたゲーム。土地や不動産、服、ユーザーネームなどがNFTとしてブロックチェーンで管理されており、「MANA」というトークン(仮想通貨の一種)で売買できる。
2021年に流行したNFTは、アートとか「コレクタブル」と呼ばれるコレクターズアイテムが中心でした。NBAのオフィシャルトレーディングカードの「NBA Top Shot」はその代表例ですよね。日本にも、スクウェア・エニックスが開発したNFTデジタルシール「資産性ミリオンアーサー」などがあります。
でもアートやコレクターズアイテムだけだと、具体的なユーティリティが生み出しにくく、市場の広がりが限定的になります。 そのため、ここから市場がさらに広がっていく際には、ゲームで使い道のあるNFT ── これを専門用語でいうと「ユーティリティ(実際に使える)NFT」と言いますが ── が2022年、流行っていくでしょう。
3. なぜナイキやグッチがNFTに参入するのか
バーバリーは「Blankos Block Party」というNFTゲームとコラボし、オリジナルのアバターNFTを売り出した。
画像:バーバリー公式サイト
では「ユーティリティ性のあるNFT」とはどういうものを指すのでしょうか?
具体的には、ゲームで使えるアイテムやキャラクターがそれです。 しかし現状では、NFTのキャラクターやアイテムをゲーム内で実践的に使うには、まだハードルが高いでしょう。
イーサリアムが高騰していることにより、データの送受信にお金(取引手数料、ガス代とも呼ぶ)がかかり、1回のアイテムの送信だけで数万円になることもあるからです。 そんな中でも注目を集めているNFTとして「ファッションNFT」があります。
今、多くのファッションブランドがNFTに参入しています。バーバリーやルイ・ヴィトン、グッチなど、その多くは誰もが知るラグジュアリーブランドです。
なぜファッション業界が、NFTに乗り出すのでしょうか。ファッション業界では、「フィジカル(物理的なもの)からデジタルへ」は、ここ数年トレンドになっていました。
ファッション業界は今、大量生産によりCO2を多く排出する産業として批判されるようになっています。さらにコロナ禍によって大規模なファッションショーができなくなったことで、「バーチャル世界でのファッション」が今まで以上に注目されるようになりました。
アバターを着せ替えて楽しむSNS「Zepeto(ゼペット)」がラルフローレンとコラボし、アプリ内でバーチャルウェアを購入できるようになったのもその一例です。オンラインゲーム「Fortnite(フォートナイト)」もナイキやバレンシアガなどとコラボしています。
NFTはこの動きを加速します。すでにバーバリーは、「Blankos Block Party」というNFTゲームとコラボし、オリジナルのアバターNFTを売り出しています。これからこのような事例は増えていくでしょう。
4. GameFiという言葉は日本では受け入れられづらい
2021年にNFTゲームで注目を集めたのは「GameFi(Play to Earn)」という言葉でした。
※GameFi(ゲーミファイ)/Play to Earm(プレイ・トゥ・アーン):ブロックチェーンにおける金融の仕組みをゲーム化したもの。ユーザーはゲームをプレイすることで仮想通貨などの報酬を得ることができる。
もっとも有名なのはベトナムで生まれた「Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)(※)」です。10月にはアンドリーセン・ホロウィッツなどの著名なVCから166億円の資金調達も達成しました。
※Axie Infinity(アクシー・インフィニティ):イーサリアムベースのブロックチェーンゲーム。アクシーというNFTモンスターを手に入れ、育て、バトルさせる。ゲームを進めることでユーザーはトークンを手に入れられる。ユーザーが実質的に“稼げる”ゲームとして大きな人気を集めた。
画像:Axie Infinity公式サイト
しかし、このワーディング(言葉遣い)では生粋のゲーマーの心に響かない可能性があります。
例えば、ルイ・ヴィトンのような高級ブランドが「これは必ず高値になります」とバッグを売り出したとして、それを買うでしょうか?何も言わずに売り出して、いいなと思って買ったら高値になった、の方がかっこいいですよね。
同じように、面白さを求めてゲームをやっていたら、結果的にゲームで稼げるようになった、の方がカッコいいじゃないですか。
「稼げるからゲームしてね」を打ち出しすぎると「俺たち、別に稼ぐためにゲームやってんじゃないよ!」と反発がくると思います。 そういう観点から、キャズムを超えるためには、GameFiより適切なワーディングがあるんじゃないか、と考えています。
5. ゲームのIP(版権)は“民主化”される
さらに抽象的な話をしてみましょう。
NFTを使えば、キャラクターやアイテムはユーザーが所有することになります。
そうすると例えば、キャラクターの二次創作を許諾するのか、しないのかという「IP(版権)の扱い方」も、ユーザー側の意見を取り入れることが主流になっていくでしょう。
NFTを使えば、オリジナルの作品と二次創作は明確に区別することができます。 ゲーム開発者としても、二次創作を許諾してユーザーに広めてもらったほうが、オリジナルのNFTの価値を高めることにつながる。いわばWin-Winの関係を築くことができるのです。
そもそも、ブロックチェーンは「分散型台帳」とも呼ばれるように、中央集権ではなく、分散型で物事を決める思想とも親和性が高い。ゲームの運用方針そのものをユーザーに一部分委ねるサービスも出てくるでしょう。
double jump.tokyoで開発を手がけていたブロックチェーンゲーム「My Crypto Heroes」も、「MCH Coin」という独自の仮想通貨(トークン)を使い、運営方針をユーザーが決める制度を導入しています。
ゲームの世界観をユーザーと一緒に作り上げていく。そうすることでユーザー側も愛着を持ちます。僕はこれを「IPの独裁政治」から「民主化」と呼んでいます。
6. メタバースとNFTがかけ合わさった世界とは?
Facebookは、メタバース事業だけではなくブロックチェーン(NFT)事業にも参入している。
画像:mundissima / Shutterstock.com
FacebookがMeta社に名前を変えたことで注目されているメタバースもNFTと非常に親和性が高く、2022年のキーワードになるでしょう。
メタバースとNFTの関係性についても改めて整理しておきましょう。
メタバース=VRというイメージが先行していますが、個人的には「メタバース」は「ライブコミュニケーション(同期)性のある世界(SNS)」であり、必ずしもVRを使って操作するものだけとは限らないと考えています。
今までSNSというのは、TwitterにしてもFacebookにしてもインスタグラムにしても、個々人が都合の良い時に情報をシェアする(非同期的な)ものでした。
その一方、メタバースが実現しようとしているのは、それを同期(ライブ)でやるということ。そこでは会話をしたり仕事をしたり、ほとんど実生活と変わらないコミュニケーションを取れるようになるでしょう。イメージとしては「あつまれ どうぶつの森」でしょうか。
しかし今までは「実生活と変わらないコミュニケーションをする」といっても、そこでのやり取りは、そのサービスの開発者に依存していました。
例えば「あつ森」で集めたアイテムは、ゲームが終わったら消されてしまう、もしくはゲーム運営事業者の一存で消してしまうことができる状況でした。
一方で、NFTを使えば、そこでのアイテムのやり取りはたとえサービスがなくなっても残り続けることになります。また理論上は、そのアイテムを、アプリやサービスをまたいで使うことも可能です。
一つの世界に閉じない、「オープンな」メタバースの実現のために、NFTは重要な要素となる。だからこそ、メタバースの盛り上がりとともに、NFTの需要が高まっているのです。
(取材・文、西山里緒)