Metaverse Thinkhubstudio
フェイスブックが社名を「メタ」に変更してから、メタバースが最新のバズワードとなっている。この曖昧な言葉は、一過性の流行ではなく、今後の大きなテーマとなりそうだ。
2021年12月9日、マーク・ザッカーバーグ率いるメタは新たなステップとして、アメリカとカナダの成人消費者向けに仮想現実(VR)ゲーム「ホライズン・ワールズ(Horizon Worlds)」を無料でリリースした。メタによると、メタバース関連の投資により、2021年の同社の営業利益は100億ドル(約1兆1000億円)程圧縮されるという。
メタの影響もあり、メタバースという概念は広く認知されるようになったうえに、今後の競争力を獲得しようとするIT企業にとって最優先課題となった。投資運用会社バーンスタインのアナリストによると、各社の第3四半期決算報告会において、「メタバース」という言葉は計449回も使用され、その数は第2四半期の4倍にのぼった。
メタバースはテックマニアだけのものではない。マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツは、ほとんどのオンライン会議は3年以内にメタバースに移行し、従業員はVRヘッドセットとアバターを通してお互いにやりとりするようになるだろうと予想する。既に結婚式、ファッションショー、音楽コンサートがメタバース上で行われている。その結果、各デジタル資産の価格は数百万ドル(数億円)に急上昇している。
暗号通貨投資家は、アクシー・インフィニティ(axie infinity)などメタバース関連暗号通貨の価格の急上昇に注目している。ウォール街の投資家たちにとっては、メタバースから生まれる収益機会は始まったばかりだ。メタバースは、IT、エンターテインメント、教育、小売など広範な業種に影響を与える。
アメリカの消費者のメタバース関連支出総額は8兆3000億ドル(約930兆円)に達する可能性がある、とモルガンスタンレーのアナリストは言う。バーンスタインのアナリストは、メタバース関連の市場規模を2兆ドル(約220兆円)と推定し、さらに拡大が続くと予想している。エバコアISIのアナリストは、今後10年以内にメタバースが数兆ドル(数百兆円)の価値を生み出すと見込んでいる。アークインベストのキャシー・ウッド(Cathie Wood)CEOは、メタバースは数兆ドル規模の収益機会を生み、「今はまだ想像もできない 」方法で経済のあらゆる側面に影響を与えるだろうと述べた。
では、投資家はメタバースが提供する機会をどのように捉えるべきなのか? 次なる大きなテーマに賭ける場合、どのような可能性とリスクがあるのか。ウォール街のアナリストたちの意見は次のとおりだ。
バーンスタイン:テクノロジーの進化で機能的でシームレスな世界に
マーク・シュマリック(Mark Shmulik)を筆頭とするバーンスタインのアナリストは、12月7日付のレポートの中で、メタバースはインターネットを利用したコネクティビティにおける「自然な流れ」になると述べている。「テクノロジーの進化によってデジタルな現実と物理的な現実の差異が縮小すれば、メタバースはより機能的でシームレスな世界となるでしょう」
メタバースの新しい利用法が現れたからといって携帯電話やPCが突然なくなるわけではないが、メタバースの片鱗はすでに存在しているとシュマリックは言う。既に存在する例としては、フェイスブックのQuest、マイクロソフトのHoloLens、Apple Watchなどのハードウェア、フォートナイト(Fortnite)やロブロックス(Roblox)などのバーチャルゲーム、さらにはスナップチャットのシティ・ペインター(City Painter)やナイアンティックのポケモンGO(Pokémon GO)などがある。
シュマリックらの試算によると、メタバース関連市場は2兆ドル(約220兆円)以上に成長する可能性がある。シュマリックは、「今は導入曲線の初期段階にあり、現在のメタバース技術はまだ多くのユーザーが必要とする価値を提供していないため、(予想市場規模達成の)時期はまだ不明です。しかし、今後数年間、S字カーブを辿りながら、多くの市場で収益の増加と機会が実現されることになるでしょう」と述べている。
ジェフリーズ:まずはゲームやエンターテインメントから
サイモン・パウエル(Simon Powell)率いるジェフリーズのアナリストは、12月6日付レポート中で、メタバースは「人類が経験したことのない最大のディスラプション(創造的破壊)」となり、「あらゆるもののデジタル化」につながる可能性があると述べている。しかし、ひとつのメタバースが実現するには、少なくとも10年はかかるかもしれない。
パウエルは、メタバースがいずれ人間の活動のすべての側面を網羅するようになると予想しているものの、まずはゲームやエンターテインメント、ソーシャルメディアの世界から始まると考えている。
ゲーム分野では、ロブロックス、マインクラフト(Minecraft)を所有するマイクロソフト、フォートナイトを作った非上場企業エピックゲームズ(Epic Games)などが、すでにメタバース的な体験を生み出している。また、アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)、 エレクトロニック・アーツ(Electronic Arts)、テイクツー・インタラクティブ・ソフトウェア(Take-Two Interactive Software)などの伝統的なゲームメーカーも、未来のメタバースを構築しようとしている。
投資家は、ディセントラランド(MANA)やザ・サンドボックス(SAND)などのブロックチェーンを利用したゲームにも投資機会を見出すことができる。パウエルは、「この分野で画期的なのは、ゲーム開発で獲得・創出した資産をゲームの外に持ち出し、物理的現実またはデジタル現実の世界で利用できることです。ブロックチェーンを利用したゲームは、他のマルチプレイヤーゲームが持つ、資産をゲームの外に持ち出せないという閉鎖的な性質を克服しようとしています」
モルガンスタンレー:総市場規模は8兆ドルでも導入は容易ではない
ブライアン・ノワック(Brian Nowak)率いるモルガンスタンレーのアナリストは、メタバースはオフラインの実在する製品の広告やEコマースのプラットフォームとして機能すると見込んでおり、収益化の対象となるアメリカでの消費者支出は8兆3000億ドル(約930兆円)に達すると予想する。
「総市場規模が巨大であるにもかかわらず、既に存在するデジタルメディアやEコマースのサービスが充実しているため、素早く、容易にメタバースの導入が進むことはないかもしれません」とノワックは2021年11月16日付のレポートの中で述べ、次のように続けている。
「つまり、いずれのメタバースも、導入促進のためにパートナーと組むか、あるいは導入を一気に加速させるため、独自で新しいキラーアプリやキラーサービスを開発する必要があります。最終的には、メタバースが何億人もの消費者の課題を解決できるか否かがカギとなります」
また、規制やプライバシー侵害の可能性も、メタバース導入の課題となるだろう。ソーシャルメディアのユーザー数は、ターゲット型広告、過度な収益化、サイバーセキュリティなどの問題に直面しながらも増え続けている。しかし、消費者がメタバースでこうした慣行を受け入れるかどうかは不明だとノワックは考えている。
「今後10年以上を考えても、何億人もの人々が、自分が誰と何をしているのかといった詳細なデジタル情報を共有することを選択するかどうか、確かではありません」
それでも、ノワックのチームは、メタバースの可能性に投資するための有力な銘柄として、フェイスブック(メタ) 、ロブロックス、スナップ(SNAP)、グーグルなどを挙げている。
(翻訳:住本時久、編集:大門小百合)