語学学習サービス「Duolingo」Android版アプリ。
撮影:西山里緒
累計5億ダウンロード数を突破した語学学習アプリ「Duolingo(デュオリンゴ)」は、2021年7月、NASDAQに上場した。
2012年に設立した同社は、コロナ禍でユーザー数が急増。現在、アプリで40言語を学ぶことができ、すでに全世界のMAU(月間アクティブユーザー)4000万人を突破した。
同社の創業者であり、CEOのルイス・フォン・アーン氏は「中でも日本はとても特殊な市場だ」と語る。フォン・アーン氏は、歪んだ文字列を入力することで悪質なボットと人間を識別するサービス「reCAPTCHA」を発明し、グーグルに売却(2009年)した連続起業家としても知られている。
世界の“日本語学習”事情、そして日本人の語学学習の特徴を、フォン・アーン氏に聞いた。
100万人が365日以上継続している
Duolingoは7月、NASDAQに上場した(写真は創業者、ルイス・フォン・アーン氏)。
画像:Duolingo 提供
「100万人以上の人が、1年間365日、1日も欠かさずにDuolingoを使っている」
同社のCEOで創業者でもあるフォン・アーン氏は、Duolingoは「挫折しづらい語学学習アプリ」だということを、誇らしげに語る。
その背景には、「学習体験のゲーム化(ゲーミフィケーション)」と、「AI(人工知能)による個人の習熟度に合わせたカリキュラム(パーソナライゼーション)」があるという。
例えばユーザーが過去形の問題を何度も間違えたとすると、アプリ側がそれを認識。それだけでなく、得意な問題の傾向もつかみ、ひとつのレッスンには必ず「そのユーザーが得意な問題と、不得意な問題」が混在して出題されるように最適化されるという。
「Duolingoではすべての問題に対して『そのユーザーが正解する確率』がわかっています。より長期間、モチベーションを高めながら勉強が続けられるように、AIで学習を最適化しています」
創業者であるフォン・アーン氏自身、グアテマラ出身のエンジニアという経歴をもつ。
グーグルに売却した「reCAPTCHA」は、同氏のカーネギーメロン大学博士課程での研究を元に開発された。
そうした経緯もあり、Duolingo社はテック系スタートアップでは珍しく、本社を同大学のあるピッツバーグ市に置いていることでも知られている。
日本人は、世界一長く学習する国民
世界各国で学習者の最も多い言語。ミャンマー、フィリピン、タイでは日本語がトップだ
画像:2021 Duolingo Language Report
言語の中でも特に日本語は人気が高まっているという。
2021 Duolingo Language Reportによると、日本語はイタリア語を抜き、世界で5番目に人気の言語になった(なお、トップ4言語は、英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語)。アジア圏ではトップの人気だ。
ミャンマー、マレーシア、フィリピンでは、日本語の人気が最も高く、さらにアメリカとイギリスでは2021年、最も学習者が増えたのも日本語だったという。その背景に、J-POPやマンガなどのエンタメ人気があることは間違いない、とフォン・アーン氏はいう。
反対に、日本人ユーザーの特徴は?と同氏に聞くと、「とても勤勉だ(very committed)」と返ってきた。
「日本は世界のどこの国よりも、平均連続記録(連続でレッスンした日数)が長い。そして現在、Duolingoユーザーがもっとも急速に増えている国のひとつだ」
なお日本でもっとも学習者の多い言語は英語、2番目は韓国語、そして中国語と続く。韓国語はネットフリックスでドラマ「イカゲーム」が配信されて以降、学習するユーザーが急増したそうだ。
英語検定試験の採用受け入れが4倍に
「個人に最適化され、ゲーム化された学習の仕組み」は他の教科でも活かせると、フォン・アーン氏はいう。
撮影:西山里緒
コロナ禍での急成長を背景に、Duolingoは今、事業の拡大に力を入れている。
そのうちの一つが「Duolingo English TEST」と呼ばれる語学検定試験だ。現在同テストは、同社の売り上げの1割を占めている。TOEICやTOEFL、IELTSなどの他の民間英語試験との最大の違いは、「受験者が会場に足を運ばずに、自宅でいつでも受験できること」。
受験者が本人かどうか、誰かと入れ替わったりしないかなどの「なりすまし」対策は、パソコンの内蔵カメラを通し、人の目で監視する。TOEFLやIELTSの受験料が200ドル(2万2000円)超であるのに対し、Duolingo English TESTは約50ドルと価格も安く設定している。
コロナ禍で多くの国で「会場に行って試験を受験する」ことが困難になったことで、受け入れ先の大学は、数カ月で約800から約3000に急増したという。
特にアメリカでは、スタンフォード大やコロンビア大、イェール大、UCLA(カリフォルニア大ロサンゼルス校)などの著名大学もすでに採用している。
オンラインの語学教育で培った知見を活かし、今後は語学だけでなく、算数(数学)や読み書きなどの他の教科にも進出していきたいとフォン・アーン氏は明かした。
実際、アメリカでは「Duolingo ABC」と呼ばれる、幼児向けの読み書きアプリもすでにローンチしている。
誰でも使える語学アプリから、学習の標準プラットフォームに ── 。その成長は今後、さらに加速しそうだ。
(取材・文、西山里緒)