メタバースについて講演するメタ(旧フェイスブック)のマーク・ザッカーバーグCEO。
- メタバースの話題には、それをどのように規制するかという問題がついて回る。
- テクノロジー企業は、ユーザーに関するより多くのデータを得るようになり、その貴重なデータをアルゴリズムに反映させ、広告主に提供することになる。
- それによって引き起こされる問題を解決するには、企業がユーザーに関して追跡できる内容を制限することが考えられる。
「メタバース」の時代が到来するのであれば、従来のソーシャルメディアと同じように、規制が必要になる(と考える人もいる)。
ソーシャルメディアで生じた問題は、この未来の仮想空間では増幅される可能性が高く、放っておくとさらに重大な問題を引き起こす可能性があるため、早急な対策が求められている。
「この新たな空間では、明確なポリシーがなければ、純粋なコンテンツとターゲット広告の区別がつかなくなる」と、AR(拡張現実)開発に30年携わってきたUnanimous AIのルイス・ローゼンバーグ(Louis Rosenberg)CEOは、Insiderに述べている。
「我々の世界に現れるもの(コンテンツ)が純粋なものではなく、プロダクトプレイスメント(映画などの小道具として商品を登場させ、広告する手法)や仮想の広報担当者である場合は、それが分かるようにするべきだ」とローゼンバーグは言う。
「そうでなければ、第三者が裏で糸を引き、我々一人一人に的確に的を絞って影響を与えるために物事を変えてしまうような世界になる」
消費者をしっかりと守るために政治家や規制当局がメタバースを規制する方法については、以下のようなことが考えられる。
企業による仮想空間でのユーザーのモニタリングを制限する
VRゴーグルを装着し、メタバースに入り込んだイメージ。
Getty Images
メタバースは、現在のインターネットとは異なり、グーグル(Google)、フェイスブック(Faceboo)、アップル(Apple)などを中心とした一握りの強大な企業によってコントロールされることになるだろう。メタバースの世界に入るには、現実空間を歩き回るのであればARメガネをかけ、完全に没入するのであればソファーに座ってVRヘッドセットを装着する。
これらの製品を通じて、企業はメタバースでユーザーが何を見ているかを追跡できる。だからこそ、企業がそのような追跡を行うのであれば、それを通知することを義務付けるべきだとローゼンバーグは主張している。
ソフトウェアプロバイダーは「(メタバースでの)シミュレーション体験を仲介するのに必要な時間を超えて、このデータを保存するべきではない」と、ローゼンバーグはVenturebeatに寄稿した記事で述べている。
「そうすれば、彼らがユーザーの行動を把握できるレベルを下げることができる」
大手テック企業がユーザーについて追跡できる内容を制限する
フェイスブックのスマートグラス「レイバン(Ray-Ban)ストーリーズ(Stories)」を装着した女性。
メタバースで使用されるARやVRの技術には、その世界を実体験のように感じさせる性質があることから、企業はユーザーの血圧や呼吸数などの健康状態を把握できるようになるかもしれない。
例えば、ユーザーがメタバースで何か興奮するようなものを見たときに心拍数が増加すると、企業がそれを測定できる可能性がある。
そうして得たユーザーの個人データを、企業は広告主に販売し、広告主はそれを利用してターゲット広告を打てるようになる。ちょうどソーシャルメディアがやっているのと同じようなことだ。また、これらのデータは、ユーザーがより長くメタバースのプラットフォームに留まるようにするアルゴリズムにも反映されるかもしれない。
サードパーティが提供できるコンテンツを制限する
VRゴーグルを装着した様子。
Getty Images
サードパーティはより自然にコンテンツをメタバースのユーザーに届けることができるようになる。例えば、歩道に立つ人(実在しているわけではない)が、あるブランドの商品を抱えているかもしれない。
あるいは、バーチャルのショップでコーヒーを買おうと列に並んでいるユーザーに、バーチャルの人物がさりげなく話しかけてきて、広告主が売ろうとしている商品の情報を、それとなくしゃべるかもしれない。以前、専門家が「メタバースは現実を破壊する可能性がある」とInsiderに語っていたのはそのためでもある。
「メタバースでは、たまたま見かけたAR(拡張現実)やVR(仮想現実)の純粋なコンテンツと、広告主が料金を支払い、AI(人口知能)のアルゴリズムが導き出したターゲットに向けて送り込んだコンテンツとを区別できないだろう」とローゼンバーグはInsiderに述べている。
「だからこれを制限することが重要だ」
「通信品位法第230条」がメタバースに適用できるかどうかを検討しなければならない
ツイッター(Twitter)のジャック・ドーシー(Jack Dorsey)元CEOは、「通信品位法第230条」の撤廃に警鐘を鳴らしている。
REUTERS/Anushree Fadnavis
アメリカの「通信品位法第230条」では、インターネット上のプラットフォーム運営企業は、ユーザーが投稿したコンテンツに対して責任を負わないということが定められている。しかし、230条はメタバースには適用されないかもしれないと、イスラエルのライマン大学法学部教授であるダブ・グリーンバウム(Dov Greenbaum)は、技術系ニュースサイト「CTech」へ寄稿した記事で述べている。
「メタバースが230条の適用範囲外であるとすれば、オンラインで起こりうる相互作用の実態にうまく適応したまったく新たな法律を、アメリカ議会は制定しなければならなくなるだろう」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)