フォードのEトランジットは電気自動車の主流化に貢献している。
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- フォードは2020年に全電動型カーゴバンの「Eトランジット」を発表した。
- アマゾンのようなEコマース企業をはじめ、多くの業種の企業がカーゴバンを利用している。
- フォードによると、Eトランジットはサステナブルであり、企業の経費や消費電力量を節約することができるという。
フォード(Ford)はカーゴバンを電気自動車に変え、人気のピックアップトラック「F-150」のEV版、F-150ライトニングへの道筋をつけた。同社の2022年式「Eトランジット(E-Transit)」は、フォードの電気自動車が一般に受け入れられるかのベータテストとして役立ったという。
フォードは電動カーゴバンのEトランジットによって、電気自動車に対する懐疑的な見方を覆し、法人顧客の期待を上回る方法を見出したのだ。フォードがF-150ライトニングを発表して絶賛される前から、Eトランジットは2万4000台の予約を受け、事業者が電気自動車を導入する転機となっていた。その後、フォードは電気自動車部門への投資額を300億ドル(約3兆4000億円)に引き上げている。
Eトランジットの発売は、アメリカの自動車メーカーがガソリン車から脱却するための新たな一歩となる。ヘンリー・フォード(Henry Ford)が作った大量生産車、T型フォード(Ford Model T)は事実上、最初の電気自動車を消滅させたとも言える。フォードは組立てを流れ作業にしたことで、低価格で多くの自動車を提供した。それから100年以上経った今、その考えをEVに応用しようとしている。
商用車は普遍的で必要不可欠
フォードに30年近く勤める、EV部門ジェネラルマネージャーのダレン・パーマー(Darren Palmer)は、ベストセラーであるトランジットの影響力を理解していた。彼は「トランジットを電動化すれば、多くの人の生活や環境に大きな変化をもたらすと思った」とインサイダーに語っている。
住宅リフォーム、観光、物流などを含むさまざまな事業者がカーゴバンを利用している。2020年、フォードは全電動型の2022年型Eトランジットを発表し、2021年11月22日に最初の1台が出荷された。
建設現場で活躍するフォードEトランジット。
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ピックアップトラックのF-150ライトニングの発表時と比べると、その滑り出しは静かなものだった。しかし、すでに成功しているとパーマーは言う。
「それは静かに、北米とヨーロッパで主要な電動商用車のひとつになるだろう」
まずは既存顧客の説得から
フォードのEV戦略全般を統括するパーマーは、Eトランジットの立ち上げには既存の顧客の取り込みが必要だと考えたという。サステナビリティを目標とする企業が多くなってきているが、バイヤーたちは充電システム、バッテリーの交換といった総コストについて疑問を抱いていた。
建設業者、自動車販売店、レストランなどカーゴバンを利用する業種の利益率は低いことがある。また、燃料研究所(Fuels Institute)のレポートによると、電気自動車の所有を検討する事業者にとって、総コストと投資額の回収期間は重要な要素だという。
しかし、フォードは、電気自動車に切り替えなかった場合のコストに焦点を当てたという。
「我々は、あなたが後悔するような事態に陥ってほしくない」と、パーマーは顧客に訴えたという。
「競合他社が電動バンを購入し、あなたの会社が購入しなかった場合、1年も経たないうちに経費の面で相手に大きく引き離され、そのビジネスでの利益が吹き飛んでしまうだろう」
フォードによると、Eトランジットを購入した事業者は、より低価格で、競合他社よりも優れた商品やサービスを提供できるという。Eトランジットの最も安いモデルは4万5000ドル(約510万円)以下で販売されており、政府の奨励金を考慮するとガソリン車と同等の価格であることを強調した。
「すべての言い訳はできなくなった」とパーマーは言う。
既存品の枠を超える魅力的な機能
パーマーはフォードでの仕事をテック業界のある出来事に例えている。2006年は折りたたみ式の携帯電話が非常に人気を得ていたが、2007年初頭にアップル(Apple)がiPhoneを発売した。そのスマートフォンはタッチスクリーン、インターネットブラウザ、GPSなどの新しい機能を備えていた。
フォードは、ハイブリッド車や電気自動車はガソリン車にはない、例えば移動式発電機としての機能を提供できるものとして位置づけている。同社によると、Eトランジットは電動工具の充電に最大2.4キロワット使用できるという。実際、人々はハイブリッドのF-150を利用し、ミシガン州では結婚式を救い、2020年の冬にテキサス州で起きた停電の際も活用している。
「自分の家の電力をまかない、近所の人のノートパソコンや携帯電話に電力を分け与えたりしていた」
ガソリン車やハイブリッド車にも将来的な用途があるかもしれないが、電気自動車は、今後ますます普及していくだろうとパーマーは言う。
「一度電気自動車に乗り換えたら、もう元には戻れないだろう」
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)