【車いす裁判】大手スポーツクラブの大半が「入店可否」に無回答の現実…企業の“合理的配慮”はどうなっていくか

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「障害者差別解消法」という法律を、あなたは知っているだろうか。10月、この法律に関わる「ある裁判」があった。

都内の大手スポーツクラブで車いすでの入店や受付を断られたり、一方的に会員から除名されるなど差別を受けたとして、電動車いす利用者の小倉秀明さん(62)がクラブの運営会社に対し、会員除名の取り消しや慰謝料330万円などを求めた。東京地裁の植田類裁判官は10月28日、運営会社による会員除名は「根拠を欠くもので無効」とし、慰謝料など33万円の支払いを命じた。小倉さんの担当弁護士によると、クラブ側は期間中に控訴せず、判決が確定した。

毎日新聞によると、判決では車いすのまま入店して受付をすることを制限したのは「対応が不十分だった」として「(会社側が)合理的な範囲内で代替の利用方法を提案すべきだった」とした。一方、小倉さんは会社側の対応を「障害者差別解消法違反」と訴えていたが、判決では「不当な差別的取り扱いまで意図したとは認められない」とされた。

小倉さんは筆者の取材に対し、「今後、障害のある人にとって役立つ判例になる。スポーツクラブには『これはやってはいけない』と理解していただきたい」とコメントした。

一方の運営会社側は取材に対し、「判決の内容に関わらず、障害の有無によって分け隔てることなく、当社のサービスをご利用頂けるよう、これまで同様に着実に実行していきます」と回答。障害のある利用者への対応は、「入会の際にどういったサポートができるか、その都度話し合いをしている」と述べた。

「障害者差別解消法」では民間事業者に“合理的配慮の提供”の義務

2021年5月に改正された障害者差別解消法では、民間事業者に「合理的配慮の提供」が義務化されている(従来は努力義務)。改正法は公布日の2021年6月4日から起算して3年以内に施行される。

内閣府のリーフレットでは「合理的配慮の提供」について、次のような言葉で表現している。

「役所や事業者に対して、障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること」

平たく言えば、「どのようにすれば無理なく手助けできるかを、双方の前向きな話し合いで決める」ということだ。

スポーツクラブ17社にアンケート調査「回答は4社のみ」

今回の裁判で争われたようなことは、氷山の一角なのだろうか? あるいは、他の有名スポーツクラブでは、具体的な対処方針が定められているのだろうか。

今回、筆者は業界誌Club Business Japanの「日本のフィットネスクラブ売上高 上位15社」をベースに、知名度のあるスポーツクラブを追加した大手17社にアンケート調査を実施した。

送付した質問項目は下記の3点。なお、質問状は11月8日〜15日にかけてメールもしくは郵便で送付し、回答期限には11月24日18時までの猶予期間を設けた。なお、回答期限までに、各クラブにはメールもしくは電話でリマインドも送付している。

質問項目

1.御社の運営するクラブでは、車いすのまま入店して受付することを拒否されることなく、双方の話し合いを通じて入店できる体制になっていますか?(選択制)

 (1)全店舗で入店OK 

 (2)一部店舗で質問項目入店OK 

 (3)受け入れ体制なし

2.障害者差別解消法の合理的配慮義務化を受けて、御社の運営するクラブでは具体的な対策をはじめていますか?(選択制)

 (1)はじめている 

 (2)はじめていない

3.スポーツクラブ利用において障害者への合理的配慮について、ご自由にご回答願います。(字数制限なし)

以下、回答のあったクラブを紹介する。

スポーツクラブルネサンス(業界3位)

スポーツクラブルネサンス

写真は蕨店。(同クラブ公式サイトより引用)

1.全店舗で入店OK

2.はじめている

3.弊社ではもともと障がいの有無にかかわらずご入会をお断りする方は「医師に運動を止められている方」「ご利用を自己完結でできない方」などとしており、車いすであっても、まず見学・体験していただき、弊社サービスでご利用できそうかを双方話し合いながら決定しております。

よってこの度の義務化をうけて改めてというわけではなく、それ以前から取り組んでおります。

メガロス

メガロス

写真は日比谷店。(同クラブ公式サイトより引用)

1.全店舗で入店OK

2.既に全店舗で受け入れを行っておりますので、今回の義務化を受けた新たな対策は現状検討しておりません。

3.なし

スポーツクラブNAS

スポーツクラブNAS

写真は芦花公園店。(同クラブ公式サイトより引用)

1.全店舗で入店OK

2.はじめている

3.障害をお持ちの方が入会をご検討され、来館の際にはまず一度、スタッフが同行し、体験利用をいただくこととしております。

お客様のご希望及び体験利用の結果を踏まえて、お客様とスタッフとの間で施設の利用方法について話し合い、お客様の性別、年齢及び障害の状態に応じ、可能な限りの利用方法をご提案させていただきます。ご提案内容をご了承いただきました後、正式な入会手続きをしていただきます。

体験の際は

「プールやお風呂などの一部の施設を安全に使用いただけるか」

「複数の会員様が一度にご利用になるスタジオプログラムなどでぶつかり怪我をされる可能性はないか」

「施設内の移動に苦慮されるエリアはないか」

「地震や火災などの緊急避難の際にスタッフの指示に対応できるか」

などの視点から、お客様と施設の利用を通して確認し、利用ができる方法を検討します。

可能な限り、お客様のご希望に沿うような利用方法をご提案させて頂きますが、多額の投資が必要なバリアフリー化やジム機器の配置換えは難しい状況です。

弊社としては、今後とも、障害をお持ちのお客様においても、安全に施設をご利用頂けるよう努めていく所存でございます。

エニタイムフィットネス

エニタイムフィットネス

写真は日本橋本町店。(同クラブ公式サイトより引用)

1.全店舗で入店OK

2.はじめている

3.当社では、車いすの方に限らず、入会を希望されるすべて方に対して施設の特徴、

サービスなどを説明し、ご納得の上入会をしていただいております。

24時間営業、マシンジム特化の施設、スタッフ不在の時間帯があること等施設的な特徴もありますので、この点を丁寧に説明しています。

実際に視覚障害1級をお持ちの方と入店の仕方や施設の使い方について話し合いを行い、スムーズに施設利用をできるような対応を実施した実績がございます。

また、当社では車いすの方が利用し易いバリアフリー店舗の導入も開始しております。

正面からの回答を避けるクラブが多数という現実

計17社にアンケートを依頼したが、最短でも9日間の猶予をとったものの「コメントできない」との回答にとどまったクラブは2社、さらに期限を過ぎても、一切回答のなかったクラブが11社。大半の有名クラブが車いすの利用者への対応方針を明らかにしなかった。

とりわけ注視したいのは、無回答だったクラブのなかには、業界大手が複数含まれていることだ。

以下、リストにまとめて紹介する。

・「コメントできない」と回答したクラブ:

東急スポーツオアシス、ホリデイスポーツクラブ(東証一部上場)

・回答期限を過ぎても回答のなかったクラブ:

コナミスポーツクラブ(業界1位)、セントラルスポーツ(業界2位、東証一部上場)、ホットヨガスタジオLAVA、カーブス、ライザップ、フィットネスクラブ コ・ス・パ、ゴールドジム、ジェクサー・フィットネスクラブ、アクトス、グンゼスポーツ、ジョイフィット

業界最大手のコナミスポーツクラブ、業界2位のセントラルスポーツといった、スポーツクラブ業界の規範となるような大手も、無回答だったことは残念な結果だ。

なお、各社のホームページを見ると、障害のある人に対するフォロー体制について一定の情報を出している企業もある。

例えば、コナミスポーツクラブは公式FAQのなかで、介助者が必要な人の利用について「入会前に施設責任者と面談をお願いしております」としており、セントラルスポーツは足や視覚・聴覚が不自由な人の入会に関して「お客様が安全にクラブをご利用頂く事が可能かなど各店舗でご相談を承っております」としている。

カーブスは規約のなかで、「介助の必要がなく、一人で安全に運動できる」ことを条件としており、運営元から「介助の必要があり、一人では安全に運動できない」と判断された場合には利用が禁止される場合があるとしている。

グンゼスポーツは同様に規約のなかで「健康状態が良好で、諸施設内での自らの行動に関し自己管理ができる方」と明記している。


同じように車いすを使っていても、人によって程度・状況は異なる。また車いすの利用者以外にも、さまざまな障害があることを考えると、FAQなどから「合理的配慮の提供」が受けられるかどうかは判断しづらい。

今回のような判決が出た以上、とりわけ上場企業や上場企業のグループにあたる大手スポーツクラブには、業界としても率先した対応表明が必要だと筆者は考える。

今後も、車いすなどを利用している障害のある人が来店することは想定される。

多様性・包摂を重視するダイバシティー&インクルージョン(D&I)推進の世の中において、障害のある人が感じている社会のバリアを取り除くために何ができるのか。

スポーツクラブという身体を動かすことが主な目的である業界だからこそ、「合理的な配慮」が行き渡り、障害のある人にも開かれた場であることを示していくことは、社会的にも大きな価値があるはずだ。

(文・長谷ゆう、編集部)

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