アップルのティム・クックCEO。
Mario Tama/Getty Images
- 中国は、アメリカの大手ハイテク企業にとって儲かる市場だ。
- 中国で事業を展開するために、リンクトインやアップルなどは中国政府の意向に沿ってきた。
- しかし、中国のパワーが強大になり、政府の要求が強まるにつれ、中国での事業展開はますます難しくなっている。
アップル(Apple)といえば、シリコンバレーのど真ん中に宇宙船のような本社があることで知られている。
しかし、アップルの成功を担っているのは、カリフォルニアから西に約1万キロメートル離れたところにある国、中国だ。
中国は、アップルにとって非常に重要で儲かる市場の1つだ。アップルは、多くの人気ガジェットの組み立てを中国のサプライヤーに大きく依存しており、売り上げに関しても人口の多いこの国の消費者に依存している。前四半期におけるアップルの純売上高の40%は、中国での売り上げだった。またiPhoneの総売上高の約20%は中国が占めているとアナリストは推計している。
しかし、こうした依存度の高まりはアップルを、中国政府の要求に従うか、あるいは成長市場を逃すかという選択を迫られる厄介な立場に立たせることなる。
そして、それはアップルだけではない。マイクロソフト(Microsoft)傘下のリンクトイン(LinkedIn)、フェイスブック(Facebook)、ディズニー(Disney)、グーグル(Google)なども、中国で事業を継続させるために譲歩している。結局、巨大かつ成長中の市場を逃すと、ライバルに遅れをとることにつながるため、譲歩せざるを得ないのだ。
「シリコンバレーのCEOにとって中国とは、石に刺さっていた伝説のエクスカリバー(聖剣)のようなものだ」と、北京を拠点とするテクノロジーアナリストで、中国のIT企業アリババに関する著書もあるダンカン・クラーク(Duncan Clark)は2016年、タイムに語っている。
テック企業は党の要求に基づいてビジネスの決断を下してきた
中国の習近平国家主席。
Li Xueren/Getty Images
リンクトインは2021年9月、中国版のサイト上で複数のジャーナリストのアカウントを削除した。中国政府が報道を規制しているイスラム教徒少数民族ウイグル人に対する大量虐殺などについて、彼らが言及したからだ。こうした人道に反した虐待行為への懸念から、アメリカをはじめとする国々は2022年の北京オリンピックを「外交的ボイコット」すると表明している。
リンクトインは、アカウントを削除されたジャーナリストの1人、グレッグ・ブルーノ(Greg Bruno)に対し「我々は表現の自由を強く支持しているが、中国で活動するには中国政府の要求に従う必要があると、立ち上げの時から認識していた」と述べたという。
しかし結局、リンクトインは中国での事業をあきらめ、10月に中国版サイトを閉鎖した。
そして11月には、アップルのティム・クック(Tim Cook)CEOがやり玉に挙がった。中国の人権問題について質問されたクックは、アップルにはあらゆる場所でビジネスを行う「責任」があり、「他の市場には異なる法律が存在することを認める」必要があると答えた。
アップルは2016年、規制を回避するために、中国と2750億ドル(約30兆円)で秘密の契約を結んだと報じられている。中国は同社に対し、特定の係争地域を周辺地域よりも大きく表示するよう指示し、それをしないと中国でApple Watchが販売できなくなると伝えたという。
中国の「グレート・ファイアウォール」は、いまだにほとんどのアメリカのテック企業の参入を禁じている
共産党の機嫌をとるために屈服する企業がある一方で、多くの企業にはその選択肢すらない。
中国共産党は、国民に見せてもいいコンテンツを管理し、党の大義に反すると判断した投稿は検閲しており、多くの外国のソーシャルメディア企業は「グレート・ファイアウォール」(インターネットの検閲システム)によって締め出されている。しかし、中国の一部のユーザーは、VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)を使って、これらのサイトにアクセスしている。
フェイスブックは、中国進出を試みたが、うまくいかなかったとタイムが以前報じている。しかし、同社は今も中国企業の広告で収益を上げ続けている。2021年4月には、ウイグル人への迫害を否定する中国政府の広告を掲載したことで非難を浴びた。
グーグルは検索エンジンで中国に参入していたものの、政府からの検閲の要求に嫌気がさし、2010年に撤退した。それでも中国市場に再び潜り込もうとする動きは止めていない。2017年には北京に人工知能研究センターを立ち上げ、一時は「プロジェクト・ドラゴンフライ」という検閲付き検索エンジンの開発を秘密裏に行っていた。
その際、プロジェクトの責任者はチームに対し「気持ちを奮い立たせるには、中国で何が起こっているのか知らなくてはならない」と語ったと、The Interceptが伝えている。
「それは単なる一方通行ではない。中国は我々の知らないことを教えてくれるだろう」
政治は何の役にも立っていない。トランプ政権下で緊張が高まっていた米中関係は、バイデン政権下で改善することが期待されていた。しかし投資会社ウェドブッシュ(Wedbush)のアナリストは今月、「結局、期待とまったく反対のことが起きている」と、顧客に語った。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)