Carol Yepes/Brothers91/SDI Productions/Svetikd/Getty Images; Rachel Mendelson/Insider
リナ・タキカワ(22歳)は5歳の頃からバレリーナになることを夢見ていた。普段はもの静かだが、踊り始めればいきいきと表現豊かに、自信に満ちて動く子どもだった。
そんなタキカワは20歳でスペインのカタルーニャバレエ団に入団し、夢だったバレリーナとしての仕事を得た。しかし1年も経たないうちにバレエを辞め、大きくキャリアチェンジした。
タキカワは言う。「バレエは幼いころからの夢でしたが、皮肉なことに自分が夢見ていたはずの仕事に就いてみたら、特にやりたい仕事ではないと気付いてしまったんです」
コロナ禍のさなかのタキカワは実家にこもり、ユーザーエクスペリエンス(UX)デザイン関連の無料オンラインウェビナーを手あたり次第に受講した。スキルを伸ばして履歴書を作り上げると、ムーチ(Mooch)のファウンディング・プロダクトデザイナーとして採用された。
Z世代は自分の価値観に忠実で、デジタル環境を好み、大きな変化を恐れないことで知られる。タキカワはそんなZ世代の代表格と言える。
実は上の世代から学びたい
コロナ禍がZ世代の文化を作ったわけではない。しかしその文化的特徴を強化したとは言えるだろう。ロックダウン、移動規制、ワクチン義務化などが行われるなか、企業は出社して勤務するという働き方を捨て、フレキシブルなリモートワークの導入を進めた。
Z世代は、社会人になったばかりのころから在宅勤務を経験している。親世代になじみ深いオフィスライフを懐かしく思ったりはしないらしい。Z世代の働き手が求めるのは、あらゆる世代にとってメリットの大きい変化や、より強い共感、ワークライフバランスの改善、フレキシブルなスケジュールだ。
Insiderでは20人以上のZ世代に話を聞き、彼らが仕事の未来をどう捉えているのか、ミレニアル世代、X世代、ベビーブーマーといった上の世代をどう見ているのかを探った。
特筆すべき発見は、Z世代の働き手の多くは上の世代から学びたがっており、したがってZ世代 vs. 上の世代という世代間闘争は一方的なものに過ぎないだろうということだ。
「自分が職場で誰かと対立しているとは思いませんね」と言うのは、21歳のソフィア・ドンスコイ(Sophia Donskoi)。ファイブオーワンシースリー(501CTHREE)でプログラムアドミニストレーターとして勤務している。「同僚は私の経歴も踏まえて、私の意見を尊重してくれていると思います」
レストレス(Restless)のソフトウェアエンジニアである24歳のジェイソン・ニソポロス(Jason Nissopoulos)も同様に、多世代から構成されるチームの一員として働くのは楽しいと語る。それぞれが異なるライフステージにいるので、互いを競争相手としては見なさないのだそうだ。
世代が違うメンバーはZ世代の職場に関する要望(例えば共感と柔軟性を高めてほしい等)にいつも喜んで対応してくれるわけではない。だがリンクトイン(LinkedIn)のグローバルコンテンツ戦略担当シニアディレクターのダン・ブロドニッツ(Dan Brodnitz)は、企業はZ世代が検討課題として挙げてくる内容にワクワクしてもいいはずだと言う。
「Z世代にとっては自分たちの価値観に合う企業で働くことがとても重要で、それを示すデータもたくさんあります。企業はそうした価値観を真剣に受け止めなくてはいけませんから、いいことだと思います」とブロドニッツは言う。
Z世代はもともとテクノロジーを使い慣れており、ピュー・リサーチセンター(Pew Research Center)の調べでは、彼らが職場に新しいものの見方や創造性、イノベーションをもたらしてくれることを示している。
インターネットの勃興を目のあたりにし、SNSが流行り始めたころに成人したミレニアル世代と異なり、Z世代は初のデジタルネイティブ世代だ。いつでもテクノロジーに触れながら育ち、デジタル世界での身の処し方を当たり前のように理解している。
しかしだからと言って、Z世代の働き手は難なくリモートワークができるのかというと、そうではない。CFAインスティテュート(CFA Institute)で大学向け広報担当ディレクターを務めるピーター・ワトキンス(Peter Watkins)は次のように言う。
「Z世代はキャンパス閉鎖等の難しい事態に直面してきました。社会人生活も、経験豊富な先輩たちとオフィスで机を並べることもできないままに始めるしかなかったのです。リモートでフレキシブルでありたいという感情に対しては相反する2つの気持ちがあると思いますが、そもそもオフィス勤めの経験がないので物足りなく思わないでしょう」
職場に最も不満を抱えている世代
対面でのつながりやメンターのアドバイスを得られないZ世代の中には、仕事の現実に対応する準備ができないまま置いてけぼりになっていると感じる人もいる。仕事をするにあたってZ世代の最大の恐怖は、低賃金、力不足であるという感覚、職務内容の物足りなさであることがCFAインスティテュートの研究で明らかになっている。
ワトキンスは言う。「給料はいつでも重要事項です。キャリアアップも。でも若い人にとって最も重要なのは何なのか、耳を傾けてみましょう。お金だけではないはずです」
こうした流れはあるものの、グッドハイア(GoodHire)の研究では、仕事に満足していると回答したZ世代は41%しかおらず、職場で最も充足感を感じていない世代であることが分かった。
しかし、働く時間、手段、場所に影響を与えているのは他ならぬZ世代だ。「大退職(Great Resignation)」や「大改造(Great Reshuffle)」がもたらす課題を乗り越えて生き残るのはきちんと聞く耳を持つ企業だと、グッドハイアのマイク・グロスマンCEO(Mike Grossman)は言う。
「仕事に対する期待値が大きく変わっています。この変化はおそらく恒常的なものでしょう」
確かに、これからの働き方がリモートに傾いていくなか、Z世代の全員がオフィスという労働環境のメリットを喜んで受け入れるわけではないだろう。前出のニソポロスや23歳のシュルティ・ブラマデサム(Shruti Bramadesam)は、通勤が嫌で仕方がないと言う。24歳のサデ・カメン(Sade Kammen)は職場で対面しながら家族のような関係を築くなんて古いと考えている。
従来の世代とは異なり、Z世代はニューノーマルを恐れず、大胆なキャリアチェンジにも積極的だ。冒頭のタキカワは愛着が持てなくなった業界を去るZ世代の、ほんの一例に過ぎない。
ドンスコイは言う。「世代間の軋轢は今でも存在すると思いますし、今後もなくなることはないでしょう。でも私たちZ世代の声に耳を傾け、Z世代が雇用主、会社、法人、売り手に何を求めているのかを理解する必要があると思います。そのいう意味でオープンマインドになってほしいと願っていますし、実際そうなってきていると思います」
(翻訳・カイザー真紀子、編集・常盤亜由子)