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2021年12月4日、デリバティブ取引に端を発して仮想通貨が幅広く売られた。2021年も残すところあとわずかとなる今も、なかなか立ち直れない仮想通貨市場は、その時価総額Wを大幅に消失して2021年を終えそうだ。
ノルウェーのデジタル資産調査会社アーケーンリサーチ(Arcane Research)によると、仮想通貨で時価総額トップのビットコインは、2021年11月に史上最高値を記録した約6万9000ドル(約780万円)から32%も下落した。ビットコインに対するイーサリアムの価格比(ETH/BTC)は0.087に急上昇したが、時価総額2位のイーサリアムも値崩れしたため、0.080まで下落した。
英デジタル資産運用会社コインシェアーズ(CoinShares)が12月13日に発表した週間ファンド流入レポートによると、仮想通貨商品への資金流入額は12月第1週目の1億8400万ドル(約208億円)に対し、第2週目は市場センチメントが弱気に振れて、8800万ドル(約99億円)に鈍化した。
いわゆるブルーチップ(優良銘柄)と呼ばれるアルトコインの価格も急落している。仮想通貨デリバティブ取引所FTXの創業者サム・バンクマン=フリード(Sam Bankman-Fried)により開発された“イーサリアムキラー”、ソラナ(SOL)も12月第2週に20%近く急落した。
ソラナと同様に、スマートコントラクト機能(ブロックチェーン上で契約を自動的に実行する仕組み)を備えているカルダノ(ADA)、ポルカドット(DOT)、アバランチ(AVAX)などの仮想通貨も、同期間でそれぞれ12%、16%、12%と軒並み下落している。
市場の低迷が続く中、気になるのは次に何が起こるかだ。
米連邦準備制度理事会(FRB)は2022年、テーパリング(量的緩和の縮小)のペースを加速し、早期に利上げに踏み切る可能性があるなど、マクロ的な逆風が再びボラティリティを高めそうだ。
米ペンシルベニア大学ウォートンスクールのケビン・ワーバック(Kevin Werbach)教授は、マーケット展望を語るイベントで次のように話した。
「仮想通貨の価格が永遠に上昇し続けることはありません。ここ2年で仮想通貨に手を出した人たちは皆、強気相場しか見ていません。ビットコインが誕生した2009年でさえ、世界金融危機が終息した直後で株式市場が強気ムードに包まれていたからこそ、仮想通貨市場は成長できたのです」
ウォートン・スクールのケビン・ワーバック教授。
Wharton Business School at University of Pennsylvania
ウォートンスクールに新設されたブロックチェーン・コースでアカデミック・ディレクターも務めるワーバック教授は、ビットコインをはじめとする主だった仮想通貨は、ドローダウン(ピークからの落ち込み幅)から戻ったとしても8割で、それ以上回復するという根拠は何もないと言う。
「私たちは今、明らかにバブルの真っただ中にいます。ですがこういう時は冷静に考えることができません。いつかバブルが崩壊するだろうとは思えないのです。いつかは分かりませんが、仮想通貨は将来必ず暴落します。その時に初めて、何が『本物』で何が『本物』でないかが分かるでしょう」
メタバースとWeb3は時期尚早
ワーバックの考えでは、メタバース(仮想空間)とWeb3はまだ「本物」とは呼べないという。これらはいずれも「重大な構想」でしかないにもかかわらず、投資家により莫大な資金が投入されている。
メタバースのコンセプトは、フェイスブック(Facebook)の社名がメタ(Meta)に変更されたことで広く認知されるようになった。
それ以来、ディセントラランド(Decentraland)のマナ(MANA)やザ・サンドボックス(The Sandbox)のサンド(SAND)など、メタバースに関連するアルトコインが急騰している。ウォール街のアナリストはメタバースを数兆ドル規模のビジネスチャンスとしていち早くアピールし、仮想空間の土地をめぐっては数百万ドルの値が付く争奪戦が繰り広げられるようになった。
ワーバック教授は言う。
「人々が仮想世界で実際に資産を所有し、さまざまなプラットフォームで自由に利用できるようにするには、ブロックチェーンと暗号通貨を活用するのがうってつけです。改ざんを妨いで記録できますからね。そんな仮想世界もいつかは実現するでしょうけれど、誇大な宣伝は現実からかけ離れたものとなっています」
Web3への移行にも、同様に「時期尚早」と感じられる過熱ぶりが見られる。Web3とは、ブロックチェーン技術と仮想通貨によって、分散型のオープンな新世代インターネットを実現するという考えである。
「多くの人が真にインクルーシブ(包摂的)で参加型のオープンなオンライン世界を求めています。その願望や信念は、非常に妥当なものでしょう。しかし実際に何が起きているのか見てください、ほとんどの投資はいまだに投機目的です。Web3のプラットフォームの大半は、まだまだ開発途上なのです」とワーバックは話す。
ワーバックは、投資家がこれらの投資機会をすでに現実のものであるかのように捉えることに慎重になるべきだと警告する。
仮想通貨とゲームの連携
仮想通貨市場で今、トレンドとして注目されているのはゲームとの連携だ。
年間約1500億ドル(約17兆円)規模のゲーム業界は最近、ゲーム内のアイテムをNFT(非代替性トークン)で対応し始めている。
老舗の仏大手ゲーム会社ユービーアイソフト・エンターテインメント(Ubisoft Entertainment)は最近、アクションシューティングゲーム「ゴーストリコン ブレイクポイント(Tom Clancy's Ghost Recon: Breakpoint)」PC版用にディジット(Digit)というNFTアイテムを試験導入すると発表した。
ディジットは、プルーフ・オブ・ステーク式(コンセンサスアルゴリズムの一種で省エネとされる)ブロックチェーンのテゾス(Tezos(XTZ))上で記録されるため、より環境への配慮がなされている(ユービーアイソフト)のだという。
「ゲーム業界のビジネスモデルの大半はもともとバーチャル資産で成り立っていますが、大手のゲーム開発会社はブロックチェーンをゲームに組み込み始めました。収益性があると見込まれているので、相次いで参入してくるでしょう。NFTを発行することで、さらなる利益が得られます」とワーバックは話す。
アクシー・インフィニティ(Axie Infinity、AXS)のようなブロックチェーンベースのゲームも仮想通貨とゲームを連携させてはいるが、持続可能性に多くの疑問があるとワーバックは指摘する。
今後はステーブルコインが規制の対象に
2022年に向けて、ワーバックは世界的に規制を強化する動きが出ると予想している。米情報サイトのコインマーケットキャップ(CoinMarketCap)によると、1580億ドル(約18兆円)の市場に成長したステーブルコインに、議員たちが狙いを定める可能性が高い。
ステーブルコインは、価格を法定通貨、コモディティ、または特定の仮想通貨に連動させている仮想通貨だ。大量の資金を集め、顧客の要求に応じて償還する仕組みがあるものの、規制の対象にはなっていない。しかし、同様の機能を持つ銀行やマネー・マーケット・ファンド(MMF)、その他の金融商品などには規制が課されている。ワーバックは言う。
「規制すべきでないという理由はどこにもありませんし、むしろ規制しないと大きなリスクがあります。おそらく規制に向けた議論が進むでしょう。法制化されるかもしれませんし、そうでなくても、アメリカでは財務省や証券取引委員会などの機関が間違いなく対策を講じることになります」
(翻訳・西村敦子、編集・常盤亜由子)