ハーレーダビッドソン(Harley-Davidson)が2019年に発表した電動バイク「ライブワイヤー(LiveWire)」。
Harley-Davidson
ハーレーダビッドソン(Harley-Davidson)はアメリカンバイクの真髄(しんずい)とも言えるブランド。ガソリンを食って爆音をまき散らす、ゴツいヤツだ。
同社の電動バイク部門「ライブワイヤー(LiveWire)」はいま、バイク乗りの誰もが知り、愛するこのブランドなら電動化しても大成功間違いなしと考える投資家たちとともに、ブランクチェック(白地小切手)カンパニーとの合併を通じた上場を準備している。
12月13日にハーレーが計画を発表した。米ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、ハーレーのヨッヘン・ツァイツ会長兼最高経営責任者(CEO)がライブワイヤーの会長に就任、CEO代行を(最長で2年間)務める。上場後、ハーレーの保有株式は約74%になるという。
企業価値17億7000万ドル(約2000億円)のライブワイヤーと合併するのは、特別買収目的会社(SPAC)AEAブリッジズ・インパクト。電動バイクの持つ大きな未来に賭ける。
ハーレーの投資家向けプレゼン資料によれば、電動バイクの2021年時点での獲得可能な最大市場規模は25億ドル(約2800億円)で、普及率は6%だが、2025年までに普及率は15%、市場規模はおよそ3倍増の77億ドル(約8800億円)に達する見通しだ。
ライブワイヤーの動きは、過去1年間で相次いだ電気自動車(EV)スタートアップのSPAC上場に続くもの。ただし、首尾よく上場を果たしたそれらのスタートアップも、開示情報をめぐる不正疑惑で株価が迷走するなど必ずしもうまくいっているところばかりではない。
また、ハーレーの電動バイク部門分割上場には、いまのところ向かい風が吹いているようにも見える。ライブワイヤーが2021年に販売した電動バイクは400台にも満たなかったからだ。
しかし、米銀大手バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)のボビー・オームズの見立てでは、長期的に見たとき、この合併はSPAC(AEAブリッジズ・インパクト)の出資者たちにとって理にかなっているという。
オームズはその理由について以下の4点をあげる。
1.ハーレーの圧倒的なブランド力が発揮される
「何より多くの利益をもたらしてくれるのはハーレーのブランドです」(オームズ)
ハーレーには長年にわたって積み上げてきたブランドの高い認知度があり、しかもそれに甘んじることなく、次世代の若いバイク乗りにもブランドの魅力を伝え、つなぎ止めるために電動バイクへの投資も続けてきた。
ライブワイヤーは部門としては2019年に独立したものの、10年かけて定着したそのブランドはハーレーの同義語として十分な認知度があり、これから新たにブランドイメージづくりといったハードルは存在しない。
電動バイクはまだ大衆の心をとらえたという段階ではないが、ライブワイヤーにはそうした大きな需要を一挙につかまえようという狙いはなく、環境意識が高くてサステナビリティ(持続可能性)を第一に考える若い世代のバイク乗りに照準を合わせ、アピールに力を入れている。
オームズによれば、電動バイク事業が収益を生み出すまでにはまだ何年かかかるが、だからこそ今回の上場計画が生きてくるという。
「ハーレーダビッドソンがSPAC上場を計画通り実現できれば、そこで調達した資金を使って、黒字転換までにかかるコストを相殺できます。コア事業(ガソリン車)の収益から資金を転用することなく、電動バイクの開発やマーケティングなどあらゆる取り組みに充当できるのです」
2.ハーレーは既存の販売店ネットワークを活用できる
ハーレーは世界中に1400店舗以上の販売店を抱えている。ライブワイヤーが新たな市場の開拓を目指そうとすれば、この販売店ネットワークを活用できる。
なお、今回のSPAC上場に際しては、ハーレーと戦略提携を結んだ台湾二輪最大手キムコ(KYMCO)も出資。その販売店ネットワークも市場開拓の大きな力となる。
「巨大な販売店ネットワークはハーレーの強み。電動バイクに関する知見も蓄積されつつあり、そうした重層的なプラットフォームを持たない競合他社より有利にビジネスを進められるでしょう」
3.ハーレーには融資のノウハウがある
ハーレーとライブワイヤーは購入者向け融資の仕組みをゼロからつくり上げる必要がないので、他の電動バイク開発企業より優位な立場にある。
「ハーレーは社内に巨大な融資部門を抱え、バイク購入者向けのローン関連を熟知しています」(オームズ)
同社はガソリン車販売に際して、販売店での融資や個人の中古売買向け「ライダー・トゥ・ライダー・ファイナンス」を提供しており、今後ライブワイヤーの販売台数が伸びてくれば同じスキームを使えることになる。
4.ハーレーはすでに中古市場にも手を回している
電動バイクの中古市場はまだまだ未成熟の段階ながら、専門家たちはこれから新車の普及が進むにつれて中古市場の成長も加速すると予測している。
ハーレーは2021年7月、同社の認証を受けた中古バイクを売買できる「H-D1マーケットプレイス」をローンチさせた。
中古(電動バイク)市場への参入は、ターゲットとする顧客基盤の拡大につながるとオームズは指摘する。
(翻訳・編集:川村力)