提供:FLAT HACHINOHE
青森県のJR八戸駅から徒歩2分。閑静な住宅街のなかに近未来的な建物がある。2020年4月にオープンした「FLAT HACHINOHE(フラット八戸)」だ。
このFLAT HACHINOHEは、スケートリンクがメインながらもフロアチェンジをすることによりバスケットコートや展示会など、さまざまな用途に利用できる多目的アリーナ。FLAT HACHINOHEはこれまでのスポーツアリーナとは異なる思想で建設・運営されている。
FLAT HACHINOHEの持つ先進性とは何か、そしてこれからの時代にマッチするスポーツアリーナの在り方とは。2021年11月25日にパナソニックが開催した現場見学会の様子とともに考察する。
FLAT HACHINOHEが模索する新しいかたちのスポーツアリーナ
FLAT HACHINOHEは「民設民営」をベースとしながらも新たな官民連携の形にチャレンジし誕生したスポーツアリーナ。総合スポーツ専門店などを中心にスポーツ事業を行っているゼビオホールディングスと日本政策投資銀行をはじめ、複数の地域金融機関が出資・融資をした特別目的会社、XSM FLAT八戸が施設を所有。施設運営はクロススポーツマーケティングに委託している。
ユニークなのは、八戸市が土地を無償提供している点。そして、FLAT HACHINOHEの年間2500時間ほどの利用枠を八戸市に提供し、施設利用料を八戸市から受領するという仕組みになっている点だ。このような施設は、地方公共団体主導で建設され、運営を指定管理するなどして民間へ委託されるケースが多いが、完全に民間企業のみで建設・運営されているのが大きな特徴だ。
行政利用の用途としては、学校の体育事業や地元アイスホッケークラブの練習や大会、また行政主導のイベント類などが挙げられる。
一般利用では、アジアリーグアイスホッケーに所属するチーム「東北フリーブレイズ」の練習や全国のアイスホッケー合宿、フィギュアスケートの練習や市民の個人滑走など、それ以外ではアジアリーグアイスホッケーの試合開催やフィギュアスケートアイスショー、プロバスケットボール「Bリーグ」の公式試合やスタッドレスタイヤ試乗会や展示会といった商業イベント、コンサートなどが行われている。
提供:FLAT HACHINOHE
FLAT HACHINOHEは、4つのエリアに分かれている。メインとなるのが多目的アリーナ「FLAT ARENA」、建物内のエントランス付近にある広いスペースが「FLAT X(クロス)」、屋外に広がるオープンスペースが「FLAT SPACE」、そして周囲を取り囲む自然豊かな公園「FLAT PARK」だ。
これは、欧米のスポーツアリーナのようなスポーツをメインとして地域活性化をモデルにしている。一方、単純に欧米の模倣をしているだけではない。FLAT HACHINOHEでは照明システムに最新の技術を採用することで、明るさを犠牲にせずまぶしさを低減している。
また、照明は瞬時に暗転することができるようになっておりアイスショーなどの場面転換などがスムーズに行えるのも特徴。加えて、座席数にあえて余裕を持たせており、座席数は常設では1550席だが、レイアウトを変更することで最大で5000人ほどを収容できる。開催されるイベントによりスペースを柔軟に使えるというのは、FLAT HACHINOHEならではだろう。
単なるスポーツアリーナにとどまらない工夫
日本国内にもいくつものスポーツアリーナがあるが、FLAT HACHINOHEは新しい時代のスポーツアリーナに必要な要件を盛り込んで設計されている。
そのひとつがさまざまな用途に使える点。スケートリンクが常設されているが、その上に断熱フロアを敷き詰めることで、一晩でバスケットコートやその他の用途に利用できるようにコートチェンジができる。もちろん、元に戻すことも一晩で完了。アイスホッケーの翌日にバスケットボール、そしてまた翌日にアイススケートという運用も可能だ。また、FLAT XやFLAT SPACEなどのスペースを単独または複合的に使うことで、これまでにないイベント開催も可能になる。
さらには演出面での汎用性が挙げられる。総合スポーツアリーナは、スポーツだけではなく幅広い用途で使われる。そのため、照明や音響が幅広いジャンルに対応できなければならない。FLAT HACHINOHEはコンサートの開催も視野に入れて設計されているため、これまでにもさまざまなスポーツだけではなく、商業イベントなどに利用されている。
単なるスポーツアリーナではなく、あらゆる用途に対応できるのが次世代スポーツアリーナには必要な要件。FLAT HACHINOHEは次世代スポーツ施設の先駆者なのだ。
劇場型空間の実現を手助けしたパナソニックの空間ソリューション
施設運営を行うクロススポーツマーケティングは、FLAT HACHINOHEの照明を「劇場型」と呼ぶ。一般的なスポーツアリーナや体育館のような全体を照らす照明ではなく、劇場のように観客席を暗くし、よりコート上の動きに集中できるよう設計されている。壁や天井を黒くし、照明にもこれまでのスポーツアリーナとは違うシステムを導入している。
この劇場型スポーツアリーナを実現するために一役買っているのが、パナソニックのライティングソリューションだ。
4K8K放送にも対応するLED投光器130台をFLAT HACHINOHEに導入。リンクは明るく、なおかつ観客がまぶしくないよう、1台ごとに調整した最適な明るさや角度で設置している。
DMX(Digital Multiplex:照明器具の調光や調色などの制御を行うための通信規格)制御の導入により、0〜100%調光、瞬時点滅が行えるため、競技用の明るい照明だけではなく、演出用照明としても活用できるようになっている。また、パナソニック独自の3Dシミュレーションや社内実験、現場実験を重ね、光源付近の不快なまぶしさを検証。光が塊の原因となるグレア源を低減し、競技者および観客がまぶしさを感じない低グレア照明を実現している。
それだけではない。一般の利用客でも簡単に照明演出が使えるよう、あらかじめ利用目的に合わせたパターンを構築し、iPadからの操作で照明のパターンを誰もが簡単に変更できるようになっている。誰もが最適な照明でアリーナでの最高の体験ができるのは、これからのスポーツアリーナらしい。
また、従来のHIDランプではなくLEDを導入することで、同規模のアリーナに比べ50%以上の省エネも期待できる。演出面だけではなく運用面においても、パナソニックの照明システムは大いに役立っているのだ。
FLAT HACHINOHEが目指す未来
FLAT HACHINOHEを運営するクロススポーツマーケティングの青山英治氏はこう語る。
「日本におけるスポーツ環境について、その価値をさらに押し上げるために『観戦空間』をさらに価値向上させることができるはずだと考えていました。
スポーツについて、『する・見る・支える』という三軸を基にした議論が最近多くされていますが、今回のパナソニックさんとのチャレンジは『する=プレイヤー』、『見る=観客』、そして『支える=演出や運営等を行う人』それぞれにとってメリットのある取り組みだと考えており、このような空間がさらに広がっていくことがスポーツ界にとっても良いことであると考えています」(青山氏)
スポーツを中心とした地域活性を行っているところも増えている。しかし、ただ施設を作れば活性化につながるのかというとやや疑問が残るところ。やはり、中心となるスポーツアリーナが競技者はもちろん、利用者にとってもどれだけ機能的で魅力的か。それが次世代スポーツアリーナにとっては重要なポイントだ。