記者会見で発言するトヨタ自動車の豊田章男社長。
提供:トヨタ自動車
「カーボンニュートラルの達成には、各国のエネルギー事情が大きな影響を及ぼしていることも事実。それは、トヨタにはどうしようもないということをご理解いただきたい」
12月14日、電気自動車(EV)の2030年の新車販売を従来の200万台から 350万台に拡大するというトヨタ自動車の発表は、世界中を駆けめぐった。
このEV戦略説明会の記者会見で、豊田章男社長が口にしたのが冒頭の言葉だ。
12月14日の「バッテリーEV戦略に関する説明会」質疑の模様。
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豊田社長は以前から、カーボンニュートラルの実現にはエネルギー政策抜きには語れないとし、「2050年カーボンニュートラル宣言」を行った日本政府には、エネルギー政策の大転換を求めてきた。
なぜなら、EVを動かす電気、それを「再生可能エネルギーの比率の高い国で生産するEV」と「そうでない国で生産するEV」では、カーボンニュートラルへの貢献度合い、つまり二酸化炭素(CO2)の削減量に大きな差が生じるからだ。
どれほどの差が出るのか。そのイメージは、各国がどのような発電方法で電気を供給しているのかを見ればよく分かる。
「EV最先進国」ノルウェーと日本の違い
まずは、「EVが一番進んでいる地域」として、前田昌彦・最高技術責任者(CTO)が例に挙げたノルウェーを見てみよう。
ノルウェーは、新車販売台数におけるEV比率が世界で最も高く、2020年は70%を超えた「EV最先進国」だ(【図1】)。
【図1】ノルウェーのEV・PEVの販売台数の推移(2016〜2020年)。直近2020年には新車販売におけるEVの占める割合が70%を超えている。
出所:経済産業省「次世代自動車普及動向の調査報告書」
ノルウェーの発電源別電力供給量の割合(電源構成)を見ると、9割以上が水力発電(【図2】)。残りは、天然ガス火力と太陽光でほぼカバーしている。
【図2】ノルウェーの電源別電力供給量の割合(1990〜2020年)。圧倒的に水力発電が多いことがわかる。
出所:IEA「Electricity Information」
一方の日本はどうか。
まずは、新車販売台数に占めるEV比率を見てほしい(【図3】)。折れ線グラフの数値が低いために見づらいが、1%未満で推移している状況だ。
【図3】日本のEV・PEVの販売台数の推移(2010〜2020年)
出所:経済産業省「次世代自動車普及動向の調査報告書」
日本の電源構成はどうなっているのか。
先述のノルウェーと同じ国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、石炭、石油、天然ガスという化石燃料が7割以上を占め、再エネ比率は2割程度となっている(【図4】)。
【図4】日本の電源別電力供給量の割合(1990〜2020年)
出所:IEA「Electricity Information」
CO2を排出しない水力発電で、国内のほぼすべての電力消費を賄えるノルウェー。そうした特異な国と日本を比べるのは極端かもしれない。
日本と同じ「自動車大国」ドイツとの違い
では、日本と同じ「自動車大国」と言われるドイツと比べるとどうだろうか。
ドイツは、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)会期中、イギリス主導で約40カ国が署名した「2040年(先進市場は2035年)までに販売するすべての新車をゼロエミッション化する」という、いわゆる脱ガソリン車宣言にも、日本と同じく、政府として署名しなかった“仲間”でもある。
ドイツの新車販売台数に占めるEV比率は10%強と少ないものの、それでも日本の10倍はある(【図5】)。しかも、販売台数はこの1年で急激に増え、20万台に迫る勢いを見せている。
それに比べると、日本の1万台強はさすがに見劣りすると言わざるを得ない。
【図5】ドイツのEV・PEVの販売台数の推移(2010〜2020年)
出所:経済産業省「次世代自動車普及動向の調査報告書」
ドイツの電源構成はというと、すでに電源の約4割を再エネが占めている状況だ(【図6】)。
【図6】ドイツの電源別電力供給量の割合(1990〜2020年)。
出所:IEA「Electricity Information」
加えて、2038年までに石炭火力発電を廃止する方針を示すなど、豊富で安価な自国の石炭を捨て、電源のカーボンニュートラル化に向けて大胆なエネルギー政策を打ち出している。
一方の日本は、2021年10月に閣議決定された「エネルギー基本計画」で、再エネ比率を従来の22〜24%から36〜38%に引き上げる目標を掲げた。しかし、原子力発電の扱いを明らかにしていないなど、「目標数値先行」で実現性に疑問符がついたままだ。
「今年はCOP26があり、各国のエネルギー政策が見えてきた。その段階で、カーボンニュートラルビークルがこの目線(2030年に350万台)までであれば実現可能と考え、上方修正をさせていただいた」(豊田社長)
レクサス「RZ」をはじめ、新たなEVプロトタイプ16車種をバックに発言する豊田社長は、「EVに後ろ向き」だと世界中から貼られたレッテルを払拭してやろうという自信にあふれていた。
今後、豊田社長が繰り返し強調している「雇用」を守りながらどれだけ日本で生産していけるのか。そして、日本はEVでも「大国」と言えるだけのプレゼンスを発揮できるのか。
世界最大の自動車メーカー・トヨタが本気を出したその先は、日本政府の本気度が試されている。
(取材、文・湯田陽子)