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仮想通貨市場が弱含みのなか、メタバース上で人気不動産物件を獲得しようとする動きは活況を続けている。
2021年12月上旬の2週間で、投資家はバーチャル不動産に1億ドル(約110億円)超を投資した。販売された物件の価格は、数ドル(数百円)のものもあれば、最高430万ドル(約4億7300万円)のものもあった。
メタバース上の不動産ブームを牽引しているのは、バーチャル不動産サイト、高級ブランド、さらには著名人のファンたちだ。例えば、メタバースのザ・サンドボックス(The Sandbox:SAND)上にラッパーのスヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)がデジタル邸宅を所有しているが、その隣の土地を買った人の購入額は、45万ドル(約4950万円)だ。
現実の土地と同様、メタバース上のデジタル土地は供給に限りがあるように設計されている。ザ・サンドボックス上の土地は16万6464区画あり、それぞれがNFT(非代替性トークン)だ。また、別のメタバースのディセントラランド(The Decentraland:MANA)上には、9万区画の土地がある。各区画は50フィート四方(約15.24メートル四方)、つまり約232平方メートルの広さとなっている。
メタバース上の土地の評価は、現実の不動産評価と同じだとファンドストラット・グローバル・アドバイザーズのデジタルアセット・ストラテジスト、アーマンド・アギュイラー(Armando Aguilar)は言う。
「場所、サイズ、需要、既存の建造物等が、メタバース上のバーチャルな土地の評価基準となります。場所が重要なのは、場所が今後のマーケティングや来店者の動向に関わるからです」
メタバース版不動産情報サイト
パーセルの共同創業者兼CEO、ノア・ゲイナー。パーセルは、「ジロウのメタバース版」を目指すバーチャル不動産サイト。
Parcel
投資家がバーチャル物件を個別に選択するのは容易ではない。そこに目を付けたパーセル(Parcel)の共同創業者ノア・ゲイナー (Noah Gaynor)とイアン・マッカージー(Ian Mukherjee)は、バーチャル不動産サイトを立ち上げ、「メタバース版ジロウ(ジロウグループが運営するアメリカの不動産情報サイト)」となることを目指している。
ビジネススクールを卒業した後、ゲイナーとマッカージーはそれぞれ起業しようとしていた。その中で、2人は複数のメタバース上のバーチャル不動産情報を集約したサイトを考え出した。
「当時、仮想通貨取引所オープンシー(OpenSea)上に表示される物件を見ても、その位置関係や価値を知る術がありませんでした。私たちは、この問題を解決し、ユーザーエクスペリエンスを向上させられる確信がありました」とゲイナーは語っている。
ゲイナーとマッカージーは、レディット(Reddit)が運営するバーチャル不動産サイトRディセントラランド (r/decentraland)上の投稿で、後にパーセルとなる事業のモデルを紹介し、ユーザーとなり得る人たちからフィードバックを集めた。
「私たちの投稿が、その日のレディットの最上位に表示されました。これは本当にいけそうだ、と思いました。そこでフルタイムでとりかかり、このプロジェクトを全速力で立ち上げたのです」
パーセルのユーザーは、ディセントラランド、ザ・サンドボックス、クリプトボクセルズ(Crypotovoxels)、ソムニウム (Somnium)等、複数のメタバース上の物件を検索し、「パーセル・エスティメイト」という機能を通じてデジタル物件の推定市場価値を知ることができる。ジロウの「ゼスティメイト(Zestimate)」という物件価格を推定する機能と似ているものだ。
今後、ゲイナーとマッカージーは、全体像、近隣、人通りの統計等、売りに出ている土地をよりよく理解するための情報を提供する予定だ。
まだ注目されていない3つのARメタバース
フェイスブックが企業名を「メタ」に変更して以来、メタバースに関する関心は急拡大した。しかし、ゲイナーがより関心を持っているのは、まださほど注目されていない拡張現実(AR)メタバースだ。
パーセルの共同創業者兼CTOイアン・マッカージー(Ian Mukherjee)。
Parcel
市場情報会社スタティスタ(Statista)によると、モバイルARユーザー数は、2021年末までに8億人を超し、2024年には17億3000万人に達すると予想される。以前から噂されているアップルのARヘッドセットに対する関心も高まっており、2022年にはリリースされる可能性もある。
「仮想世界に広がる地図から土地を買えるARメタバースがいくつかあります。タイムズ・スクエアの区画や自宅の区画を購入することもできます。購入すると、ARグラスを装着して、その物件の詳細を見ることができます。物件に広告や看板を掲示すればそれも見られます」とゲイナーは言う。
ゲイナーが注目しているARメタバースは、OVR、スーパーワールド(Superworld)、アース2(Earth2)などだ。
OVRは最近、50万区画の土地を販売した。仮想通貨価格サイトのコインゲッコー(CoinGecko)によると、 OVRのトークン価格は過去1カ月で25%上昇した。
スーパーワールドは、世界全土の土地を地図化して648億区画に分けている。ユーザーは、歴史的建造物、自然遺産、その他象徴的な場所など、いずれの土地でもNFTで購入可能だ。
同様にアース2も「地球全土をデジタルで再現」している。ユーザーは土地を購入し、そこに建物を建設したり、商いをしたり、交流することができる。
プロジェクトの99%は失敗に終わる可能性も
ブロックチェーンに基づくメタバース上の仮想世界によって、土地の購入者は世界中に露出が可能となり、雇用さえ創出できるかもしれない。一方、メタバース上の不動産投資は、現実離れした喧伝だとする懐疑的な見方もある。
ペンシルバニア大学ウォートンスクールのケビン・ワーバック教授はInsiderの取材に対し、「メタバースやNFTに関しては、マネーロンロンダリングや仮装売買による価格吊り上げなど市場操作もあります。物事が落ち着くまで、何が本当の市場なのか、誰にも正確なことは分からないでしょう」と述べた。
ゲイナーの見方によれば、2017年のイニシャル・コイン・オファリングの流行や、最近のNFT芸術作品の価格急騰の場合と同様に、初期のメタバース・プロジェクトのうち99%は失敗に終わる可能性が高いという。しかし、時の試練に耐えたメタバース上の土地は、価値が上昇すると見ている。
「いずれのメタバースがキラーアプリを創り出すにせよ、そこで働き、お金を稼ぎ、遊び、建物を建てる人々がいれば、その土地の価値は必ず高まります。トラフィックが集中しているウェブサイトと同じです。つまりメタバースとは、3Dインターネットなのです」
(翻訳:住本時久、編集:大門小百合)