RTFKTのNFT商品、デジタルスニーカーでは、ストリートファッションとゲームが融合している。
RTFKT
ナイキは2021年12月中旬、同年5月に時価総額が3300万ドル(約37億3000万円)に達したデジタルスニーカーを製造するRTFKT(アーティファクト)を買収した。
契約条件は明らかにされていないが、ナイキがメタバース分野に積極的に進出するのはこれが初めてではない。ここ数カ月の間に、「メタバース・スタジオ(Metaverse Studio)」も設立しており、仮想世界に関連する特許もいくつか出願している。メタバース関連の役職に就いている社員もいる。
「ナイキが参入してきていること自体が、これは投機的なものではなく、本当に世の中がこの方向に向かっているのだという大きなメッセージを市場に送ることになります」と、「メタバースのゴッドマザー」として知られるキャシー・ハックル(Cathy Hackl)はInsiderの取材に対して語った。
アディダスも最近、人気NFTプロジェクト「ボアード・エイプ・ヨット・クラブ(Bored Ape Yacht Club)」の創設者や、NFTコレクターの「ジーマネー(Gmoney)」など、メタバース関連の著名人との提携を発表している。
メタバースに基盤を築けば、現実世界だけでなくデジタル世界においてもリーディングブランドになれる可能性がある。ハックルによると、ファッションブランドや美容関連のブランドが業界をリードしているという。
仮想世界 「ザ・サンドボックス(The Sandbox)」 の共同創設者で最高執行責任者(COO)のセバスチャン・ボルジェ(Sebastien Borget)が最近Insiderに語ったところでは、2021年12月9日までの1週間で、ザ・サンドボックス上で総額7000万ドル(約79億1000万円)以上の商品価値が生み出された。
「ファッションは当然、メタバース上で莫大な収益を上げることになるでしょう。メタバースにはキャラクターがいて、そのキャラクターは何かを身に着ける必要がありますから」と、NFTとメタバースを専門とするデジタルエージェント、「ルッキンググラスラボ(Looking Glass Labs)」の創業者兼CEOのドリアン・バンクス(Dorian Banks)は言う。
同エージェントの子会社である「ハウスオブキバー(House of Kibaa)」は10月、GenXプロジェクトとして知られる、ハイパーリアル3D NFT1万個を、わずか40分足らずのうちに約450万ドル(約5億8500万円)で完売したと明かした。このプロジェクトは、ラリティーツールズ(Rarity.tools)というサイトで179位にランクインしているが、こうしたサイトからはNFT全般に希少価値があることがうかがえる。
ハウスオブキバーは、GenXのアバターを利用でき、現実世界のように見えるメタバースを開発中だという。同社はガターキャットギャング(Gutter Cat Gang)向けの3Dレンダリングや、ボアード・エイプ・ヨット・クラブ向けの概念実証(Proof-of-concept)デザインも手がけている。
「我々のところに商品を売りに来る人たちは、先を見通す洞察力を持っています。ただ2DのNFTを作って、それをお金と引き換えに誰かの手へ渡して立ち去るのではなく、自分たちが作ったNFTをメタバースの中でやり取りすることを楽しみにしているという人たちです」とバンクスは言う。「彼らはただアート作品を作って売って終わりではなく、何かワクワクするようなことに関わりたいと思っているのです」
メタバースにおいてファッションの有用性が高いことはすでに明らかになりつつある。バンクスは、バーチャルファッションがメタバース内でこれからどう展開されるかについて、3つのポイントを語った。
1. ハイブリッドファッション
ブランド「ドルチェ&ガッバーナ」は最近、バーチャルアイテムと現実世界のファッションアイテムを組み合わせたファッションコレクション9点を総額600万ドル(約6億7800万円)で売却した。
バンクスは、今後こうした形の販売がさらに増えると予想している。
「現実世界で限定版の『シュプリーム』ジャケットを購入すれば、NFTのコードも手に入るということに(なるかもしれません)」とバンクスは言う。「このように現実と仮想現実世界の両方にまたがる商品が今後は増えるでしょう」
2. バーチャル店舗の立ち上げ
バンクスは、さらに多くのブランドが、仮想世界の中でアバターがキャラクターのアイテムを購入できるメタバース専用の店舗を立ち上げるだろうと予測する。
3. 取り扱いアイテムの購入履歴(出所)の管理
サプライチェーンの管理においては、ブロックチェーンが大きな役割を果たすことが期待されている。バンクスは、これは出所が重要となる高級ファッションブランドでは注目すべきポイントになると見ている。
「例えばルイ・ヴィトンの財布を買うと中に商品タグがついていますが、それと同じようにバーチャルのヴィトンの財布には中にQRコードがついていて、直接スキャンすると購入履歴が瞬時にブロックチェーン上に表示され、この財布が確かにルイ・ヴィトンによって製作されたものであることが確認できます」とバンクスは説明する。
メタバースの今後の展望
ますます多くのブランドが、これからメタバースに参入しつつあるようだ。しかしバンクスによると、すでにいくつかのブランドを抱えるメタバースには、いくつかの課題が待ち受けている可能性があるという。
「例えば、フォードがメタバースで新車発表を行っているときに、ロボットに扮した人がその新車に勝手に乗り込んできたらどうなるのか。そういう点にまで考えが及んでいる人はあまりいないません」とバンクスは指摘する。
つまり、メタバース環境では匿名の人物による迷惑行為が常に存在するだろうというのだ。
「そういった行為にも対処する術が必要です。そうでなければこれらのブランドの事業も軌道に乗らないでしょう。なぜフォードがわざわざメタバース環境にやってきて、自社ブランドをこのような脅威にさらすことをするのでしょうか」とバンクスは言う。「これは難しい問題です。希望者全員を招待しつつ、何か問題が起きたときにどう管理するか、またはどう穏便に解決するかは悩ましいところです」と続けた。
バンクスはまた、今後たくさんのメタバースが立ち上げられ、消費者の注目を集めるための競争が激化することで、分断につながる可能性があるとも述べた。
ハウスオブキバーのメタバースは、ゲーム開発エンジンのアンリアルエンジン(Unreal Engine)上に構築されており、2022年にベータ版がリリースされる予定となっている。一方、それ以外のメタバースの多くがユニティ(Unity)上に構築されており、相互運用性が複雑になる可能性があるとバンクスは指摘している。
バンクスはリアリスティックな(本物そっくりの)メタバースに対して強気の予想をしており、2022年公開予定のハイパーリアルメタバース、ワイルダーワールド(Wilder World)に投資している。しかし、現在の市場は若干下げ相場の兆しもあるため、バンクス自身は仮想通貨投資には慎重な姿勢で臨んでいると述べた。
一般的に12月にはタックス・ロス・ハーベスティング(訳注:損失の出ている投資資産を売却して損出しをし、課税見込みの売却益と相殺して税額を抑えること)が行われるため、 NFTのオーナーが資金調達のためにトークンを売却するなど、季節要因の売りが出てくる可能性があるという。
バンクスは、「投資資産の売却益には多額の税金がかかることは分かっているので、大きな損失を出しているNFTの一部を売却すれば、少しでも税額を抑えられます」と言い、 「今、特にNFTの世界では、そうしたことを背景とする売買も行われているため、1月と2月には弱気相場になる可能性があります」と付け加えた。
(翻訳:渡邉ユカリ、編集:大門小百合)