今回は2021年の転職市場を振り返りつつ、2022年の予測をお伝えします。
現在~2022年は、一言で言えば「チャンス」の時期。チャンスをつかむためにどう行動すればいいか、この年末年始を利用して何をすればいいかについてもお話しします。
2021年に続き、2022年も求人は活況の見込み
2021年秋、ようやく緊急事態宣言が解除されました。しかし、実は企業の採用活動は2020年後半からすでに回復し、2021年はずっと活況だったのです。
時代が急激に変化する中、各社は「変革待ったなし」とばかりに、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進を掲げ、それを担う人材獲得に動きました。
コロナ禍においては、リーマン・ショック後の不況期とは異なり、国からの補助金や金融機関からの融資が手厚く、企業は通常よりも資金調達がスムーズに運びました。資金に余裕ができた分、人材に投資しているのです。
また、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」が叫ばれるように、少子高齢化が進み、労働人口の減少がさらに加速していきます。そして今、経済活動が元に戻り始め、人材不足のひっ迫感がさらに強まっています。私のところにも、毎日のように新規の求人依頼が寄せられています。
30年近く人材ビジネスに携わってきましたが、これほどの求人活況は過去に類を見ないほどです。
この環境は2022年も継続するでしょう。それを確信する根拠として、「人事担当者の採用の増加」があります。
今の時代に合った採用戦略を立て、多様な採用手法を駆使して人材を獲得するノウハウを持った人事・採用のプロを採用する動きが活発化しています。また、これまで自社にいなかった人材を受け入れ、定着を図るために、人事制度改革を推進できるHRのプロや、エンゲージメントを高めるためのカルチャー作りを実現できるCHROなどを求める求人も増えています。
こうした動きから、企業が採用にかける「本気」が見てとれます。
「DX」に関わる人材ニーズが続く
では、どのような人材のニーズが高まっているのでしょうか。
冒頭でも触れたとおり、最も求人が多いのが「DX」に関わる人材です。
あらゆる業種・規模の企業がDXに取り組んでいますが、社内人材のアサインだけではうまくいかず、デジタル分野に強みのあるプロフェッショナルを採用。責任者レベルの人材を採用できない場合は、業務委託人材や外部のコンサルティングファームの力を借りています。
そして、DXの旗振り役となる人材だけでなく、デジタル導入後に発生する業務に対応する人材も必要です。
その役割を分解すると、「守り」と「攻め」があります。
「守り」は、既存の業務にデジタルツールを導入して生産性アップを図る取り組み。経理なら経理、物流なら物流など、それぞれの現場の知識を備え、かつ「業務改善」の視点を持ち、プロジェクトワークができる人が求められます。
「攻め」は、デジタルを活用した新しいサービスやビジネスモデルの開発。分かりやすい例を挙げると、「店舗販売をECに転換する」などです。メーカーも、卸や量販店を通さず、消費者にダイレクトに商品を届ける仕組みを模索。会員制サービスなどで接点を持ち、ニーズを吸い上げて商品開発に活かす……といった施策を打っています。
こうした取り組みでは、ビジネス開発、ECの構築・運営、デジタルを活用したマーケティングやチャネル作りといった経験者が求められます。
なお、ビジネス開発や商品開発にあたり、「サステナビリティ」「SDGs」の観点を取り入れられる人のニーズも高まっています。
企業が狙うメインターゲットはDXプロジェクト経験者なのですが、採用は困難。そこで、理系出身でプロジェクトワークに慣れている人、あるいは文系出身でも「仕組み作り」やITツール導入に携わった経験がある人などが採用に至っているケースがあります。
成長分野に飛び込むなら、早いうちがいい
テクノロジーの進化は、この先もとどまることはありません。「デジタルを活用した変革」は、これからも続いていくことでしょう。この分野でスキルを磨けば、長く活用できるはずです。
DXの道へ踏み出すのであれば、なるべく早い時期に決断することをお勧めします。
なぜなら、DX経験者がまだマイノリティで希少性が高い現在は、募集に際しての要件が明確に定まっていないからです。「どんな人が活躍できるのか」「どんな人がDXプロジェクトをうまく回せるのか」が、まだつかめていないのです。
そこで各社は、手探り状態で、「経験を問わず、多種多様な人に会ってみよう」というスタンスで選考を行っています。そして、何らかの化学反応を期待し、異業種から人材を迎えていたりします。
しかし、もうしばらく経つと、DX人材採用が科学的に分析され、人材要件が絞られてくるでしょう。すると、DX採用の門戸は狭まっていきます。もちろん、DXの「経験者」も増えていくため、未経験から飛び込むにはハードルが高くなります。
ですから、企業側が「思いきった採用」にチャレンジしている今、働く人も思いきったチャレンジをしてみるといいと思います。
ファーストアプローチは、オンラインでのカジュアル面談でOKなので、気軽に感触を確かめることができます。
一歩を踏み出してみれば、思いがけない企業とご縁を結べるかもしれません。
「リスキリング」による職種チェンジも増加へ
今後の転職トレンドの一つとして、「リスキリング」も注目されています。
これは「学び直し」「新たなスキルを習得する」の意。キャリア開発の分野では、「これからの時代に求められる分野のスキルを身につける」という意味で語られます。
リスキリングをサービスとして提供する企業も増えてきました。
例えば、店舗での販売や飲食業での接客を行ってきた人を対象にITスキルの習得プログラムを提供して、プログラマーとしての就業を支援する。ウェブデザイナーの養成講座なども人気です。
ほか、セールススキルを学んでもらい、近年ニーズが伸びている「インサイドセールス」や「カスタマーサクセス」などの職種への就業を支援する……といったように需要がひっ迫している仕事領域でのサービスが活況です。
リスキリングによって、SaaS(クラウド上で提供するソフトウェアサービス)などの成長分野へ転職する動きは、2022年も活発化するでしょう。
これからの時代に必要な2つの力を養おう
これからの時代、どんな業種・職種においても必要とされる力は、大きく2つあると考えています。
一つは、環境の変化に応じて柔軟に対応していける「変化対応力」。もう一つは、さまざまなバックグラウンド・考え方を持つ人たちと連携してプロジェクトを進められる「共創力」です。
中長期視点でキャリア構築を図ろうとするなら、2022年はこの2つを磨くことを意識してみてください。
最初は簡単なことからスタートしましょう。
例えば、このお正月に「いつもは購入しているおせち料理を手作りしてみる」「初詣は、いつもと違う神社へ行ってみる」「行ったことがない土地へ旅行してみる」など。
普段の習慣とは異なる行動をすると、新たな発見があります。そうした変化を「楽しむ」経験をしてみてください。
それを重ねることで「変化対応力」が養われていきます。
また、「共創力」は、普段交わらない人々とコミュニケーションをとることで身につきます。
この年末年始には、いつもは避けている親戚の集まりに加わってみたり、今まで参加したことがなかった同窓会に参加してみたりと、多様な人と会うことを心がけてみてください。
対話をするだけでも効果がありますが、「今年はこれを一緒にやってみよう」と、何かの活動を企画してもいいでしょう。
また、2022年に向けて、「○○力のポータブルスキルを磨く」と決めて、その「○○力」をう養うための学びを意識するのもお勧めです。
ポータブルスキルとは、業種・職種問わず持ち運びができるスキルのことで(本連載の第7回を参照)、受容力、傾聴力、瞬発力、持続力、発想力、分析力など、さまざまな種類があります。
「自分はこのスキルが強い」と思うものを1つ定め、1年間、それに磨きをかけることを意識してみてはいかがでしょうか。
Web上には、自分のポータブルスキルを診断するツールも多数あるので、それを利用してもいいでしょう。
情報過多の現代において、常に知識を更新し続けない限り、5年先に使える知識は15%と言われています。自ら学び、知識や知恵を活かしていく「学習力」こそが大事なポータブルスキルと言えるかもしれません。
自分の中だけの決断では実行に移せないこともあるため、SNSで新年の挨拶とともに、「今年はこのスキルを鍛えます!」と宣言しておくのもいいですね。
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※本連載の第68回は、1月10日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。