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デジタル庁に乗り込んだコンサルが見た、想像超える紙文化と改革を阻むもの

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デジタル庁で働く大西亜希さんは、コンサル企業の経営者でもある。

撮影:横山耕太郎

霞が関の地盤沈下が続いています。

国家公務員の総合職試験の申込者は、2021年度は1万4310人。ピークだった1996年の4万5254人から半分に減少しています(当時は国家Ⅰ種)。

また内閣人事局が2019年11月~12月、国家公務員に実施したアンケート調査では、30歳未満の男性国家公務員の7人に1人(14.7%)が「数年以内」に辞職意向と答えており、若手の離職問題も深刻になっています。

そんな霞が関の“一つの挑戦”として注目を集めているのが、2021年9月に発足したデジタル庁です。

約600人の職員のうち、200人は民間企業出身者。そのほとんどが、非常勤の国家公務員として兼業・副業で働いていています。

連載「霞が関異変 デジタル庁」では、民間人材と官僚がごちゃまぜに働くデジタル庁でいま何が起きているのか、5回にわたりその実態に迫ります。

初回は、副業としてデジタル庁で働く、コンサル会社の経営者とベンチャー企業広報の2人に、「内側から見た霞が関」について聞きました。

外資系コンサル・アビームを経て独立

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撮影:今村拓馬

「こんなに混沌とした組織は、正直、他にはないと思います」

デジタル庁でITストラテジストという肩書で働く大西亜希さん(42)はそう話す。

2021年4月から、非常勤の国家公務員として働き始め、現在は週3日デジタル庁、週2日は自らが社長を務めるコンサル企業で働いている。みずほ情報総研やアビームコンサルティングを経て、2011年に自らコンサル会社を起業した業務・ITコンサルティングのスペシャリストだ。

大西さんがデジタル庁の副業人材募集を知ったのは2020年11月。第2子を出産後の育児休業中のことだった。

「当時は10万円の定額給付金の支払いが遅いとか、新型コロナの感染数をFAXで報告していることが話題になった時期でした。

きっと霞が関で働いている人たちは『一生懸命やっているのに、働きがいを感じられない状況なんだろうな』と思ったのが、応募のきっかけでした」

コンサルとして大西さんが主戦場としているのが、BPRと呼ばれる業務改革の分野。主に中堅企業が販売管理や生産管理などの基幹システムを入れ替える際に、業務の課題を整理しベンダー選定の助言をしている。

「仕事をする上で『社員のみなさんがいきいきと働けるようにする』ことをミッションにしているので、デジタル庁で私のスキルを生かせると思いました」

しかし、デジタル庁で大西さんが直面したのは、想像を超える「紙文化」だった。

紙文化が生む膨大な作業量

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霞が関では「紙文化」が根強く、DXの遅れが目立つ(写真はイメージです)。

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大西さんが所属するのが、省庁の枠を超えてデジタル化を進めるための「省庁業務サービスグループ」。大西さんの担当は、法令(法律や政令など)データベースの運用の見直しだ。

総務省は2016年、 「法令案の立案や参考資料作成の作業を飛躍的に効率化する」ために法制執務業務支援システム・e-LAWS(イーローズ)を導入。

現在はデジタル庁がこのシステムを所管しているが、実際にはほとんどの工程でe-LAWS(イーローズ)は活用されていない。

例えば法令を改正するときは、改正箇所の法令案をワープロソフトで作り、それを印刷して内閣法制局らの審査を受け、修正点をワープロソフトで書き込むのが一般的という。

これらのプロセスでは、文書ファイルをインターネット上で共有・編集することはなく、紙での確認がベースになっている。

「最後の最後、国会審議などの前になってはじめて、文書をPDF化してe-LAWS(イーローズ)にアップロードしています。e-LAWSという器だけを先に作ってしまい、そのプロセスはローカルファイルや紙のままで一元化されていません。

本来の目的だった業務の負荷軽減にはつながっていない」

しかも、情報が一元化されていないため、法令をネット上で開示するまでに多くの時間とコストも発生してる。

法律の改正プロセスでは、国会での審議は紙で行われており、最終的に改正内容を法律に反映される作業は、人が手動で行っている。

デジタルの場合は、アップデートした文章を発行すれば、自動で終わる作業ですが、それを阻んでいるのが霞が関と永田町の伝統です。各省庁や内閣法制局、国会がそれぞれのやり方で作業をしているので、一気に変えることは難しいと思い知りました」

霞が関と民間の違いは「トップダウン」

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大西さんは「霞が関の業務改革は民間とは違う課題も多い」と話す。

撮影:横山耕太郎

民間企業でのコンサルとは、決定的な違いもあるという。

「これまでのやり方を変えたくないのは、霞が関も民間もみんな同じです。ただ民間企業にとっては、無駄なコストを減らしてサービスを充実させることは、利益に直結する死活問題。なので民間の場合、こうした全社にまたがる業務改革(BPR)はトップダウンで進めます。しかし霞が関の場合、省庁横断で全体のリーダーシップをとる人がいません

また行政に特有の課題として、目標設定が難しいという事情もある。

「民間で言えば売り上げや利益の向上などのような分かりやすいKPI(重要業績指標)が、霞が関では立てづらいという課題もあります。その指標が揺らいでしまうと、何が適正かを判断するのはとても難しくなってしまいます

「民間の当たり前」根づかせたい

課題は山積しているものの、大西さんは「ハードな現場が好きで、高い山の方が楽しめる方」と笑みを見せる。

そして霞が関にも「民間の当たり前を取り入れたい」と意気込む。

「組織を超えてアイデアを出し合うという“横ぐし”的な考え方が、霞が関は苦手だなと感じます。ちょっと横のグループや課、省庁に話を聞けば済むのに、『組織上のラインを通してからの方がいいのでは』となって余計な工数が生まれています。

でもそれは経験がないだけです。コンサルの世界ではKnowing Doing Gapと言いますが、知識があっても実際にやってみるとうまくいかない。デジタル庁はこれからその時期を迎え、実践が大事になってくると思います」

大西さんは霞が関に「民間流」を広げるため、どうインタビューするのか自ら実践して示したり、インタビュー項目をまとめたインタビューシートを提供したりしている。

「数年で終わる仕事ではないと思いますが、デジタル庁という巨大組織に挑むことは私のキャリアのプラスにもなります。非常勤のスペシャリストが組織に入っていくという働き方は、今後、日本でも注目される働き方になるはず。その意味でも、副業としてデジタル庁で働けることは貴重な経験だと思っています」

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