無料のメールマガジンに登録

平日17時にBusiness Insider Japanのメルマガをお届け。利用規約を確認


映画『マトリックス レザレクションズ』で考える、メタバース技術をめぐる22年の進化

『マトリックス レザレクションズ』

18年ぶりの新作の上映が12月17日から封切られた最新作『マトリックス レザレクションズ』。

撮影:Business Insider Japan

12月17日から映画『マトリックス』シリーズの18年ぶりの最新作『マトリックス レザレクションズ』が封切られた。仮想現実を題材とし、その後の映画表現を変えてしまったエポックの続編だけに、筆者が見た初日夜の回も席はかなり埋まっていた。

その最新作に合わせて12月10日、PlayStation 5とXbox Series X向けに、「The Matrix Awakens: An Unreal Engine 5 Experience」(以下UE5版マトリックス)という無料のデモアプリも公開されている。

あまりのリアルさに、配信直後からネットで非常に話題になったが、レザレクションズを見たあとでは、改めてこのデモアプリが持つ「技術的な意味」の大きさを感じさせられた。

家庭用ゲーム機で、なぜここまでリアルな映像が表現できるようになったのか? この事実は、22年前に映像の世界を変えた『マトリックス』とも、決して無関係ではなくなってきている。

映画とゲームを繋げる「リアルタイムCG」の現在を深掘りしてみよう。

ゲーム機のリアルタイムCGは「映画」的な表現に近づいた

デモアプリ「UE5版マトリックス」は、初代マトリックスを再現したシーンからスタートする。登場するキアヌ・リーブスやキャリー=アン・モスは一見実写映像のように見えるが、実際にはほとんどすべての部分がCGだ。

マトリックス レザレクションズ

まるで実写のように見えるが、CGで再現された顔だ。

PS5版からのスクリーンショット

matrix_res-10

PS5版からのスクリーンショット

このCG表現でテクノロジー的に非常に重要なのは、映画のマトリックスとは違い、CGが「リアルタイム生成」、つまりその場のゲーム機本体で演算したもの、という点だ。

家庭用ゲーム機で、ここまでリアルな映像表現ができるようになったことは、半導体、ストレージなどの進化なくしてはありえない。1作目の『マトリックス』から22年を経た、技術的進化そのものと言って良い。

1999年に公開された初代『マトリックス』は、斬新なビジュアルエフェクトで話題をさらった。時間が突如スローモーションになり、登場人物の周りをカメラがグルリと一周する「バレットタイム」はマトリックスを代表するエフェクトだ。

この演出は、その後多くの映像作品でオマージュされていく。新作『マトリックス レザレクションズ』の中でも、バレットタイムの名前はちょっと象徴的な形で登場する。

マトリックスのバレットタイムも再現

ゲーム機で遊べるUE5版マトリックスの中でも、バレットタイムはちゃんと再現されていた。

PS5版からのスクリーンショット

実写映画のような映像のなかで「自由に遊べる」時代に

初代マトリックスがすごかったのは、登場人物を積極的にCG化し、「本人に見えるCG」同士が演技し、アクションを繰り広げたことも、見どころだった。

映画やドラマでの高品位なCGは、時間をかけて演算した上で生み出される。1999年に初代マトリックスが作られた際には、1コマ(24分の1秒)に数時間の演算処理かけることも珍しくなかった。

UE5版マトリックスは、ある意味ではそのオマージュでもある。動画的な「映像を見る」シーンがしばらく続いたのち、そのままコントローラーで操作して敵を倒すシーンへと流れ込む。

遊んでいるプレイヤーは、当初は事前に動画保存(プリレンダリング)された映像をみさせられているのかと思いきや、実は今まで数分間みてきたものは、動画ではなくリアルタイムCGそのものだった……と気づき驚かされる、という粋な仕掛けだ。

戦闘シーンが終わると、今度は自分で街中を自由に歩き、マトリックスのリアルな世界で空を飛ぶこともできる。

matrix_res-13

途中からデモはプレイ可能に。激しい銃撃戦がはじまったときにリアルタイム処理で動いている映像だと気づいて驚いた、という声も。

PS5版からのスクリーンショット

matrix_res-08

銃撃戦が終わると、自由に街中を動き回れるようになる。

PS5版からのスクリーンショット

映画で見たままに近い映像のまま、自分で自在に操作できるゲームになる —— これが、今のCG技術の到達点ということだ。

「アンリアルエンジン」はここまで来た

matrix_res-09

UE5版マトリックスのデモでは、トリニティのセリフとして、Unreal Engine上で動いていることをネタにするような、メタ的なセリフ演出もある。

PS5版からのスクリーンショット

今回のデモに使われている「Unreal Engine(アンリアル・エンジン)」とは、Epic Games社が開発したゲームエンジンのこと。その名の通り、「ゲームを作るために必要な画像表示・音声再生などの機能」をまとめたものだ。

ゲーム会社はゲームエンジンを採用することによって、多くのゲームで使われる要素を自社で再開発する必要がなくなり、開発効率が上がる。

大規模なゲームが複数のゲーム機やPCで同時に発売されるようになったのも、比較的規模の小さな独立系プロジェクトである「インディゲーム」が増えたのも、これらゲームエンジンが普及したからだ。

今回、Epic Gamesがマトリックスとコラボしたのは、同社の最新エンジンである「Unreal Engine 5」の機能をアピールするためだ。YouTubeやTwitterでの反響を見れば、その思惑は大成功したように見える。

しかし、なぜUE5では、リアルタイムかつリアルな映像を作れるようになったのだろうか?

20年以上も「まるで実写だ」と言い続けてきたが今回はレベルが違う

matrix_res-12

道路で爆発が発生する部分でも、周囲の日差しの陰影や、都市高速を走るクルマの動きは実にリアルだ。

PS5版からのスクリーンショット

技術が進化するたび、CGはリアルになる。

新しいゲーム機が出ると毎回のように「まるで実写みたいだ」という感想がネットを駆け巡る。しかし、冷静に考えると、それも初代マトリックスの頃から続いている。20年以上「実写みたいだ」と、私たちは言い続けてきたわけだ。

ただ、従来の「実写みたい」は「ゲームだけど」という枕詞付きだったように思う。今回のUE5版マトリックス・デモは、かなり「ゲームだけど」という言葉を外せるリアリティがある。

リアルに感じるようになった理由はいくつもあるが、特に大きいのは、次の3つの要素だ。

1. 「細かい部分がちゃんと描かれるようになったこと」

過去のゲーム機では、処理性能の問題から、物体の細部を細かいまま再現するのが難しかった。滑らかに動くサイズにするために、細部を簡素化したデータを使うことが多かった。

だがUE5では、映画むけに作られた複雑で巨大なデータを生かす「Nanite」(ナナイト)と命名された技術が搭載された。現実感のある詳細なデータを、複雑さをできるだけ保ったまま表示できるようになったのだ。

matrix_res-04

一見実写の都市の風景のようにみえるが、紛れもなくリアルタイムで演算された「ゲーム画面」。その証拠に…。

PS5版からのスクリーンショット

matrix_res-03

「Nanite可視化」モードに切り替えるとこう見える。CGは物体を細かな三角形に分割して描画するのだが、「Nanite」という新技術により、複雑な物体を解像感を保ちつつ、低い負荷で表示可能になった。

PS5版からのスクリーンショット

2. 家庭用ゲーム機では難しかった「遠くまで風景が自然に描かれるようになった」こと

マトリックス

遠いところまで自然な緻密さで描けるようになったことでより「リアルさ」を感じる。

PS5版からのスクリーンショット

風景は、奥に行くほど物体の細部が見えづらくなる性質がある。これを利用すれば、CGを描くための物体も(奥に行くほど)簡素な描写で良くなる。けれども、従来は奥行きに合わせて段階的に、3D CGのモデルを差し替えていたため、現実には存在しない「切り替えタイミング」が感じられ、不自然さにつながっていた。

これをUE5では、Naniteを使い自然に「3D CGモデルの複雑さ」を可変させることで、奥行き表現の自然さを大幅に改善している。

3. 最後はそれら効率的に扱うAIテクノロジー

UE5版デモの中では、車や人の動きはAIで制御されており、周囲の状況に合わせて自動で動いている。広い土地に作られた建物なども、多くの部分がソフトウェアによって自動的に配置されたものだという。

リアルな物体や人物を、ソフトウェアの力で省力化して配置し、AIで現実味のある挙動を実現しているからこそ、街の様子は「リアル」に感じるのだ。

「マトリックスの世界」を実現するための、グラフィック性能アップ以外のカラクリ

matrix_res-11

初代マトリックスの有名なこのシーンもCGで再現されている。

PS5版からのスクリーンショット

こうしたことは、ゲーム機のグラフィック性能が向上したからできるようになった—— と思われがちだ。しかし、コンピューターの進化において重要な点が見過ごされている。同時に「ストレージ性能」が劇的に上がったからこそ、実現できることだからだ。

UE5版マトリックスのような、映画と見間違えるほど美しいデータは巨大で、読み込む際には時間がかかる。その中でプレイヤーが移動する場合、次のシーンを表示するためにデータの入れ替えも必要になる。

「データを間に合うように読み込める」だけの高速なストレージ能力がなければ、ここまでリアルな映像の実現は難しい。

UE5版マトリックスは、最新のPlayStation 5とXbox Series X/Sでのみ提供されている。その理由は明かされてないが、これら機種の共通点は「高速なSSDに特化した設計になっている」ことだ。これらの機種と一般的なビジネス用PCと比較した場合、読み込み速度は10倍違う場合も多く、一部の高価なゲーミングPCだけが実現できている速度と同水準にある。

もちろん、読み込み速度の違いだけが理由ではない(マーケティング的な契約がある可能性は高い)が、新型ゲーム機の「データ読み込みまで含めた性能の高さ」を活かす必要があって、今回のプラットフォームが選択されている可能性は高い。

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み