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中国では12月8~10日、1年の経済を総括し、翌年の経済政策の方針を決める中央経済工作会議(以下、会議)が開かれた。会議後の声明は、「中国の経済成長は需要縮小、供給面のショック、成長への期待低下という3つの圧力にさらされている」と現状を分析し、2022年は「安定」を最優先する方針を明確にした。
2021年前半はコロナ禍からいち早く抜け出し一人勝ちだったのが、後半は中国政府の方針や世界的な半導体不足によって急ブレーキがかかり、不安を抱えたままの年越しとなる。
2021年の中国経済を、2回に分けて振り返る。
1. トヨタ、テスラとの差をメガIT企業は埋められるか
トヨタ自動車は12月14日、2030年のEVの世界販売目標を350万台に引き上げると発表した。燃料電池車(FCV)と合わせ200万台としていた従来目標から大幅な引き上げで、「トヨタはEVに消極的」とのイメージを払拭しそうだ。
ガソリン車時代、トヨタは押しも押されもせぬリーダー企業だったが、テスラが量産車モデル3を発売し、ガソリン車からEVへの主役交代の機運が高まっている。
テスラブームに乗じて飛躍を狙っているのが、従来技術では存在感を出せなかった中国企業だ。一からEV製造に取り組んできたスタートアップが相次ぎ上場した2020年に続き、2021年は年初からバイドゥ、鴻海精密工業(ホンハイ)、シャオミなどメガITの参入がニュースを賑わせた。
米政府の規制でスマホ生産が難しくなった通信機器大手ファーウェイ(華為技術)も、自動運転などのソリューションを中国自動車メーカーに提供し始めた。
2021年後半はインパクトのあるEVへの新規参入はなかったものの、中国企業は着々と足場を広げている。
12月19日、高級車ブランド「紅旗」で知られる国有大手の中国第一汽車集団が日本初の販売店を大阪市に開いた。550~1150万円の高級セダンを販売し、2022年には多目的スポーツ車(SUV)やEVも投入。東京への出店も目指す。行楽施設やバス会社に商用車を納入し、日本での実績を積み上げて来たBYDも中型セダンEVの販売を始めたと日本経済新聞が報じている。
EV普及が進むヨーロッパでも積極展開しており、2019年に本格進出した国有大手の上海汽車集団は2021年、イギリスでの新車販売でホンダやマツダを上回るシェアを獲得する見込みだ。10月には新興EVメーカーの上海蔚来汽車(NIO)がノルウェーにショールームをオープンし、輸出を開始した。
2. Clubhouseブームは終われど黒幕企業の成長続く
2021年1月下旬から2月にかけて、音声SNSのClubhouseが大ブームになった。
中国では1月31日(現地時間)にテスラCEOのイーロン・マスク氏がTwitterでClubhouseでの配信を告知したことで、熱狂的なファンが殺到。フリマアプリには、招待枠が300~500元(約5000円~8500円)で出品された。
意識が高い人々が政治や経済を語る部屋を次々に作ったこともあり、大方の予想通りClubhouseはそれから10日も経たず中国でアクセスできなくなったが、音声通信技術を提供していた中国企業のAgora(声網)も一躍注目され、同社の株価は3週間で倍に上昇した。
Agoraはコロナ禍の非対面サービス需要拡大を追い風にClubhouseを含む新規顧客を多く獲得し、2020年6月にはナスダックに上場した。
同社の2021年7-9月の売上高は前年同期比46%増の4500万ドル(約51億円)で、顧客数も同41.3%増えた。音声技術は教育ソリューションや最近話題のメタバースなど応用範囲が広く、Clubhouseブームが終わっても、Agoraの業績は堅調に推移している。
3. Z世代重視は2022年に加速か
ファーウェイは今月、高級コスメを模したワイヤレスイヤホンを発売した。同社にとって初の「女性向けのガジェット」で、Z世代をターゲットにしている。
浦上早苗撮影
2021年の消費トレンドで、どの企業もターゲットにしたのが「Z世代」。特に女性だ。
中国都市部ではIT企業などに勤める高収入女性が増え、ストレスを解消するための「ご褒美消費」「癒し消費」でフィギュアやペットビジネス、低アルコール飲料市場が急成長した。
これらの市場を牽引したのが中国企業である点も、これまでとは違う。中国人消費者の間では海外ブランドの方が優れているとの価値観が強く、それが海外での爆買いにつながっていたが、「どこの国で生産されたかはあまり気にせず、人と違うものを持ちたい、自分に合ったものが欲しいと考える傾向が強い」(アリババマーケティング責任者)というZ世代の価値観に加え、愛国心や母国への自尊心を反映した「国潮(中国らしさを取り入れたデザインの流行)」、さらに中国企業の商品開発力、特にデザイン力の向上が中国ブランドの成長につながった。
中国の老舗企業がZ世代向けに新ブランドを立ち上げるなど、Z世代重視は2022年も加速しそうだ。これまで中国で圧倒的な強さを誇ってきたグローバル企業も現地ブランドとの競争が激しくなっている。
上期は上場ラッシュに沸いたが…
2021年前半の中国経済は、新興企業の勢いを感じさせる前向きなニュースが多かった。特に6月は配車アプリサービスのDiDi(滴滴出行)、EC大手京東集団(JD.com)系の京東物流など、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資する注目企業の上場ラッシュに沸いた。
しかし年後半に入ると、中国政府の規制によって、多くの産業が逆風にさらされることになる。そこで次週は、中国企業の成長に大きなかせとなった主要な規制や世界中を慌てさせた恒大ショックの余波、そして突如バブル化しているメタバースなどついて振り返ることにしよう。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。