コンテンツ制作量にかけては、他社の追随を許さないネットフリックス(Netflix)。ナスダックによれば、ウォールストリートのアナリストの少なくとも21人がネットフリックスの株は「買い」としている。
過去数年で数百億ドルの資金をオリジナル作品の制作に注ぎ込んできたネットフリックスは、『ブリジャートン家』『ザ・クラウン』から『クイーンズ・ギャンビット』『レッド・ノーティス』『イカゲーム』まで、ヒット作を次々に生み出してきた。
ただ、ネットフリックスも完全無欠ではないと指摘するアナリストもいる。動画ストリーミング業界の激しい競争の中でトップを走り続けるために、ネットフリックスが中長期的に取り組むべき課題を4つ指摘する。
1. 配信開始後に離脱が激増
『イカゲーム』『YOU―君がすべて―』などのネットフリックスのオリジナル作品は、配信開始直後こそ多くの視聴数を稼ぐものの、トップクラスの人気を誇る世界的ヒット作でさえ視聴数が激減する。——そんな調査結果が、2021年12月上旬、ニールセンによるアメリカのストリーミングデータを分析した調査会社モフェットネイサンソン(MoffettNathanson)から示された。
「(大人気シリーズであっても)それぞれの作品自体はコンスタントに視聴時間を稼ぐ長期的な効果に乏しいため、オリジナル作品制作への投資を継続する必要があるだろう」と分析するのは、アナリストのマイケル・ネイサンソン(Michael Nathanson)、ロバート・フィッシュマン(Robert Fishman)、ベン・ロズナー(Benne Rosner)、ジェイムズ・カセレス(James Caceres)だ。
また、オリジナル作品の制作中止のスピードも速まっている。
ウェルズ・ファーゴのアナリストであるスティーブン・カホール(Steven Cahall)らによれば、ネットフリックスで大きく期待されていた『カウボーイビバップ』の実写版は2021年11月に配信が開始され、最初の10日ほどで視聴時間が7400万時間近くにまで達した。
しかし、ハリウッド・リポーター(Hollywood Reporter)によれば、11月29日の週になると視聴数は59%減少し、1カ月も経たないうちに多額の投資をしていた次作の制作中止が発表された。
2. オリジナル作品より買い付け作品の方が好成績
ネットフリックスはオリジナル作品を大々的にプロモーションし、2021年11月初めに立ち上げた「TOP 10」のページでもその人気ぶりを宣伝している。しかし、オリジナルではない作品の方がはるかに成績がいいようだ、とモフェットネイサンソンは分析している。
2021年第3四半期にニールセンのトップ10リストにランク入りした40本のオリジナル作品は、ネットフリックスの総合視聴時間の11%弱を占めている。一方、同期間中にトップ10リスト入りした買い付け作品はたったの18本だが、視聴時間はオリジナル作品を大きく上回っており、アメリカの合計視聴時間の15%を占めていた。
ニールセンのデータが正しければ、オリジナル以外の人気作品を競合他社に取られてしまった場合、長期的な課題を抱えることになる。
最近ネットフリックスは、視聴データを「2分以上視聴したアカウントの数」から「合計視聴時間」へと変更した。これによって情報の透明性が高まりオリジナル作品の大ヒットは分かりやすくなったが、オリジナル作品と買い付け作品の集客力の差が明らかになったとも言える。
3. 人気作品の買い付けは今後困難に
ネットフリックスが最初のオリジナル作品シリーズ『リリハマー』を配信したのは2012年だが、ライセンス作品はその約5年前、2007年から提供を開始している。
「What's on Netflix」によれば、2021年第3四半期に入って毎週トップ10入りしている『MANIFEST/マニフェスト』『ココメロン』『グレイズ・アナトミー』『NCIS~ネイビー犯罪捜査班』『ハートランド物語』などの買い付け作品は、アメリカのライブラリの約6割を占めているという。しかし、バイアコムCBSやディズニーなどの競合も、自社の動画サービスのラインナップ強化を狙っている。
「今後はネットフリックスも、他のメディアから作品を買い付けにくくなっていくのではないでしょうか」とネイサンソンらは考察する。
4. 粗利率が低すぎる
モルガン・スタンレーのアナリストであるベンジャミン・スウィンバーン(Benjamin Swinburne)、トーマス・イエ(Thomas Yeh)、キャメレオン・マンソン=ペローニ(Cameron Mansson-Perrone)が2021年12月に公表したメモによれば、ネットフリックスの株は今でも基本的に「買い」であることに変わりはない。
しかし、オリジナル作品の制作に巨額の投資を行っているために粗利率は40%程度で推移しており、これがひとつの懸念事項となっている。
「ネットフリックスが、従来の大規模なテレビ事業に見られたような水準の(金利税引前利益)率に達するには、粗利率を40%以上に高めることが鍵になる」と3人は記している。
「つまり、ネットフリックスがこの粗利40%の壁を越えられないとしたら、競合他社にとっても相当厳しいハードルだということだ」
(翻訳・田原真梨子、編集・常盤亜由子)