ウォーレン・バフェット、 アリス・ウォルトン、 ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ。
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永遠に続くものはない。
アメリカで最も裕福な5人の資産を合計すると、8000億ドル(約90兆円)を優に超える。これはアメリカ社会の上層部がここ数十年間で計り知れないほどの富と権力を蓄積してきたことの表れだ。
しかし彼らの寿命もいずれは尽きる。
そうなった時には、彼らのパートナー、子ども、相続人たちは、莫大な不動産資産や有名企業の株式や、はたまたあふれるほどの現金が預けられた銀行口座を手に入れ、一気に棚ぼた式の収入を得ることになる。米HBOのドラマ、『サクセッション』を見たことのある人なら誰でも想像できるようなドラマが起こる可能性もある。
注目すべきなのは、アメリカで最も裕福な億万長者たちの多くが、テクノロジーセクターやそれに密接に関連する産業で財を成したことだ。
このことは何を意味するか。急成長している産業は、最初に富を築いた本人が亡くなったずっと後になっても、裕福なアメリカ王朝の新しい貴族階級を生み出す可能性があるということだ。
また、彼らのうち何人かは自らの財産を慈善事業に寄付している。しかし中には、ウォーレン・バフェット、メリンダ・フレンチ・ゲイツ、ビル・ゲイツから2010年に誘いを受けた「ギビング・プレッジ(Giving Pledge)」(訳注:資産家が自身の資産の半分以上を慈善活動に寄付するという「プレッジ(誓約)」を宣言する活動)に署名していない者もいる。
Insiderでは、「ブルームバーグ億万長者指数(Bloomberg Billionaires Index)」に基づいて、アメリカで最も裕福な5人の資産を分析し、彼らが亡くなったときに誰が利益を得るのか、彼らの死によって彼らが築いた“帝国”にどのような影響が出るのか、権力と富をめぐる諍いが起きる可能性はあるかを分析した。
なお、本稿で名前が挙がった億万長者や組織にはコメントを求めたが、彼らの計画や遺産の行方について話すことに同意した人物はいなかった。また各個人の純資産額は、2021年12月16日現在のブルームバーグ億万長者指数により算出された数値に基づいている。
5位:マーク・ザッカーバーグ
Facebookのイベント「Connect 2021」でのマーク・ザッカーバーグ
画像提供:Facebook
メタ(Meta、旧フェイスブック)創業者のマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)は、同社の議決権付株式の58%を支配できる二重株式構造のおかげで自身のソーシャルネットワークを強力に支配している。
しかし彼の子孫は、現在1250億ドル(約14兆円)と推定される資産から利益を得られる見通しであるものの、メタに対する絶対的な支配権は相続しない。メタの組織規定では、彼の死後3年でこれらの超議決権付株式を普通株に転換すると定められているからだ。
二重株式構造に対しては、同社の変革を求める投資家たちからの不満も大きい。いずれザッカーバーグがいなくなれば、同社は従来型のコーポレート・ガバナンスに対する責任がさらに増す可能性がある。
現在37歳のザッカーバーグは1つ年下のプリシラ・チャンと結婚しており、2人の間にはオーガストとマキシマという2人の幼い子どもがいる。ザッカーバーグの相続人たちは、ハワイにある1400エーカーの豪勢な牧場、カリフォルニア州タホ湖畔の別荘、モンタナのVIP用スキーリゾート、イエローストーン・クラブ(Yellowstone Club)の物件など、重要な不動産資産を手に入れることになるだろう。
しかし、ザッカーバーグは自分の財産の大半を子どもたちに残すつもりはないと述べている。ザッカーバーグと妻のチャンは「チャン・ザッカーバーグ・イニシアチブ(The Chan Zuckerberg Initiative)」という慈善団体を運営しており、マキシマが生まれたときにはFacebookに「私たちはこの慈善運動の推進のために(中略)保有するフェイスブック株の99%を生涯にわたり寄付する」と投稿している。
4位:ラリー・ペイジ
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グーグルの共同創業者、ラリー・ペイジ(Larry Page)はここ数年、議会の公聴会や報道機関を避け、世間の注目を浴びてこなかった。
同氏は2019年にグーグル親会社のアルファベット(Alphabet)CEOを退任し、現在は取締役と執行委員会の委員長を務めている。ペイジはすでに「最高〇〇責任者」クラスの経営幹部の地位からは退いているが、アルファベット株のおよそ6%を保有しており、2004年のIPO以降、約90億ドル(約1兆円)相当の株式を売却したとブルームバーグは試算している。純資産は現在約1280億ドル(約14兆5000億円)である。
ペイジとその妻で科学者のルシンダ・サウスワース(Lucinda Southworth)は、「ギビング・プレッジ」に署名していない。テクノロジーニュースサイトのリコード(Recode)が2019年に報じたところによると、ペイジは「大規模な個人的な慈善活動からはほとんど手を引いて」おり、自身の財団には何十億ドルも寄付しているものの、非営利団体には(少なくとも公的には)ほとんど寄付していないという。
2014年、ペイジは元テレビジャーナリストでトークショー司会者のチャーリー・ローズ(Charlie Rose)に対し、自分の財産は2人の子どもに与えるのではなく、イーロン・マスク(Elon Musk)のように世界を変える壮大なアイデアを思いつく起業家に与えたいと語っている。ちなみに、ペイジともう一人のグーグル共同創業者であるセルゲイ・ブリン(Sergey Brin)はともに初期のテスラに出資していた。
2011年にペイジは「センシーズ(Senses)」という全長194フィート(約59メートル)の高級ヨットを4500万ドル(約50億円)で購入したが、数年後に売却して規模を縮小し、小型ヨットに乗り換えている。
水中翼船の愛好家であるペイジはコロナ禍の数カ月をフィジーで過ごしたが、地元の住民は、ペイジが島を1つかそれ以上買ったのではないかと推測している。
3位:ビル・ゲイツ
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マイクロソフトの共同創業者、ビル・ゲイツ(Bill Gates)は、現在1360億ドル(約15兆4000億円)と推定されている資産の大半を、10代になる3人の子どもを含む自分の家族に譲るつもりはないことを明らかにしている。レディット(Reddit)が2013年に開催した質疑応答セッションでの発言はこうだ。
「子どもたちに多額のお金を残すことは、絶対に子どものためにならないと思います。この考えに反対する人もいますが、メリンダと私はそれでいいと考えています」
(一部報道によると、ゲイツは子どもたちにそれぞれ1000万ドルずつ残すつもりだとされているが、ゲイツはその数字をはっきりとは認めていない)
2021年、職場での不倫報道もあり、ゲイツは27年間連れ添った妻のメリンダ・フレンチ・ゲイツと離婚した。
ビル&メリンダ・ゲイツ財団(The Bill & Melinda Gates Foundation)は長年にわたり、数十億ドル規模の慈善寄付の窓口となってきた(ただし、離婚によって財団の行方は不透明だ)。しかし同財団が、別れた夫婦の相続人のための無期限の慈善団体になることはない。ビルとメリンダの死から20年以内に、資金をすべて使い切って段階的に閉鎖されることになっているからだ。
ゲイツの死がマイクロソフトに与える影響は最小限にとどまるだろう。彼は数年前から同社の経営に関与しておらず、同社の株式の大半を売却し、残りの保有株式は全事業の約1%程度となっている。
また、ゲイツは個人事務所のカスケード・インベストメント(Cascade Investment)を通じて、資産の多くを投資している。
2位:ジェフ・ベゾス
国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で講演するジェフ・ベゾス
画像提供:Steve Reigate - Pool/Getty
アマゾンは、創業者ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)が死去した場合、社風や経営の面での変化には直面せざるを得ないだろうが、1年前(2020年)と比べればその影響ははるかに小さいだろう。
ベゾスは2021年半ばにアマゾンのCEOを辞任し、その主導権を、長年にわたり同社の副社長を務めてきたアンディ・ジャシー(Andy Jassy)に譲った(ただしベゾス自身も取締役会長の座にとどまっている)。ベゾスは同社の発行済み株式の過半数までは保有していないものの、約11%を持つ筆頭株主だ。
資産運用会社のトクヴィル・アセットマネジメント(Tocqueville Asset Management)のポートフォリオマネジャー、ジョン・ペトライズ(John Petrides)は、「アンディ・ジャシー新CEOとジェフ・ベゾスを投資家がどう評価するかはいずれ分かるでしょうが、バトンが引き継がれてからは株価は基本的に横ばいとなっています。CEOにとって最も重要なのは、ビジョンを持ち、それを実行することです」と語る。
ベゾスが所有する民間航空宇宙企業、ブルーオリジン(Blue Origin)はより大きな影響を受ける可能性が高い。ベゾスはアマゾン株を売却して得た数十億ドルをブルーオリジンに投じて資金援助しているが、もし同社の相続人がベゾスの穴を積極的に埋めようとしなければ、新たな所有者が現れて戦略の大幅な見直しを図るかもしれない。
なお、Insiderはベゾス所有のワシントン・ポスト紙に対してもコメントを求めたが、やはり回答はなかった。
ベゾスは2019年にマッケンジー・スコット(Mackenzie Scott)と離婚しており、マッケンジー・スコットは夫妻が保有していたアマゾン株の25%を受け取っている。5億ドル相当の不動産資産を含むベゾスの資産は彼の子どもたちに渡ると見られている。
驚くことにベゾスは離婚してもなお1940億ドル(約22兆円)の資産を保有している。彼とスコットの間には4人の子どもがいて、最年子は21歳のプレストン・ベゾス(Preston Bezos)である。ベゾスは現在、ニュースキャスターのローレン・サンチェス(Lauren Sanchez)と交際中だが、このカップルが結婚する予定があるかは不明だ。
しかし、ベゾスが自分の思い通りに行動した場合、気になる点が一つある。報じられるところによると、ベゾスは不老不死を研究するバイオテクノロジー企業、アルトス・ラボ(Altos Labs)に資金提供しているとのことだ。
1位:イーロン・マスク
画像提供:Picture Alliance/Getty Images
テスラのCEOも務めるイーロン・マスク(Elon Musk)は、地球上で最も裕福な人物だ。現在の純資産は2430億ドル(約27兆5000億ドル)で、これは人類史上最高額かもしれない。
イーロン・マスクも「ギビング・プレッジ」に署名しているが、彼が寄付を行う予定だと発言している時期は2040年頃と、比較的遅い。これはテスラが「安定した状態」となる時期だという(この頃マスクは70歳だ)。マスクがそれ以前に死亡した場合、彼の相続人は数百億ドル相当のテスラ株を取得することになる。
マスクが亡くなるとテスラ自体にどのような影響が及ぶかは分からない。1兆ドル(約113兆円)という同社の時価総額は、最大のライバル5社の時価総額を合計した額をも上回る。だがそれも、マスクの存在あってのことだ。マスクがこれまで行ってきたような派手なパフォーマンスがなければ、たとえ新たなオーナーが23%の自社株を引き継いだとしても、会社の時価総額はマスクが率いる時ほど高くはならないかもしれない。
マスクは他の億万長者と違って、誰かに引き継ぐような大型の資産ポートフォリオを持っていない。マスクは2020年に「物理的な所有物をほぼすべて売却する」と発表し、2021年12月にはついに所有する最後の1軒、サンフランシスコの自宅も売却した。
CNBCによると、マスクの所有する最大の資産は自身が設立した民間宇宙企業、スペースX(SpaceX)の株式であり、その価値は現在1000億ドル(約13兆円)であるという。
マスクには作家のジャスティン・ウィルソン(Justine Wilson)と女優のタルラ・ライリー(Talulah Riley)という2人の元妻がいるが、2021年初頭に歌手のグライムス(Grimes)と別れて以来、特定の交際相手はいない。
彼には17歳の双子のグリフィンとザビエル、15歳になる3つ子のカイ、サクソン、ダミアン、そして1歳のX Æ A-Xii(エックスアッシュエートゥエルブ)という6人の子どもがいる(訳注:マスクにはもう1人、ジャスティンとの間にもうけた長男ネバダ・アレキサンダーがいたが、生後10週で乳幼児突然死症候群で亡くしている)。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)