(出所)メタHP「The metaverse will be social」より。
「傘下に35.8億人のユーザー(※1)を持ち、利益率は驚異の40%」。2021年10月に社名をフェイスブック(Facebook)から改めたメタ(Meta)は、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)の中でもとりわけ強固な収益構造を築いていることが前回の分析で分かりました。
しかし、そんなメタにも弱点があります。過去5年の株価成長率で比較すると、GAFAM中、最低なのです(図表1)。
(出所)Googleファイナンスより筆者作成。
なぜ財務状況には非の打ち所がないのに、株式市場はメタにあまり期待を寄せていないのでしょうか? これが前回積み残した疑問でした。本稿ではまずここから考えていきましょう。理由は4つ考えられます。
1. 成長率は鈍化傾向にある
まず挙げられるのは、成長率の鈍化です。
確かにメタは、売上高もユーザー数も伸びています。しかしその成長率は鈍化しており、このままではどんどん伸びしろが少なくなっていくことが懸念されます。
(注)参考値として2021年の直近12カ月であるLTM(Last Twelve Months)を記載している。2021LTMは、2020年第4四半期から2021年第3四半期の金額を合計したもの。
(出所)Meta Annual Reportsより筆者作成。
もちろん、売上高で年20%(2020年度)、月間アクティブユーザー(同)でも年12%伸びているという事実はすごいことです。
ですが、先ほどの図表1を年率で計算をし直せば分かるように、他のテックジャイアントはもっと高い成長をマーケットから期待されています(図表3)。それに照らせば、メタに対する期待値の低さは一目瞭然です。
(出所)Googleファイナンスより筆者作成。
(出所)FB Earnings Presentation Q3 2021より筆者作成。
2. 事業ドメインが変化していない
早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授はBusiness Insider Japanの記事の中で、「GAFAMの中で、フェイスブック(メタ)だけが変化してこなかった」と指摘しています。
確かに他のテックジャイアントは、それぞれコアとなる事業の軸を持ちつつも、いろいろな事業を常に開拓し続けてきました(図表5)。マイクロソフトもSaaSへとビジネスモデルを大きく転換させたことが、株価を大きく伸ばした要因と考えられます。
ではメタはどうかというと、2012年にはインスタグラム(Instagram)を10億ドルで、2014年にはワッツアップ(WhatsApp)を約200億ドルで……と何度か買収してきましたが、1つの例外を除けばいずれもFacebookと同じSNS事業の延長線上にある事業です。
もちろん、決してたやすいビジネスではないSNSという領域で、メタが現在の地位を確立できたことは称賛に値します。このことは、SNSの歴史を振り返ってみても一目瞭然です。
メタは、SNS黎明期だった2000年代はMy Spaceとの競争に勝ち、2010年代にはGoogle+やTwitterに対してグローバルで圧倒的な地位を築いてきました。あまり知られていませんが、かつてアップルでさえもPingというSNSをリリースしましたが、黒歴史と言われるほどに惨敗を喫しました。アップルの顧客基盤をもってしても、SNSは簡単に成功できるビジネスではないのです。
そんななかで、利益率40%という驚異的な収益構造を実現させてきたメタは、SNSという事業ドメインにおいては実に巧みな舵取りをしてきたと言えます。
ですが、SNSももうすでにビジネスの「フロンティア」とは呼べなくなっているのもまた事実。生き馬の目を抜くテック業界にあって、事業ドメインを変えずにSNS事業だけにフォーカスし続けることにはリスクが伴います。メタの株価成長率の伸び悩みは、こうした点を株式市場に見透かされていることの証左でもあります。
3. 「自社株買い」が暗示する市場の飽和
メタに対する株式市場の期待が相対的に薄い3つ目の理由は、キャッシュの使い方です。
前回確認したように、メタはこれまで潤沢なキャッシュを生み続けてきました。フリーキャッシュフロー(FCF)でもここ数年は常にプラスという、「普通の会社」から見れば誰もがうらやむ状況です(図表6)。
(注)参考として2021年の直近12カ月であるLTM(Last Twelve Months)を記載している。2021LTMは、2020年第4四半期から2021年第3四半期の金額を合計したもの。
(出所)Meta Annual Reportsより筆者作成。
では、潤沢なこのFCFを、メタは何に使ってきたのでしょうか? その答えは、キャッシュフロー計算書(C/S)の財務CFを見れば分かります(図表7)。
(出所)Meta Annual Reportsより筆者作成。
ご覧のとおり、メタの財務CFは近年マイナスが続いています。財務CFがマイナスということは、手持ちのキャッシュが減るということ(※2)。その主な使い途はというと、メタは潤沢なキャッシュの多くを「自社株買い」に使っているのです。
自社株買いとは、企業が自らの手元資金を使って自社の株式を既存の株主から買い戻すことです。ちょうど、企業が増資して株式を発行することで資金調達するのとは真逆の行為になります。
では、なぜ企業は自社株買いするのでしょうか? 主な理由は以下の2つです(※3)。
(1)取り組んでいる事業が成熟し、企業の投資機会が低下したため。
(2)余剰資金とも言えるFCFが多くなったため。
これらのうち、(1)は株価の引き下げ要因となります。事業が成熟して成長余地がなくなり、その結果成長のための投資先が少なくなることを意味するわけですから、株価が下がるのは納得いきますね。
では(2)はどうでしょうか。自社株買いをすれば、余剰資金(=社内で活用されていないキャッシュ)が減ります。その結果キャッシュ効率が改善し、ROE(自己資本利益率)の向上が期待できることから、株価の上昇要因として働きます。
企業は(1)の株価下落効果と(2)の株価上昇効果を天秤にかけ、(2)のほうが大きいと判断すれば自社株買いを行うことが考えられます(※4)。
メタのケースでは、これまで主にSNS事業への投資しかやってこなかったことから推測するかぎり、投資機会が減る一方で、資産を効率的に活用するために自社株買いをしてきたと考えられます。
何もしなければ株式市場からは当然「溜め込んでいるFCFを投資に回せ!」とプレッシャーをかけられてしまいますから、自社株買いか配当か、いずれにせよ株主還元政策(ペイアウト政策)は必要です(※5)。
とはいえ、メタの近年の株価成長率が他のテックジャイアントと比べて高くないことは先に見たとおりです。たとえ自社株買いをしても、メタの期待ほどには株式市場の期待を誘えていないということなのかもしれません。
4. 「自社の利益優先」の姿勢に批判が集中
メタに対する株式市場の期待が低い理由として、最後に挙げておかなければならないのが同社の企業姿勢に関するリスクです。
メタはかつて、ケンブリッジ・アナリティカ事件と呼ばれる一件で世間から厳しい批判に晒されました。
Facebookの5000万人ものユーザー情報が、本人たちの預かり知らぬところで心理クイズのアプリ開発者からケンブリッジ・アナリティカ(CA)社に売却され、2016年にあったイギリスのEU離脱(Brexit)の是非を問う国民投票やアメリカ大統領選において、CAがその個人情報を政治的に利用していたことが2018年に明らかになったのです。
この一件を受けて、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は謝罪するとともにイギリスとアメリカの有力紙に謝罪広告を載せるに至りました(※6)。
それだけではありません。2021年10月には、メタ(当時はフェイスブック)のプロダクトマネジャーだったフランシス・ホーゲン氏が内部告発をするに至りました。
その内容は、「10代がFacebookを利用した後にどれくらい自己嫌悪に陥るか」「ユーザーをつなぎとめるために同社がどれほど憎悪に満ちたコンテンツを積極的に表示させているか」など、メタにとって不都合な研究結果が存在していたにもかかわらず、同社がこれらを意図的に隠蔽したというものです(※7)。
この告発を受けて、複数の大手メディアはコンソーシアムを組み、一斉にメタに対する批判報道を行うという異例の事態となりました。この一件をめぐっての検証作業は今も続行中です(※8)。
さて本題に立ち返り、このことをファイナンス的な視点で捉えてみましょう。
この連載で過去に何度かお話ししてきたように、企業の価値は究極的には「企業が将来生み出すと予想されるキャッシュフロー」と「割引率」で決まります(図表8)。
(出所)マッキンゼー・アンド・カンパニー『企業価値評価 第6版』(ダイヤモンド社、2016年)を参考に筆者作成。
前者のキャッシュフローについては前回も見てきたとおり、メタは成長率が鈍化しているとはいえ、ほぼ非の打ちどころがない成果を挙げています。
ですが、割引率はどうでしょうか。割引率は、企業が直面するリスクによって変わってきます。リスクが大きければ大きいほど割引率も高まり、企業価値は小さくなってしまいます(企業価値は「キャッシュフロー÷割引率」から計算されます)。
ケンブリッジ・アナリティカ事件で懲りず、今度は内部告発事件まで引き起こしたメタはリスクが高い——マーケットはおそらくそう見ているのでしょう。これが、メタの株価の伸び悩みを招いている4つ目の要因と考えられます。
1兆円もの投資資金をどう手当てするのか?
フェイスブックが社名を「メタ」に変更し、今後100億ドル(約1.1兆円)をメタバースに投資すると発表したのは、このような背景がある中でのことでした。
メタバースとは「メタ(超越)」と「ユニバース(宇宙)」をかけ合わせた造語。「インターネットを通じてアクセスできる3次元仮想世界で、同時に多人数が参加してコミュニケーションできる世界」のことです(※9)。
古くは2006年頃に注目された「セカンドライフ」や、最近では「マインクラフト」や「あつまれ どうぶつの森」「フォートナイト」といったゲームもある種のメタバースと考えることができます。
メタバースの市場規模は、2020年の477億ドル(約5.3兆円)から2028年には8289億ドル(約94兆円)、つまり年成長率でなんと43.3%もの成長が期待されています(※10)。
(出所)Metaverse Market, By Component (Hardware, Software), By Platform (Desktop, Mobile), By Offerings (Virtual Platforms, Asset Marketplaces, and Others)By Technology (Blockchain, VR & AR, Mixed Reality), By Application, By End-use, and By Region Forecast to 2028をもとに筆者作成。
今後は経済活動がメタバース空間でも行われるようになっていくだけでなく、VRのゲーム、イベント、コンサートなどのエンターテインメントや、語学学習などをはじめとするオンライン教育、さらにはNFT(非代替性トークン)を通じたデジタルアートや仮想空間で使える通貨や不動産の取引も拡大していくことが予想されます。
もしこれらが本当に実現すれば、年率43.3%という成長もあながち突飛な数字ではないかもしれません。
そんなフロンティア市場に対し、メタは100億ドル(約1.1兆円)もの投資資金をどうやって確保するつもりなのでしょうか? メタのリリースをよく読むと、次のことが書かれています。
We expect our investment in Facebook Reality Labs to reduce our overall operating profit in 2021 by approximately $10 billion. We are committed to bringing this long-term vision to life and we expect to increase our investments for the next several years.
(Facebook Reality Labsへの投資により、2021年の当社全体の営業利益が約100億ドル減少すると予想しています。我々はこの長期的なビジョンの実現にコミットしており、今後数年間は投資額を増やすことを見込んでいます)
100億ドルという金額は確かにインパクトがあるものの、メタは2020年には営業利益327億ドル(約3.7兆円)、営業CFでは387億ドル(約4.4兆円)を生み出しており、FCFも毎年100億ドル(約1.1兆円)近くあります。これだけの体力があれば、メタバースへの100億ドルの投資資金は十分にまかなえるでしょう。
同時に、メタは自社株買いも続行するつもりです。2021年第3四半期では144億ドル(約1.6兆円)もの自社株買いを実施しましたが、その枠を500億ドル(約5.7兆円)にまで広げることを2021年10月に発表しています。
今後SNS事業から生み出される潤沢なキャッシュを使ってメタバースに投資しつつ、引き続き自社株買いを通じて継続的に株主に還元していく——これがメタの財務戦略です。未来への投資と足元の株主還元を両立させることで、株式市場とうまく対話していこうという姿勢が垣間見えます。
メタバースで優位性を築く2つの条件
果たして今後、メタの読みどおりメタバース市場の爆発的な成長は現実のものとなるのでしょうか? 仮に実現したとき、メタにはどれほどの勝算があるのでしょうか?
メタバースが本当にユーザーに受け入れられ、かつ継続的に使われるためには、少なくとも2つの要素が必要です。
1つ目はユーザー数です。先述したセカンドライフは、世界中で話題になった2007年でもユーザーは約400万人しか集まらず、結局大きなムーブメントにはなりませんでした。
それに対してメタは、Facebook、Instagram、WhatsAppの合計で35.8億人もの月間アクティブユーザーを擁しています。セカンドライフの1000倍近くです。仮に、このユーザーのうち1%がメタの提供するメタバースにコンバージョンするだけでも3500万人のユーザーを獲得できる計算になります。
そう考えると、世界で最も多くのSNSユーザーを有しているメタは、ユーザー数という観点ではメタバースという新大陸に到達するのに最も近い立ち位置にいるのかもしれません。
そして、メタバースが普及するための2つ目の要素は「ハードウェア」です。
メタバースでの活動にはVRヘッドセットなどのハードウェアが必要になりますが、この点でもメタはすでに布石を打っています。VRの出荷シェア75%(2020年第1四半期)と圧倒的な人気を誇るオキュラス(Oculus)を、2014年に20億ドルで買収しているのです。メタがこれまでに行ってきた買収はほぼすべてSNS分野のものですが、このオキュラスだけは唯一の例外と言えます。
つまりメタは、メタバースの潜在顧客という点でもハードウェアの点でも、他社と比べてかなり有利な立場にいるのです。
(出所)Karn Chauhan, “Oculus Quest 2 Cumulative Sales Hit Record 4.6 mn as XR Headset Shipments Almost Triple YoY in Q1 2021,” (Counterpoint, July 14, 2021)をもとに編集部作成。
とはいえ、課題もあります。
現時点でシェアが一番大きいOculusでさえも、重さは500グラムと必ずしもユーザーにとって使い勝手がいいとは言えません。今後メタバースの市場が拡大するためには、ユーザーにとっての利便性をどれだけ高められるかが鍵になります。
加えて、メタがブランドイメージを払拭できるかも重要です。これまで見てきたように、メタはケンブリッジ・アナリティカ事件や内部告発事件によって、多くのユーザーやメディアから厳しい批判に晒されてきました。
フェイスブックからメタへの社名変更にはおそらく、こうした不祥事によって傷ついたブランドイメージを払拭する狙いもあるのでしょう(※11)。しかし、仮想空間でのやりとりはリアルの世界以上に記録が残るものです。SNS以上に個人データの扱いに注意を要する分野で、メタがうまく対処していけるのかという点も大きな課題になります。
メタは真のプラットフォーマーとなれるか
「これからはフェイスブックの利用にVRヘッドセットRiftを装着することになるだろう。オキュラスは最も多くのプラットフォームを作り出す。これは将来への戦略的投資だ。モバイルが現在のプラットフォームなら、バーチャルリアリティは将来のプラットフォームだ」
これは2014年、フェイスブック(当時)がオキュラスを買収した際のマーク・ザッカーバーグのコメントです(※12)。
いまやメタは、35.8億人ものユーザーを抱える世界最大のSNSプラットフォームです。しかしそれはあくまで、アップルのiOSやグーグルのAndroid OSなどのモバイルOSやブラウザ上で動作するプラットフォームという意味。メタは今のやり方を続けているかぎり、アップルやグーグルが決めるルールの中でしか戦えないという弱点を抱え続けることになります。
実際、2021年4月にはアップルがiOSのプライバシーポリシーを改定したことで、メタを含むアプリ開発者は、アップルのApp Storeやインターネット上でユーザーの行動をトラッキングするにあたり、ユーザーの許可を得なければならなくなりました。
ユーザーがトラッキングを拒否すれば、メタは今までのようにユーザーに最適化された広告を出すことができなくなります。これは広告主からすれば魅力的な広告を打てなくなることを意味し、メタにとっては広告単価が下がる可能性を示唆します。メタの売上の98%が広告ビジネスからの収入であることを考えると、このアップルの変更はメタにとっては死活問題です(※13)。
他社のプラットフォーム上でサービスを展開しているかぎり生殺与奪権を握られてしまう。そのくびきから解放されるためには、自らの手でプラットフォームを創り出す必要がある——ザッカーバーグの念頭には、すでに2014年の段階でその思いがあったのでしょう。そして、ゆくゆくはモバイルに代わってVRこそが将来のプラットフォームになるという読みが、ザッカーバーグにオキュラス買収という決断をさせたのだと考えられます。
先に見てきたように、現在VRでのシェアはオキュラスがトップと、メタは新たに生まれたメタバース市場を攻略するうえで好位置につけています。しかし安閑としてはいられません。2022年にはアップルがVRに参入するという憶測もさっそく出ているほか(※14)、PlayStationを擁するソニーグループをはじめ、VRとの親和性が高いゲーム市場のプレイヤーたちも今後積極的に戦いを仕掛けてくることが予想されます。
いくつもの競合を向こうに回しながらSNSという市場を切り拓いてきたメタは、メタバースという新たな市場でも揺るぎない地位を築くことはできるのでしょうか。SNS事業から生み出される潤沢な資金を武器に、今後どのような戦い方をしていくのか、2022年のメタの動きから目が離せません。
※1 過去30日以内にメタが運営するFacebook、Instagram、Messenger、WhatsAppのうち1つ以上を1回以上利用しているユーザーの数(2021年第3四半期の月間アクティブユーザー数の平均値)。
※2 自社株買いをし、自ら自社株を金庫株として保有をする場合、今後の企業買収の際に金庫株を株式交換に使うことも考えられます。
※3 ここではライフサイクル仮説に基づいて説明しています。鈴木健嗣『日本のエクイティ・ファイナンス』(中央経済社、2017年)を参考。なお、企業が自社株買いを行う理由としてはライフサイクル仮説の他にも、エージェンシー仮説、シグナリング仮説、マーケット・タイミング仮説、取引制約仮説、買収防衛仮説、最適資本構成仮説、収益指標改善仮説等があります。
簡潔に説明するため本文では省略しましたが、ライフサイクル仮説に基づいて、企業が自社株買いをする理由としてはこの他にもうひとつ、システマティックリスクの問題があります。ポートフォリオ理論でいうと、分散投資で除去できる個別リスクと、分散投資では除去できないシステマティックリスク(市場関連リスクとも。企業が個別に抱えるリスクではなく、マーケット全体から受ける影響に関するリスクのこと)のうち、企業が成熟化することで、システマティックリスクが低下します。
※4 なお、モディリアーニ=ミラーの定理(MM定理)によれば、税金や情報の非対称性が存在しない等のある一定の仮定のもとには、配当政策の手段(例えば上記自社株買い、配当及び内部留保)は、企業価値に影響を与えないという命題が存在します。このMM定理が成り立つならば、企業が自社株買いをしようが内部留保をしようが、株価には中立(影響を与えない)ことになります。
※5 ただし、配当は全株主に平等に配当が払われる一方、自社株買いをすると特定の株主のみ株を買ってもらうことになります。しかし、自社株買いをすると1株あたりの株式価値が増加することで、理論上は株式を売却した株主以外にもメリットがあります。
実際、上述した経済学におけるMM定理に従えば、完全市場においては、配当政策と自社株買いの手段の違いは、企業価値に影響を与えないことが証明されています。もちろん、現実の株式市場においては、企業価値への影響があるケースが多くどうするかを選ぶことになります。
※6 「フェイスブックCEO、英米の有力紙に謝罪の全面広告」CNN.co.jp、2018年3月26日。
※7 「内部告発者語る『フェイスブック』ディープな内情 アメリカ上院議員を驚愕させた議会証言の中身」The New York Times(東洋経済オンライン転載)、2021年10月6日。
※8 池田 純一「『フェイスブック』の内部告発が止まらない…! 明らかになってきた『深い闇』」現代ビジネス、2021年11月11日。
※9 このパートにおける解説の多くは白辺陽『メタバース 完全初心者への徹底解説』(2021年)を参考にしています。
※11 「Facebook、社名を『メタ』に変更 仮想空間に注力」日本経済新聞社、2021年10月29日。
※12 「フェイスブック、なぜオキュラス買収? “将来のプラットフォーム”への先行投資と海外分析」NewSphere、2014年3月27日。
※13 Flurryの調査によれば、FacebookやInstagram等のアプリでのトラッキング許可に関する表示で、ユーザーの88%は「Appにトラッキングしないように要求」を選んでいるといいます。「『iOS 14.5』のATT機能、ユーザーの約88%が『トラッキングしないように要求』を選択——Flurry調べ」ITmedia NEWS、2021年5月9日。
※14 「Apple初のVR・ARヘッドセットが2022年に「Wi-Fi 6E」対応で登場するとのリーク、VR市場はApple・Meta・ソニーの三つどもえに」Gigazine、2021年11月2日。
(執筆協力・伊藤達也、連載ロゴデザイン・星野美緒、編集・常盤亜由子)
村上 茂久:株式会社ファインディールズ代表取締役、GOB Incubation Partners株式会社CFO。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。経済学研究科の大学院(修士課程)を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation Partners株式会社のCFOとして新規事業の開発及び起業の支援等を実施。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も手掛ける。2021年1月に財務コンサルティング等を行う株式会社ファインディールズを創業。新著に『決算書ナゾトキトレーニング』(PHP研究所)がある。