米資産運用最大手ブラックロック(BlackRock)が2022年のメガトレンドのひとつに挙げるのが「オートメーション(自動化)」だ。
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新型コロナウイルスの変異株、サプライチェーン危機、吹き荒れるインフレの嵐……2021年は株式市場にとって悪い意味で激動の年だった。機関投資家や個人投資家も相当苦しめられた。
そしていま多くの人たちが、2022年はどんな年になるのかに思いをめぐらせている。
米資産運用最大手ブラックロック(BlackRock)が運用する世界シェア首位の上場投資信託「iシェアーズ(iShares)ETF」メガトレンド・セクター・インターナショナル商品責任者のジェフ・シュピーゲルは、その問いに対する答えを持っている。
シュピーゲルは「1300億ドル(約14兆7000億円)規模のテーマ商品を運用するブラックロックのアクティブ/インデックス投資チームのインサイト(洞察)」をもとに、2022年に「デジタルトランスフォーメーション」「オートメーション」「イミュノロジー(免疫学)」という三つのトレンドが加速するとみる。
さらに、これらのトレンドに乗って資産を成長させるために、「投資家の広く多様な(個別の)テーマへのアクセスを可能にするインデックスETF」あるいは「ポートフォリオマネジャーがテーマ投資と(少数の銘柄に投資を集中させる)エクスポージャーをローテーションさせるアクティブETF」の検討を推奨する。
1.デジタルトランスフォーメーションの進捗
シュピーゲルによれば、作業環境のクラウド化、5G(第5世代移動通信システム)の普及拡大、サイバーセキュリティの強化など最近の取り組みによって、いわゆる「デジタルトランスフォーメーション」が加速している。
「クラウドサービスは企業のオペレーション変革を促し、サーバーコストの削減とスケールアップが進んでいます」
ただし、その状況にも変化が生じているようだ。
「新型コロナウイルスの世界的流行により、行動制限下の従業員や顧客とリモート環境でやり取りする必要が生まれ、否応なくクラウドの導入が進みました。
2020年から21年にかけては、ロックダウン中も業務を通常通り継続できることに焦点が置かれていましたが、22年はクラウド環境への移行に着手した企業がそれを完了させる年になるでしょう」
2020年以降のパブリッククラウドサービスに対するエンドユーザーの支出総額。2022年は推計。
BlackRock iShares
米調査会社ガートナー(Gartner)によれば、クラウドサービスへの支出額は2022年末までに世界全体でおよそ4000億ドル(約45兆2000億円)に達する見通し。
シュピーゲルは、こうしたクラウドへの集団移行の結果として、パブリッククラウドへの支出額が2024年までに7160億ドル(約80兆9000億円)に、さらに2030年までに1兆ドル(約113兆円)を超えるとしている。
「市場は企業・組織の9割がクラウドを利用しているという事実にばかり目を向けますが、それよりも、コアアプリケーションの全面的なクラウド移行を終えたのがわずか12%にとどまることのほうがはるかに重要な意味を持つと考えています」
シュピーゲルの見立てでは、インターネットの高速化を可能にする5Gの普及や、サイバー犯罪の脅威および対策コストの増大などにあと押しされ、クラウド移行はさらに加速するという。
「したがって、デジタルトランスフォーメーションの再加速により、クラウドサービスや5Gのプロバイダーはもちろん、サイバーセキュリティ関連企業もその恩恵を受けることになるでしょう」
ブラックロックが提供する商品で言えば、「iシェアーズ クラウド5G&テックETF」「iシェアーズ サイバーセキュリティ&テックETF」が上記のテーマをカバーする。
もちろん、ブラックロックのETFが唯一の選択肢ではなく、他のETFを購入してクラウド、5G、サイバーセキュリティという三つのテーマへのエクスポージャーをとることもできる。
クラウドについては、「ファースト・トラスト・クラウド・コンピューティングETF」「グローバルX クラウド・コンピューティングETF」が良い選択肢となる。
サイバーセキュリティについては、「グローバルX サイバーセキュリティETF」「ファースト・トラスト・ナスダック・サイバーセキュリティETF」が挙げられる。
2.迫りくるオートメーション
シュピーゲルは「ロボティクスと人工知能(AI)が台頭するまさにその時代の始まりに私たちはいるのかもしれません」と語る。
新型コロナ感染抑制のための行動制限は、サプライチェーンに壊滅的な打撃を与え、素原材料の価格高騰や賃金インフレを引き起こした。しかし、そうした状況のもとでも、堅調な個人消費と良好なセンチメント(市場心理)が需要をけん引し続けてきた。
シュピーゲルによれば、ロボット導入による物理面での自動化、人工知能によるデジタル面の自動化、両方が相まってもたらされる恩恵は広い範囲におよぶという。
「アメリカにおけるロボットの受注数(2021年11月時点)は、サプライチェーン問題あるいは賃金上昇による労働力コスト増加への対応策として需要が伸び、前年比37%増の約2万9000台を記録しました。問題は2022年に入っても続き、全面的な解消は2023年にずれ込む可能性もあると私たちは考えています」
ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)の市場規模。数字は売上高、単位は10億ドル。
BlackRock iShares
シュピーゲルはまた、多くの企業がすでにAIを導入して請求書作成などのプロセスを自動化していることを踏まえ、B2B(企業間)取引のオートメーションは今後もさらに進んでいくと予測する。
一方、B2C(企業対個人)取引の現場にも、オートメーションの波が押し寄せている。
ヘルスケア業界に目を向けると、すでに「患者受け入れの自動化と(複数の)決済ソリューションの統合を目的としたデジタルソリューション」を実現するためにAI活用が始まっているが、その取り組みは「患者と医療機関の双方に変革をもたらす可能性がある」とシュピーゲルは指摘する。
自動車業界でもオートメーションの定着が進み、自動運転車や先進運転支援システム(ADAS)など新たな運転技術の開発競争が激化している。その市場規模は2023年までに320億ドル(約3兆6000億円)に達すると予測されている。
こうしたテーマをカバーするブラックロックの商品は、「iシェアーズ ロボット&AIマルチセクターETF」「iシェアーズ 自動運転EV&テックETF」が該当する。
他の選択肢としては、「アーク・オートノノマス・テクノロジー&ロボティクスETF」「ロボ・グローバル・ロボティクス&オートメーション・インデックスETF」が挙げられる。
3.免疫学のポテンシャル
投資家の多くが科学の進歩に期待を寄せ、強気の見方をしている。
シュピーゲルはなかでも、世界最大の医薬治療分野であり、2024年までに売上高が2500億ドル(約28兆2500億円)に達すると予測される腫瘍学(オンコロジー)に注目する。
「2021年は(mRNAワクチンが効果を発揮するなど)ゲノミクスのブレークスルーが際立ちました。次いで2022年、腫瘍治療分野における画期的なイノベーションが起きると私たちは考えています。
免疫療法は、化学療法のような従来の手法に比べて標的がきわめて絞られ、かつ低侵襲(=身体への負担が少ない)で、腫瘍学における「精密医療」をリードしています」
腫瘍(がん)免疫医薬品の開発件数。
BlackRock iShares
シュピーゲルによれば、数あるブレークスルーのなかでも、次世代抗体医薬の「抗体-薬物複合体(ADC)」は「正常な細胞への影響(ひいては副作用)を抑えながら、標的となるがん細胞を正確に選択し、標準的な化学療法の1万倍の高いがん細胞殺傷効果を持つ毒物を放出するよう設計され」ており、特に注目に値するという。
さらに、「がん細胞を攻撃するだけでなく、あたかも指揮官が部隊を前線に配備するように、体内にある自然免疫細胞をがん細胞の近くに誘導する能力を持つ」バイスペシフィック(二重特異性)抗体の「計り知れない可能性」にも、シュピーゲルは言及している。
抗体-薬物複合体はすでに9種類ががん治療薬として承認されているほか、数え切れないほどの研究開発プロジェクトが進められている。
開発中のバイスペシフィック抗体も300種類以上に及び、2026年までにグローバル市場規模は100億ドル(約1兆1300億円)を超えると予測されている。
これらのテーマをカバーするブラックロック商品は、「iシェアーズ ゲノミクス・イミュノロジー&ヘルスケアETF」で、他の選択肢では「インベスコ・ダイナミック・バイオテクノロジー&ゲノムETF」「アーク・ゲノミック・レボリューションETF」「グローバルX ゲノミクス&バイオテクノロジーETF」が挙げられる。
(翻訳・編集:川村力)