米ナスダック市場への上場を果たし、量産車の納品も着実に進む米電気自動車(EV)のリビアン(Rivian)。新工場建設は吉と出るか凶と出るか……。
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2021年11月に上場を果たした米電気自動車(EV)リビアン(Rivian)の時価総額は一時1000億ドル(約11兆4000億円)を突破、電動ピックアップトラック『R1T』の初納車も無事完了した。
その後、2021年の生産目標が(サプライチェーン問題の影響で)未達に終わるとの発表を受け、時価総額は900億ドル前後を推移しているが、「次のテスラ」最有望株として同社の事業拡大はひとまず順調と言えるだろう。
年末年始の話題に埋もれてしまったが、同社は12月16日、米ジョージア州の州都アトランタ東部に2つめの生産拠点を開設する計画を発表した。現時点での生産拠点は米イリノイ州ノーマル(2015年に閉鎖した北米三菱自動車の工場を17年に取得)のみ。
50億ドル(約5700億円)を投じる新工場の着工は2022年夏、稼働開始は2024年の見込み。
ただ、自動車業界の専門家のなかには、この生産拠点拡大の動きが賢い戦略なのか、あるいは思慮の浅い拡大戦略ではないかと疑問符をつける向きもある。
業界全体のEV生産能力「過剰」に懸念
2021年9月の生産開始以来、リビアンは652台の量産車を世に送り出してきた。内訳は多目的スポーツ車(SUV)『R1S』が2台、あとはすべてピックアップトラック『R1T』だ。
2021年の数値目標には数百台届かなかったが、同社はその理由として(ゼロからの事業立ち上げに伴う)産みの苦しみと供給制約を挙げている。
2022年、リビアンは『R1S』『R1T』ともに生産規模の拡大を計画しており、すでに7万1000台の予約を受注済み。また、アマゾンから受注したEV配送バン1万台も生産する予定で、2030年までに合計10万台の納品を目指す。
稼働中のイリノイ工場の生産能力は年間20万台なので、現時点での受注分に対応するには十分と言える。だからこそ、その倍の生産能力を持つジョージア工場の新設計画に、専門家たちは懸念を抱く。
米調査会社ガイドハウス・インサイツ(Guidehouse Insights)のサム・アブエルサミドは次のように指摘する。
「稼働率の低い生産拠点を抱えれば、キャッシュを一気に使い尽くすことになります。事業がもう少し軌道に乗って、稼働率の低い工場を維持するために失われていくキャッシュを相殺できるだけの収入を得られるまで、半年あるいは1年、工場新設のコミットを延期するのが理にかなっているのでは」
ガイドハウス・インサイツによれば、アメリカではEVの普及がなかなか進まず、現時点で自動車市場に占めるシェアは約2.6%にとどまっている(2025年には9.2%まで拡大する見通し)。
一方で、リビアンと競合する自動車メーカー各社は、フォード(Ford)のF-150ライトニングやゼネラル・モーターズ(GM)のハマーEVなど、自社生産能力に対するEVの比率拡大にまい進する。
「リビアンに限らず、業界全体として懸念されるのは、今後数年間でEV生産のオーバーキャパシティが発生するのではないかということです」(アブエルサミド)
リビアンの時価総額が業界2位である理由
リビアンは、フォードやGMなどの競合企業、とりわけEV業界のトップを走るテスラに追いつこうと躍起になっている。
それでも、今回のジョージア工場新設の動きは、専門家が両社を比較する材料としてはあまりに逸脱したものだ。
型破りとされたテスラでさえ、2019年1月の上海ギガファクトリー着工(同年末に稼働開始)まで9年間、生産拠点は米カリフォルニア州フレモントのみだった。
オンライン中古車検索エンジン「アイシーカーズ(iSeeCars)」のカール・ブラウアーはこう分析する。
「リビアンは、顧客基盤や生産ノウハウが満足な水準に達するまで待つのではなく、同社が希望するか、または確信している展開、要するに急成長を前提に準備を進めているのです。
すぐには活用しきれない設備、生産能力の観点から見たときに若干準備が早すぎると思われる設備をあえて選んでいるわけです」
米調査会社ガートナー(Gartner)のマイク・ラムゼイは、ジョージア新工場への投資は一種のギャンブルとしつつも、そうやってリスクをとる戦略がリビアンへの高い評価を生み出していると指摘する。
リビアンの時価総額はおよそ924億ドル(約10兆5000億円、2022年1月3日時点)、フォード(870億ドル)とGM(890億ドル)を上回り、テスラ(1兆2000億ドル)に次いで自動車メーカーとしては第2位。
「リビアンは膨大な資金を投資に回しており、そこには間違いなくリスクがあります。収益を生み出す受注がないのに工場新設だけを急げば、確実に大きな失敗を招くでしょう。
それでも、リビアンが現時点でこれほどのバリュエーションを獲得できているたった1つの理由は、同社がいちかばちかの(リスキーな)賭けに打って出ていることなのです」
(翻訳・編集:川村力)