2021年6月4日、フロリダ州マイアミで開催されたビットコイン2021コンベンションに出席したジャック・ドーシー 。
Web3は、巨大IT企業に集約される今日のインターネットに取って代わる、分散型構造を持った次世代インターネットと目されている。しかし、これに疑問を持つ向きもある。ツイッター(Twitter)共同創業者ジャック・ドーシー(Jack Dorsey)もその一人だ。
ドーシーは2021年12月21日、この新しいテクノロジーを批判するツイートをTwitterに投稿し、企業や機関投資家ではなく、民衆が所有する「真にセキュアで堅牢なテクノロジー」を開発することの重要性を強調した。
「Web3の所有者は皆さんではありません。ベンチャーキャピタルとファンドに投資するリミテッドパートナーです。Web3は、呼び名が違うだけで(今のインターネット同様)究極的には集権化されたものです。その実態をよく知ってください」
Web3という言葉が最初につくられた2014年当時、それはユーザーが所有するブロックチェーン・ベースのインターネット構造を意味していた。Web3の人気は最近、急上昇している。多くの人が仕事を辞めてWeb3の起業に専念し、企業はWeb3構築のための人材を採用している。イーロン・マスクなどの著名起業家は、Web3についてさかんに議論している。
ドーシーの意見に対して、元コインベース最高技術責任者のバラジ・スリニバサン(Balaji Srinivasan)は、Web3はよりよいインターネットを構築する可能性を持っており、Twitter同様、開発者のための無料でオープンなプロトコルを通じて始まったと述べている。
一方、ドーシーに同調する向きもある。コンテンツ管理プラットフォームを提供するボックス(Box)のアーロン・レヴィ(Aaron Levie)CEOは、Web3が創り出すものはオンラインユーザーにとって「内在的な料金所」のようなものだという。
Web3に対する3つの見方
ギャビー・ゴールドバーグ
本人提供
ザ・チャーニン・グループ(The Chernin Group)の仮想通貨投資担当ギャビー・ゴールドバーグ(Gaby Goldberg)は、Web3というインターネットの進化形では、大手IT企業間の競争が激化する一方、消費者の力が増すと考えている。ゴールドバーグは、Web3に関する読書リストも公開している。
Web3を理解するためにはインターネットの歴史を知ることが重要だ、とゴールドバーグは言う。インターネットの歴史は、ユーザーが支配権を持つ分散化されたオープンな情報ネットワークをビジョンとして、Web1.0が構築された1989年に始まった。しかし、当初のプロトコルは専門的すぎたため、多くの人はインターネットを使いこなせなかった。
その結果、消費者はGoogleやFacebookなど、より洗練された集中型のサイトへと移行していった。Web2.0と呼ばれるこの変化により、何十億もの人々がインターネットにアクセスできるようになった。しかしその代償として、ネット上の力が集権的となり、個人や小さなグループが大手企業に頼らずにイノベーションを起こすことが難しくなった、とゴールドバーグは指摘し、次のように続ける。
「Web3は、Web1.0の分散化とWeb2.0のパワフルな消費者体験という2つの要素を併せ持つものです。私は、分散型の代替手段とともに、パワフルな消費者体験を提供するアプリケーションに非常に関心があります」
ゴールドバーグは、グーグル(Google)やウーバー(Uber)のような巨大企業は、いずれ分散型の代替サービスに取って代わられるだろうと見ており、Web3のアプリケーションであるSkiffを例に挙げる。Skiffは、Google Docsをエンドツーエンドで暗号化したようなアプリケーションだ。ユーザーはSkiffで作成するデータを所有する。
「Web3の分散化されたプライベートなアプリケーションが一般消費者市場に受け入れられるためには、既存のユーザー体験より優れたものを提供する必要があります。これが、目下のWeb3の課題です」
ゴールドバーグは考えるもうひとつの課題は、多くの人が、仮想通貨を保有していなければWeb3に参加できないと考えていることだと言う。
Web3の利点の一つは、ユーザーがウェブサイト間を移動する際に、自分のアイデンティティを保護・保管する場所(ウォレットと呼ばれる)が一つで済むことだ。各サイトのブロックチェーンがウォレットの情報を記録することで、人々の個人データの保管場所が分散化される。
「ウォレットを持つことと、ウォレットに資産を所有することは別物です。ウォレットを持つということは、自分のデータを所有するということであり、そのデータの行き先をコントロールできるということです。これは大きな強みです」
ゴールドバーグの予想はこうだ。インターネットはいずれ、自分がWeb3のサイトに入っていることにさえ気づかないような構造に移行する。また、ユーザーがWeb3上で企業に個人情報を共有したら、その見返りとしてWeb3が収入を提供することもあるかもしれない。「そうなったらすごくいいですよね」
「Web3がインターネットのあらゆる問題を魔法のように解決するとは思いません。しかし、集権的なものよりもはるかに優れたアプローチだと思います」とゴールドバーグは言う。
グラディ・ブーチ
Lyn Alweis/The Denver Post via Getty Images
ブロックチェーン技術が持つ「計算量の多い」構造のため、数十億人のユーザーにリーチできるようWeb3を効率的に拡張することは難しい——そう語るのは、IBMリサーチのソフトウェア・アーキテクト、グラディ・ブーチ(Grady Booch)だ。
ブーチは、今日の比較的単純なアプリケーションに多く使用されているイーサリアムのブロックチェーンを引き合いに出しながら、次のように述べる。
「イーサリアムは、世界全体で1秒間に10件のトランザクションを処理します。一方、例えばVisaのネットワークでは、通常1秒間に1700件のトランザクションを処理し、ピーク時には4000件に達することもあります。ブロックチェーンの持つ根本的な問題と根本的な計算上の複雑さがこうした違いとなって表れているのです」
ブーチは、ブロックチェーンという変更不可能なデジタル台帳に大きな価値を見出しているが、ブロックチェーンを現在のインターネットの規模で展開するために必要な計算処理能力を実現することは不可能と考えている。
Web3で行われるすべてのトランザクションは、スマートコントラクトによってブロックチェーン上に記録される。セキュリティホールの修正などコントラクトの変更が行われる場合には、別のコントラクトが作成されるが、これらの作業にはより多くの計算能力が必要だ。ブーチは、イーサリアムのブロックチェーンがより広く普及すれば、1秒間に「何十億、何百億」ものトランザクションが実行されるだろうと予想している。
「エンジニアリングの観点からすると、ブロックチェーンのすべてに基本的な計算コストがかかります。すべてをブロックチェーンに押し込めようとすると、グローバルなスケールアップはできないでしょう」
エリザベス・レニエリス
Notre Dame-IBM Technology Ethics Lab
ノートルダムIBMテクノロジー・エシックス・ラボの創業者エリザベス・レニエリス(Elizabeth Renieris)は、Web3は実現可能だと考えている。インターネットの次世代化は避けられないが、一番の懸念はウェブの私有化とあらゆるやりとりが金融取引化すること、というのがレニエリスの見方だ。
「オープンに共有されているあらゆるものが私有財産に変えられてしまうことを懸念しています。つまり、より多くのお金があればより多くを買えるということです。そして、今はあらゆるものが売りに出されています」とレニエリスは懸念する。
今日、人々はGoogleやFacebookといった無料サービスを利用する代償として自身のデータを提供している。Web3はそれをさらに商業的なシステムに置き換えてしまうかもしれない、とレニエリスは言う。
それは、お金を持っている人にとっては問題にならないかもしれないが、そのような取引ベースのシステムに参加する手段を持たない人にとっては高くつくおそれがある。貧しいユーザーは、やはり自分のデータを売ったり、プライバシーを犠牲にしなければならない他の要求に従ったりせざるを得ないかもしれない。
この新しいモデルは、Web 2.0を支配したのと同じ当事者が煽っているので、おそらく成功するだろう。反イノベーションと思われたくない議員たちも(制約的な)行動を起こしたりはしないだろう——そうレニエリスは見ている。
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)