Reuters
2022年は、いかに環境に優しいクラウドサービスを市場で提供できるかを競い合う年になるかもしれない。大手のクラウドベンダーたちがカーボンフットプリントの削減によって顧客を獲得しようとしているからだ。
中国最大手のネットショッピングとクラウドの企業であるアリババは、他社に続いて持続可能性目標を発表し、2030年までにクラウド事業のカーボンニュートラル達成を目指すという。
アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)とマイクロソフトのAzure(アジュール)も2025年までに再生可能エネルギーのみを使用することを目標にしている。Google Cloudは既にカーボンニュートラルは達成しており、2017年以降は電力消費の100%を再生可能エネルギーの購入でマッチングさせているという。壮大な目標ではあるが、クラウドの持続可能性については業界標準がないため、その取り組みの効果を評価するのは難しいとアナリストは言う。
より環境に優しいクラウド環境にしようという動きがにわかに盛り上がっているのは、株主、顧客、社員が持続可能性を優先事項とするよう求めているからだ。ボストン コンサルティング グループ(Boston Consulting Group:BCG)による1290社の役員を対象にした調査では、85%が排出量削減について関心を持っていると回答している。
そうした声に対し、クラウド企業は顧客獲得のために持続可能性に関する目標を掲げ、環境に優しい企業であることを示そうとしていると、CCSインサイト(CCS Insight)の企業調査主任であるニック・マクワイア(Nick McQuire)は言う。
「環境保護への取り組みがクラウド企業への信頼につながっていることが分かってきています」というマクワイアによれば、ベンダーを選ぶにあたり、信頼は重要な要素になってきている。つまり、クラウド企業は価格や技術力だけでなく、環境問題への取り組みという面でも競争しなくてはならなくなってきているということだ。
カーボンオフセット、再生可能エネルギー、省エネデータセンター、冷却システムで使用する水の削減などを通して、クラウド企業は排出量削減に取り組んでいるとマクワイアは言う。しかし、より環境に優しいクラウドサービスにするための各ベンダーの具体的なアプローチはさまざまだ。
Google Cloudは2030年までにすべてのデータセンターをカーボンフリーのエネルギーで運用することを目標としており、2021年10月には自社のクラウド使用による炭素排出量を顧客がトラッキングできるようにするサービスをリリースした。
AWSとマイクロソフトも顧客目線での持続可能性に向けた取り組みをしている。AWSは2021年12月初めにサステナビリティのための取り組みとして、顧客がクラウドをより環境に優しい形で使用できるよう誘導するサービスを導入した。またマイクロソフトが同年7月にリリースしたサステナビリティのためのクラウドは、企業が自社の炭素排出を測定できるようになっている。
アリババが発表した2035年までに15億トンの炭素排出を削減する計画には、省エネ技術、再生可能エネルギー源、炭素除去の取り組みへの投資も含まれている。
こういった環境保護のための取り組みは、ベンダー側がアクションを取っていることを示すことで自社の評判が高まるメリットがあり、また顧客企業側にとっても、環境に優しい選択をする方が彼らの消費するリソースを少なくし、コスト削減にもつながる、と話すのはデロイトのチーフ・クラウド戦略オフィサーであるデイビッド・リンシカム(David Linthicum)だ。
「コスト効率の高いチップを使ったり、より環境に優しい、最適化された方法でデータセンターを稼働させたりすることは、利益にも直接貢献します」
しかし、クラウドベンダーのこういった高い目標について懐疑的な専門家もいる。「グリーンウォッシュ」、つまりサステナビリティをマーケティングの道具として使っているだけではないかという指摘だ。クラウド企業は掲げた目標に対しての進捗を示すために、具体的な指標を見せるべきだ、とリンシカムは言う。
マクワイアによれば、クラウド企業はクラウドのサステナビリティについての業界標準を持たないまま、自社の炭素排出のベンチマークについて自己評価をしている。またBCGの調査によれば、包括的に自社の排出量を測定できる会社は全体の9%にすぎず、どれほど効果があったのか評価が難しい状況だ。
炭素排出量の報告についてより明確にするための動きは始まっているとBCGのマネージング・ディレクター兼パートナーのマイク・ライアンズ(Mike Lyons)は言う。
「サステナビリティ達成に必要な、環境に優しいエコシステムに移行するため、(クラウド業界は)前よりも少しオープンで透明性のあるものになってきているのです」
(翻訳:田原真梨子、編集:大門小百合)