トム・ホランドとゼンデイヤが出演する『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。
Sony Pictures
- 2021年の映画の興行成績は2020年を大きく上回っているが、パンデミック前の数字にはまだほど遠い。
- 劇場や配給会社のトップたちは、2022年に向けての展望と懸念を述べた。
- 彼らが挙げた長期的な最大の脅威は、劇場での上映が少なくなることだ。
新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした2年間の混乱を経て、映画業界の関係者たちは、映画の将来について、慎重ながらも楽観的な見方をしている。
「新型コロナウイルスの変異株が映画館の観客動員数にどう影響するかについては、今後も注視していくが、多くの映画が公開され、この市場はいくつかの例外を除いて開かれているため、2022年も期待している」とユニバーサル・ピクチャーズ(Universal Pictures)の国内配給担当責任者であるジム・オア(Jim Orr)はInsiderに語った。
2021年12月16日に公開された『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』がアメリカ国内の興行収入で歴代2位の2億6000万ドル(約296億円)を記録するなど希望の兆しが見えるものの、数字は映画業界は回復には程遠いということを物語っている。
データ分析企業のコムスコア(Comscore)は、2021年の北米の映画興行収入は2020年の2倍近い約44億ドル(約5034億円)になると予測しているが、その数字は2019年に比べると61%以上の減少だ。また同社は、全世界の興行収入も、2020年の120億ドル(約1兆3700億円)から2021年は200億ドル(約2兆2880億円)に増加するものの、425億ドル(約4兆8620億円)だった2019年と比べるとかなりの減少になるとしている。
映画館の問題の一つは、パンデミックで高齢者の観客の戻りが最も遅れており、スティーブン・スピルバーグ(Steven Spielberg)が1億ドル(約114億円)を投じて製作したミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』のような大人向けの作品が影響を受けてしまっていることだ。
しかし2020年に最も成功した映画、つまりコミックのキャラクターなどが登場するIP(Intellectual Property :知的財産)を駆使したテントポール映画(スタジオが短期間で利益を上げることを期待する作品。大規模なプロモーションを伴うことが多い)でさえも『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』を除いてはパンデミック前の数字と比較して劣勢だ。内部関係者は、短距離走というよりマラソンのようなものだと話している。
コムスコアのシニアメディアアナリスト、ポール・ダーガラベディアン(Paul Dergarabedian)は「歴史上最も困難な2年間を経た映画業界にとっては、通常の年の半分以下であっても勝利と見なすことができる」と述べている。
だが、この2021年の興行成績は、映画館がいつどのようにして完全に回復するのか、そして2019年や2018年の数字まで再び戻るのかという疑問を提起している。
Insiderは、映画業界に近い経営者たちに、業界の今後の見通しと、業界が立ち直る方法、また彼らが最も懸念していること、そして新型コロナウイルスのパンデミックが映画業界に及ぼす長期的な影響について話を聞いた。
ここでは、その主な内容を紹介する。
『ブラック・ウィドウ』。
Marvel Studios
劇場公開とリリース戦略は進化する
新型コロナウイルスのパンデミックを通じて、映画会社は映画館の代替や補完としてストリーミング配信の実験を行ってきた。例えば、ワーナー・ブラザース(Warner Bros.)は2021年、すべての映画作品を映画館とHBOマックス(HBO Max)で同時公開した。
しかし、2022年に向けてワーナー・ブラザーズを含むいくつかの大手映画会社は、劇場での独占的かつ短縮された期間での公開を発表しているところもある。それは、映画館に一定期間の独占上映権を与えると同時に、映画会社は通常よりも早くストリーミングサービスで作品公開を可能にするものだ。
パンデミック前の75日から90日という映画館での先行公開期間は、ほとんどの作品で過去のものになるだろう。45日という日数が新しい標準となりうるものとして浮上している。
ユニバーサルの配給担当責任者、オアは、「業界は45日間にまとまりつつあるようだが、すべての作品に当てはまるわけではないだろう」と述べている。
「一部の映画会社の作品には、劇場公開の独占権がない作品があるかもしれない。2019年当時のようなひとつしかなかった劇場公開のモデルに戻るかどうかは分からない。当時から映画館での上映の将来性については多くの議論があり、パンデミックがそれを加速させただけだ」
全米劇場経営者協会(National Association of Theatre Owners:NATO)は、2021年も映画館での独占公開を強く推し進めた。『ブラック・ウィドウ』が映画館とディズニープラス(Disney+)で同時公開された後、同協会はストリーミングでの同時公開を「パンデミック時代の遺物」と呼ぶ厳しい声明を発表した。
批判は主に海賊版の増加に関するものだったが、NATOのCEO、ジョン・フィティアン(John Fithian)は、作品の同時公開は「劇場用映画と家庭用映画の区別を曖昧にする」とも述べている。
劇場とストリーミングサービスでの同時公開は2022年も、いやそれ以降もなくならないだろう。例えばユニバーサルは、2022年2月に映画館とビデオストリーミングサービスのピーコック(Peacock)でロマンチックコメディ『マリー・ミー』を公開するだ。しかし一部の大手映画会社は、ある程度の劇場独占契約を結んでいるところもあり、フィティアンはむしろ「劇場公開作品数が減少していること」を懸念している。アマゾン(Amazon)によるMGMスタジオの買収は、彼の懸念を具現化している。
「MGMは劇場公開用の映画を作り、アマゾンはプライム・ビデオ(Prime Video)に全力を注いでいる」とフィティアンはInsiderに語った。
「MGMは我々が必要とする中予算の映画を製作している。これは大手テック企業が影響を及ぼすようになる前兆だ」
それでも、映画館はアップル(Apple)やネットフリックス(Netflix)と交渉しているとフィティアンは話す。映画館はこれまでネットフリックス作品を上映することを躊躇していた。
「彼らの映画が劇場で公開されるのは理にかなっている」と彼は話す。
「我々は配給先を探し続けるつもりだ」
レイチェル・ゼグラーがマリアを演じる『ウエスト・サイド・ストーリー』。
20th Century Studios
年配の客が映画館に戻ってくるかもしれない
2021年、前述したような年配者向けの中予算の映画は興行成績で苦戦している。一方、若い世代の映画ファンは、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』や『シャン・チー/テン・リングスの伝説』といった成功した作品をけん引している。
「最終的には50代以上の高齢者層の客は戻ってくるだろう。しかし、それは彼らがもう少し快適に感じられるかどうかが問題だ。そういう環境になり、彼らにとって魅力的な映画が出てくれば高齢者層はまた戻ってくるのではないだろうか」と2021年末に退任するシネコン・チェーンのシネマーク(Cinemark)CEOマーク・ゾラディ(Mark Zoradi)はInsiderのインタビューに答えている。
新型コロナウイルスのパンデミックによって、映画館でお金を払って鑑賞する映画と、自宅でストリーミング配信で見る映画に対する消費者の欲求が変化したと感じている人もいる。
「低予算の映画はそのままストリーミングに移行すると思う」とIMAXのリチャード・ゲルフォンド(Richard Gelfond)CEOはInsiderに述べ、パンデミックは「映画館で超大作映画を見ようとする動きを加速させた」と付け加えた。
高齢者の観客を取り戻すには、その層にとって魅力のある「いい映画」以上のものが必要かもしれない。映画館の進化に関してはシンプルだとフィティアンは考えている。映画ファンは、リクライニングシートや、高級なドリンクやフード、例えば座席でディナーができる映画チェーン、アラモ・ドラフトハウス・シネマ(Alamo Drafthouse Cinema)のように、家で手に入らないものを求めている。
ただし、いい映画をきちんと供給することがその出発点になる。
「年配の観客が昔のように映画館に足を運ばないのは当然だが、質の高いストーリーを持った映画が最終的には勝つと思う」とユニバーサルのオアは話している。
[原文:What the future looks like for movie theaters in 2022, according to top industry execs]
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)