「社会主義」肯定し行動するアメリカの若者たち。不平等感じる日本の若者はなぜ声を上げないのか

アレキサンドリア・オカシオ=コルテス

REUTERS

民主主義という価値観を巡って、世界が二分されている。

2020年に発足したバイデン政権は、世界を「民主主義国家vs.専制主義国家」という新たな分断の軸を設定し、年末には100カ国余りに呼びかけ民主主義サミットも主催した。

一方世界を見渡すと、中国やロシアなど強権的な政権が周辺国や途上国に対して多大な影響を持つ。中でも中国は新型コロナウイルスを徹底して封じ込めたことで、一足早く経済成長という果実を得て、経済大国としてますます強大になっている。

2022年にはアメリカで、4年に1度の上下院議員を選ぶ中間選挙が行われ、バイデン政権に国民の判断がくだる。今後民主主義、特にリベラルと言われる価値観はどうなるのか。ミレニアル・Z世代と言われる若者たちの政治動向を中心に占う。


12月19日、民主党の重鎮ジョー・マンチン上院議員(ウェストバージニア州)が、気候変動・社会保障関連歳出法案「Build Back Better(よりよき再建)」を支持しないと表明し、驚きをもって受け止められた。ホワイトハウスはマンチン氏が、「妥協点を見つけ法案を通過させる」という約束を破ったと非難。サキ報道官は、マンチン氏の発言は「突然の不可解な立場の転換だ」と述べた。

1兆7500億ドル規模のこの法案は、新型コロナ後の経済再建を目的としたバイデン政権の目玉政策だ。まだ法案が完全に死んだ訳ではないが、頓挫すれば、政権にとっては痛手となる。

2021年1月に誕生したバイデン政権は、第一次オバマ政権以来初めて大統領と上下院を全て民主党が主導する「トリプルブルー政権」だった。政権にとって安泰な環境が整ったかのように思えるが、実際はそう甘くなかった。

民主党は2020年の選挙で、連邦下院で222議席を獲得(総議席数は435)。過半数は確保したものの、10議席減。上院(総議席数100)はさらにキツく、50対50だ(50対50で票が割れた場合には、副大統領カマラ・ハリスの一票が tie breaker となるので、51対50)。

マンチン議員の一言が注目される理由は、現在の議会の状況では、たった1票が法案の運命を左右するからだ。マンチン議員は、石炭を重要な産業とするウェストバージニア州選出のため、気候変動関連政策には慎重な立場をとっている。

2016年の大統領選で民主党は、ヒラリー・クリントン支持で一枚岩になれず、トランプ氏を勝たせてしまったという反省から、2020年は民主党内左派も中道穏健派も団結し、とにかく選挙に勝つことを優先した。だが、バイデン氏のような中道派と、バーニー・サンダース氏に代表される左派とでは、根底にある哲学も、問題意識も、政策の優先順位も、描いている社会像も異なる。この1年を振り返ると、民主党を一つにまとめる難しさが目に付くようになっている。

特に民主党内プログレッシブ(進歩派)とその進歩派を支持する若者たちは、政権に物足りなさを感じている。この不満が今後さらに強まれば、2022年秋の中間選挙にも響くだろう。アメリカでは、大統領の党が中間選挙で議席を落とすのは普通のことだが、負けるにしても「どのくらい負けるか」が重要だ。民主党が大きく負ければ、両院での多数派を失い、バイデン政権の残りは何もできない2年間になるかもしれない。

バイデンを勝たせたミレニアルとZ世代

サンダースと支持者

サンダース氏を熱く支持するのはZ世代など若者たちだ。

REUTERS/Jonathan Ernst

民主党内で今活気があるのは、圧倒的に左派だ。その左派を支持するのはリベラルな若者たち。彼らが「とにかく選挙に勝つ」ことを優先したおかげで、バイデン氏は大統領に当選できたとも言える。

選挙後のさまざまな分析で、民主党を勝利に導いた一つの大きなグループはZ世代(1997年以降生まれ。現在24歳以下)とミレニアル世代(1981年ー1996年生まれ。現在25歳から40歳)だったことが明らかになっている。

ニューヨーク・タイムズによる大統領選の出口調査でも、18歳から29歳の層では、36%対60% で明らかにバイデン支持が多かった。

2019年時点では、民主党支持者のうち43%がZ世代とミレニアル世代で、この割合は2024年には50%に達する。2020年代後半以降には、この世代が民主党の方針や政策決定に大きな役割を果たすようになり、民主党の軸はよりリベラルな方向に触れていくだろう。

もともと歴史的には労働組合など労働者に支持されていた民主党は今日、都市部のリベラル、高学歴者の党となっている。大学進学率の上昇により、ミレニアル・Z世代は、アメリカ史上で最も高学歴な世代になると予測されている。

一方、今日の共和党は、60歳以上、特に1945年以前に生まれた世代(70代後半)に支えられている

人種的には白人が多く、いまや中高年の白人のための政党という感じだ。アメリカは長期的には「白人が多数派の国」ではなくなっていく。2008年に発表された国勢調査によれば、白人(非ヒスパニック系白人)は、2042年に人口面で少数派になり、現在「マイノリティ」である非白人が多数派になると予測されている。このことへの恐怖が、一部白人をトランプに引きつけた要因の一つでもあるだろう。

実際Z世代には、移民やその子孫、両親の人種が異なるケースが多く、それ以前のどの世代よりも人種的・民族的に多様だ。2020年3月にPewリサーチセンターが発表した「Z世代について今のところ我々が知っていること」という調査によれば、Z世代では2026年までに白人以外が過半数を占めるようになるとされている。

このような人口動態のシフトを考えると、共和党にとって今後は支持基盤の拡大が難しくなってくる。「保守」を自称するミレニアル・Z世代でさえも、気候変動、銃規制、人種差別、医療保険などについての考え方が親世代に比べてリベラル化していることが明らかになっている。信心深いキリスト教信者人口も縮小傾向にあり、保守派にとっては次世代、特に白人以外の人種グループをどう引きつけるかは大きな課題だ。

AOCを産んだ左派のエネルギー

アレキサンドリア・オカシオ=コルテス

アレキサンドリア・オカシオ=コルテスはマイノリティの権利や経済的平等などの実現を公約に掲げ、熱狂的な支持を集める。

REUTERS/Brian Snyder

2016年の大統領選は、民主党やその支持者たちにとってはトラウマとなったが、あの敗北があったからこそ生まれたものもある。

2018年の中間選挙と2020年の選挙では女性と人種的マイノリティの議員が多く誕生し、女性議員の当選記録を2度続けて上書きした。背景にはトランプ氏への怒りと同時に、サンダース氏敗退の悔しさをバネに、民主党左派が盛り上がったという点もあるだろう。

その象徴が、AOCことアレキサンドリア・オカシオ=コルテスだ。彼女は1989年生まれ(ミレニアル世代)、ニューヨークのブロンクス出身。両親はプエルトリコ出身の移民で、自らも大卒ながらウエイターやバーテンダーをしながら家計を支えていた労働者階級出身だ。サンダースの選挙キャンペーンで働いていたこともある。2018年の中間選挙で、史上最年少の女性下院議員として、ベテランの現職議員を破って当選。「最大の番狂わせ」と呼ばれ、全米の注目を集めた。

着任早々に、「グリーン・ニュー・ディール」(気候変動、地球温暖化対策として、政府に大規模な財政出動や雇用創出を求める構想)で注目を集め、その後、アマゾン第2本社のニューヨーク建設の反対運動をリードし成功するなど、急進左派のスターとして認められるようになった。発信力もあり、TwitterとInstagramのフォロワー数が、民主党議員の中でダントツ1位という人気者だ。

彼女のように政治経験のない、後ろ盾も資金もない無名の若者が、どうして出馬し、当選できたのか。

2019年に公開されたドキュメンタリー映画「Knock Down the House (邦題:レボリューション -米国議会に挑んだ女性たち-)」は、AOCはじめ2018年に下院議員選に出馬した複数の女性たちに焦点を当てた作品だ。Knock Downとは英語で「打ち倒す」、the HouseはUnited States House of Representatives(連邦議会下院)のことだ。

knock down the house サムネ

Netflixよりキャプチャ

この作品を見ると、いかに彼女たちが大きな代償を払い、リスクを背負い、悩みながら選挙に臨んだかが生々しく伝わってくる。彼女たちを支えた選挙対策チーム、ボランティアたち(多くは大学生、大学院生、若い社会人)の存在の大きさ、候補者に対する熱い想いもよく分かる。

この作品では、Justice DemocratsBrand New Congress という2つの政治行動委員会(PAC: Political Action Committee)に焦点が当たっている。いずれも2016年の選挙を機に、サンダース氏のキャンペーンにいた少人数の有志たちが創設した団体だ。企業利権に絡め取られておらず、先進的な考えを持つ新しいタイプの候補者を政界に送り込むことを目的としている。それに見合いそうな候補者を推薦を募って集め、選び、コーチし、資金調達やキャンペーン戦略の面でサポートする。

まったくの無名だったAOCも(彼女の弟が推薦した)、この団体の支援とトレーニングを受けて当選した訳だが、彼女の勝利によって団体も一躍有名になった。現在、Justice Democratsの推薦した議員は、下院で10人の勢力となっている。

アメリカにはこのように、市民が自発的に組織し、自分たちの求める政策方向性に沿った候補者を財政、選挙戦略その他の面で支援し、政界に送り込むためのグループが多数存在する。Pro-choice(女性の妊娠中絶権を肯定する派)の女性政治家をより多く当選させることを目的に1985年に設立されたPACのEMILY's List などもその例だ。

2016年の予備選でサンダース氏を支持していた若者たちの多くは、民主党がヒラリー・クリントンに1本化したことに強い不満を表明していた。その敗北を敗北のままに終わらせず、これら2団体のような、自分達の声を議会に届けてくれる新しいタイプの政治家をワシントンに送り出すメカニズムを作り上げた。結果的にサンダースの2度の敗北は、リベラルに新たなエネルギーを吹き込み、次世代の政治家を産み出す原動力になったと言える。

「社会主義」を肯定するアメリカの若者たち

build back better protest

富の再分配、気候変動への取り組みを進める法案「Build Back Better(よりよき再建)」を民主主義の問題として捉え、可決を促す声が強まる。

REUTERS/Jonathan Ernst

10年後のアメリカでは有権者の過半数を占めるようになるミレニアル・Z世代。彼らは親世代の民主党支持者と比べても進歩的だ。多様性をポジティブにとらえ、人種やジェンダーなど各種の差別が是正されるべきだと考えている。性的指向の自由、同性婚を肯定し、気候変動を重要課題と考えている。さらにデジタルネイティブで、テクノロジーを駆使して世界中の仲間と連帯し、意見を積極的に発信する技も身につけている。

社会主義に対する感覚も、親世代とはかなり違う。大統領選において、「民主社会主義者」を名乗るサンダース氏や、ウォール街を躊躇なく敵に回すエリザベス・ウォーレン氏のような人物が有力候補になり、若い世代に熱烈に支持されるということ自体、注目に値するシフトだ。

アメリカでは「社会主義」という言葉は「共産主義」と並んで、ソ連や中国を想起させるので、ネガティブに捉えられてきた。だが冷戦終結後に生まれた世代には、そのようなネガティブな印象がそもそもない。2019年のYouGov による調査では、7割ものミレニアル世代が、「大統領選で社会主義の候補に投票する気がある」と答え、およそ3割が「共産主義に対して肯定的」とも答えている。

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