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日本企業は従業員の「再教育」に投資を。リンダ・グラットン教授に聞く、人生100年時代を生き抜く行動戦略

the INTERVIEW

リンダ・グラットン氏提供

新型コロナは、社会の在り方、人々の働き方を大きく変化させた。リモートワークが増え、オフィスに毎日出勤しなくても仕事ができるようになった。一方で、人生100年時代と言われ、世界は「新しい長寿時代」に突入しようとしている。

将来、仕事は、機械やAIに取って代わられるのではないかという漠然とした不安の中、人々は自分に合った働き方や学び直しの方法を模索し始めている。

そこで、ベストセラー『ライフ・シフト』に続き『ライフ・シフト2——100年時代の行動戦略(原題:The New Long Life)』をロンドン・ビジネススクールのアンドリュー・スコット教授とともに執筆したリンダ・グラットン教授に、この100年に一度の大変革時代に必要なことは何か、私たちがこれから長く新しい人生を生き抜くためには何をしなければならないのかを聞いた。


コロナによって変わる職場

——新型コロナのパンデミックによって、変化のスピードが遅いとされる日本の政府も産業界でも、在宅勤務の推進や副業解禁といった変化が見られるようになりました。コロナが産業界に与えた影響とはどのようなものがあったと思いますか。

リンダ・グラットン氏(以下、グラットン):今回のパンデミックは、世界中で、企業がいかに早く新しい働き方に軸足を移せるかということを浮き彫りにしました。多くの企業の社員は、在宅で仕事ができるようになり、家族と過ごす時間が増え、地域社会の一員としてより強力に活動できるようになりました。人々は、長時間の通勤に耐える必要がなくなり喜んでいます。

また、企業の幹部たちは、在宅勤務でも生産性は高められるのだと理解するようになりました。オフィスの役割も従業員が働くのを監視する場所ではなく、むしろ、協力し合い、交流する場であると考えるようになったのです。

——このような変化を推進している企業がある一方で、まだ従来のやり方から完全に脱却できていない企業もあります。変化についていけない企業には、どのような未来が待っているのでしょうか。

グラットン:私が研究してきたどの産業分野でも、こうした新しい働き方をいち早く取り入れた企業と、従来の働き方にしがみつこうとしている企業があります。

変わろうとする企業は、働く時間や場所の柔軟性など、従業員が魅力的と感じるやり方を試し始めています。その結果、職場が魅力的になり退職者を出しにくいものになっているのです。

いま世の中の仕事の数は、労働者の数を上回っているため、労働者には選択肢があります。給与レベルも大事ですが、多くの人がもっと柔軟な働き方を求めています。この点では、早くから新しい働き方を導入している企業が業界の中でも有利になると思います。

リモートワーク

在宅勤務にいち早く対応した企業とそうでない企業、パンデミックは企業の変化対応能力の差を浮き彫りにした。

martin-dm/Getty Images

——米国労働局発表の調査によると、自発的に会社を退職した労働者の数は2021年8月に月間400万人を超え、2000年の調査開始以来最高の離職率に達しました。アメリカではこのように多くの労働者が職場を去る「大退職(Great Resignation)」が起きています。この前例のない事態を経て、今から1年後、職場の風景はどのように変わっていると思いますか。

グラットン:そもそも「大退職」の理由は何でしょうか。それは、人々が仕事について深く考えた結果なのかもしれません。多くの人にとり、パンデミックは、自分にとって何が重要なのかを深く考える機会となりました。また、毎日の通勤のような古い習慣を捨て、公園での毎日の散歩など新しい習慣を取り入れる機会にもなりました。

そうして人々が未来を見据えた時、自分は自分の生き方に合った仕事を見つけることができるのだと感じるようになったのです。

もう一つの大事な変化は、多くの家庭がパンデミックの間にお金を貯めたということです。その結果、次の仕事が見つかるまで、この貯蓄を使って生活を支えることができるのです。さらに、これに労働人口の高齢化と若年労働者の減少ということも加わり、今、明らかなのは、私たちが真の労働市場の変化に直面しているということです。

ではその結果、何が起こるのでしょうか。かつては、雇用条件を決める権限は雇用主や組織の手にありました。しかし、今、特に貴重なスキルを持っている従業員についての雇用条件を決めるのは、従業員とそのスキルの重要性です

多くの従業員にとっては、適正な給与、おもしろい仕事、楽しい同僚たち、そして協力的な上司がいることが優先事項です。また、柔軟な働き方ができることや、いつ、どのように働くかについてある程度は自分で決められるかということも重要視しています。

ですから、各産業分野では、このような新しい働き方を試す「アーリーアダプター企業(早期に導入に乗り出す企業)」が出てくるでしょう。そして、これらの新しい働き方は、いずれ普通のこととして組織に取り入れられていくに違いありません。

「リスキリング」の重要性

——職業人生が長くなることで、企業も人材の学びを支援することがますます重要になってくると思います。いま日本でも「リスキリング」という言葉が注目を集めているものの、GDPに占める企業の能力開発費の割合を国際比較で見ると、アメリカ・フランス・ドイツ・イタリア・イギリスに比べて日本は突出して低い水準にとどまっています(厚生労働省「労働経済の動向 平成30年」、下図参照)。これをご覧になってどう思われますか。また、この状況を変えるためにはどのような働きかけをすればよいでしょうか。

国民経済計算

厚生労働省「労働経済の動向 平成30年」をもとに編集部作成。

グラットン:日本企業の再教育への投資額の少なさには驚かされました。私は、日本は欧米企業の標準に近いと思っていましたから。

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