グラスゴーで開催されたCOP26の開場に集まったデモ参加者は、今すぐに変化が必要だと訴えた。
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サステナビリティ(持続可能性)は常にベンチャーキャピタル(VC)業界の最重要課題というわけでなかったが、VCを支持する機関投資家にとっては急速に優先順位が高まっている。
イギリスの大手保険会社アビバ(Aviva)が、サステナビリティに特に焦点を当てたVCファンドに5000万ポンド(約77億円) を投資する決定を下したことは、まさにそのことを表している。これは、2015年以来、自社の業界により深く関連するスタートアップに主に焦点を当ててきた同社が、VCに対するアプローチを大きく変えたことを示すものだ。
投資規模は比較的小さいが、よりグリーンな(訳注:環境負荷を低減し、持続可能な社会の構築の実現に向けた取り組みを行っている)VC企業が、機関投資家にとって今後ますます重要な存在になるだろう。
ロンドンのコンサルティング会社、PwCも同様の動きを予測しており、環境・社会・ガバナンス(ESG)関連で運用される民間市場資産は、2020年の2530億ユーロ(約32兆8000億円)から2025年までに1兆2000億ユーロ(約155兆7500億円)という高水準に達する可能性があるという。
その背景には、規制当局が機関投資家に対してポートフォリオの適正化を求める圧力が高まっていることや、顧客からサステナビリティへの真剣な取り組みが求められていることなどがある。例えばアビバは2040年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにするという目標を掲げている。
アビバの最高技術革新責任者(chief innovation officer)であるベン・ラケット(Ben Luckett)は、同社はこれまでに100以上のファンドを評価したが、資金提供を行ったのは1社だけだったと語る。
「私たちが行っている対話は、(削減)目標が意味のあるものであって、単に高い目標を設定して話題になったと思ったら忘れられてしまうような、目標のための目標ではない、ということを確認するためのものです」とラケットは言う。「目標は意味があってインパクトがあるだけでなく、実際に達成可能な適正な水準に設定しなければなりません」
保険会社や年金基金、その他基金などの機関投資家から資金調達をすることが多いVCにとって、資金提供者の優先順位の変化に敏感であることは不可欠な要素だ。
大西洋をまたいでヨーロッパとアメリカにオフィスを構えるVC、フロントライン・ベンチャーズ(Frontline Ventures)のパートナー、ウィリアム・マッキラン(William McQuillan)によると、今や多くの大手LP(リミテッド・パートナー)が、 取引先のVCファンドマネジャーに対して特に統合報告書(ESGレポート)の提出を求めているという。
「私たちと取引するLPの中には報告書以上のものを求めるところはありませんが、資本の一部としてターゲットやゴールを設定し、他の運用会社にリターンとして還元するインパクト重視のLPも現れ始めています」とマッキランは話す。
しかしマッキランは、各機関投資家はサステナビリティのパフォーマンスを評価するための「適切な指標とは何か」を見極めようとしている最中だと考えており、そのプロセスがVCに対して厳しい要求を突きつけるようなことにはならないと見ている。
とはいえ、VCには、ポートフォリオのサステナビリティ信用度を高めるため、しっかりとした行動計画が必要だ。ロンドンに拠点を置くタリス・キャピタル(Talis Capital)は、アーリーステージの多様なスタートアップに対し、ESGへの強力なアプローチが可能であると考えるVCファンドの1つだ。
タリス・キャピタルのマネージングパートナーで共同創業者のマティス・マール(Matus Maar)によると、LPとVCのコミュニティ「ベンチャーESG(VentureESG)」のように複数業界にまたがるグループが現れたことで、最善の方法を導き出すために連携する機会が生まれたという。
「今の状況を本格的に進展させるためには、ファンド間の連携が絶対に不可欠です。特に、投資家ごとに異なるESG報告要件を課されている企業の負担を軽減するために、共通のESG報告システムをつくる場合には連携は必須だと思います」 とマールは述べる。
VC業界にとって、これ以上重要なタイミングはない。国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP 26)で、気候変動リスクに取り組まない場合の影響が示されてからわずか1カ月という今、機関投資家は、投資のサステナビリティの信用度に対し、2022年はより厳しい目を向けることになるだろう。
ベンチャーキャピタリストもこの流れに備えておかなくてはならない。
(翻訳:渡邉ユカリ、編集:大門小百合)