米テック界大物も苦言「ザッカーバーグは道義を忘れた」肥大化したソーシャルメディアへの規制論強まる

マーク・ザッカーバーグ

REUTERS/Erin Scott/File Photo

「マーク・ザッカーバーグのことは、不安だ」

2021年12月24日クリスマス・イブ、グーグル元最高経営責任者(CEO)であり、ハイテク業界で尊敬を集めるエリック・シュミット氏がMSNBCに特別出演し、メタ・プラットフォームズ(以下、旧フェイスブック時代の事案についてはフェイスブックと記載)のザッカーバーグCEOをこう批判した。

アップル創業者・元CEOの故スティーブ・ジョブズ氏、マイクロソフト創業者・元CEOのビル・ゲイツ氏、テスラ創業者兼CEOのイーロン・マスク氏らのことを「卓越した才能」と称賛した中で、ザッカーバーグ氏だけに釘を刺した。

「マークは彼の会社を存続させるにあたり、ビル・ゲイツや他の偉大なリーダーから教訓をきちんと得ているのか不安だ。彼は、根本的な道理や道義を忘れてしまった」(シュミット氏)

エリック・シュミット

2021年年末にMSNBCに出演したエリック・シュミット氏は、ソーシャルメディアに対しての危惧を示した。

MSNBCの画面より

シュミット氏が「忘れた」と過去形を使ったことで、ザッカーバーグ氏をもはや見放したような印象さえ与えた。テレビで、上場企業の有名CEOを名指しで批判するのを聞くことも、極めて稀だ。

Facebookは2021年、世界人口の半分近くが使うプラットフォームになったにもかかわらず、創業17年で「最大の危機」に直面した。利用者の権利や安全を軽視したとされる経営スタイルが元従業員によって告発され、社内外から厳しい評価を浴びた。過去に何度もザッカーバーグ氏を召喚し、経営体質について糾弾してきた米連邦議会は初めて、本格的な規制を検討する姿勢をみせた。

Facebookなどソーシャルメディアの影響が、私たちの想像を超えて巨大になっていたことを思い知ったのは、2021年1月6日だ。

前大統領のドナルド・トランプ氏は、2020年11月の大統領選挙で敗北したのは「(票を)盗まれた」ためだとソーシャルメディアを使って繰り返し主張し、支持者を首都ワシントンの連邦議事会議事堂に向かわせた。その結果、議事堂で5人の命が奪われる惨事となった。アメリカ民主主義の象徴である議事堂が襲われ、アメリカ市民が選挙で選んだ議員らが、一部の武装市民の怒りによる「リンチ」に危うく晒されそうになった。

絵に描いたようなこの「クーデター」は、1年経った今日も、アメリカ市民にとってトラウマとなっている。独裁的でポピュリストのトランプ氏が、FacebookやTwitterなどソーシャルメディアで発信してきたでっち上げや誤情報は、事件に大きな役割を果たしたと誰もが思っている。

「民主主義の騎手、アメリカは大丈夫なのか」

という問いが、議事堂襲撃事件で世界の民主主義国家から向けられる中、旧フェイスブックはトランプ氏のアカウントをTwitterと同時に停止した。Twitterはその前年から同氏のツイートに規制をかけていたのに対して、それまで放置していた旧フェイスブックの対応は遅きに失したと非難を浴びた。

Instagramの犠牲になる10代

追い討ちをかけたのが、1人の元社員による告発だった。

2021年9月、元社員フランシス・ホーゲンさん(当時37)が、「フェイスブックの経営は、ユーザーの健康や幸福より利益を優先している」と告発した。彼女は、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に、告発の材料として保存しておいた膨大な社内文書を提供し、同紙は大型の特集を組んだ。特に傘下にあるInstagramが10代など若者に与える「有害性」が社内でも認識されていたにもかかわらず、放置されていた実態を生々しく報じた。

「10代の少女の32%は、自分の体形に不満を感じている時にInstagramを見ると、さらに自己嫌悪感が強まると語っている」(WSJ「インスタグラムは10代少女に有害=内部資料」より)

2020年3月にはすでにフェイスブック内部の社内メッセージボードにこのようなスライドがアップされていた。

別の社内プレゼンでは、「自殺願望」を報告している10代のうち、イギリスユーザーの13%、アメリカユーザーの6%が、原因はInstagramとしている(WSJの同記事より)。

理由は、体形コンプレックスを刺激する内容だ。ユーザーが関心を抱いてクリックした、あるいは滞在時間が長かったコンテンツを次々と見せるアルゴリズム、「自動推奨システム」は、「若い人を傷つけている」とホーゲンさんは糾弾する。摂食障害やうつ病などの深刻な事態を招いていると。

FB社内資料

アメリカとイギリスの10代の70%が、孤独感や悲しみに関連、あるいは真の友人がいないなどというメンタルヘルスに関連したInstagramの投稿を見ている。

(出所)旧フェイスブック社内資料「Teen mental Health Deep Dive」p.42よりキャプチャ。

しかも、彼女の告発後もシステムは改善されることなく、被害者を生んでいる。

クリスマスを前にした2021年12月12日、ペンシルベニア州に住むナイラ・アンダーソンちゃん(10)が命を落とした。Instagramで広まっている「ブラックアウト・チャレンジ」、失神する(ブラックアウト)まで息を止めているというゲームを、友達との間で試した結果だ。彼女は意識不明で母親に発見され、救急隊も蘇生できなかった(ピープル誌による)。

2021年だけで、アンダーソンちゃん以外に9−12歳の3人が、このチャレンジで犠牲になっている。

ウェルビーイングにプラスの影響と反論

さらにWSJは、世界600万人ものセレブに対しては、ルールに反した投稿をしても、見逃す優遇措置さえあったことを報じた。例えば、サッカーのブラジル代表ネイマール選手は、自分をレイプ容疑で訴えた女性のヌードを投稿したが、1日以上も削除されずにいた。

ホーゲンさんの弁護士はその後、「フェイスブック・ペーパー」と呼ばれる数千ページに及ぶ内部文書を、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなど米主要メディアに提供した。これを入手した十数社のメディアが、文書を分析し、フェイスブックの企業ガバナンス不全を指摘する特集を組んだ。

  • 2020年、ザッカーバーグ氏は議会に対し、利用者から通報がある前に94%のヘイト・スピーチを削除したと証言した。しかし内部文書によると、同社が削除したヘイト・スピーチは5%にも満たなかった(ワシントン・ポスト)。
  • 2020年、フェイスブックが誤情報に対して取った対策の84%は、アメリカ国内向けのものだった。対策を取った「残りの国」は、インド、フランス、イタリアなどのみ。「英語を話さず、有害な人物や権威主義がはびこる国において、Facebookのプラットフォームが悪用されるのを放置した」(ワシントン・ポスト)。
  • 2020年11月大統領選挙の前、共和党候補のドナルド・トランプ前大統領を支持する極右団体で陰謀論を信じるQAnonの活動を察知した社員がおり、報告書を書いていた。選挙後に、アメリカ政治に関する10%もの投稿が、トランプ氏の「選挙結果は不正」という主張に関するものだと気がついた社員も報告書を書いた。しかし、フェイスブックはこれらの内部報告書を無視した(ニューヨーク・タイムズ)。
  • Facebookの中毒的な利用によって、利用者の8人に1人に当たる3億6000万人が、睡眠や仕事、子育て、人間関係に影響を与えていると、社員チームが報告した。Facebook Messengerへの返信といったプレッシャーも含め、Facebookを利用した方が、他のソーシャルメディアを使った時よりもウェルビーイング(健康・安定)が低下する(WSJ)。

ザッカーバーグCEOは、ホーゲンさんの議会証言の直後に反論した

「あなたたち(利用者)の多くが、最近の報道を読むのは辛いと思っているだろう。なぜなら、報道は私たちが知っている当社の姿を反映していないからだ。私たちは、安全性、ウェルビーイング、メンタルヘルスの問題について深く心配している」

「当社が見てきた研究内容は、他者とつながるためのソーシャルアプリの利用が、心の健康面にプラスの効果を与え得るというものだ」

「10代の若者が、困難な瞬間や問題に悩んでいる際、Instagramを使うことで助けられると感じていることは実証されている。(中略)孤独感、不安、悲しみ、摂食障害などと直面する10代女子も、Instagramが、困難な時期を悪化させるというよりも良いものにしてくれたと言っている」(ザッカーバーグ氏反論の中にあるフェイスブック広報の声明)

「米市民としての誠実さを放棄した」

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