アリババやテンセントなど、メガIT企業は逆風を受けて株価も大きく下がった。
Reuters
新興企業の勢いを感じさせる前向きなニュースが多かった前半から一転、2021年後半の中国経済は急ブレーキがかかり、先行き不安が払拭されないまま1年を終えようとしている。2021年を2回に分けて振り返る連載の後半は、7月以降の主なトピックを紹介する(前回の記事はこちら)。
アメリカへの上場、2021年後半に激減
2021年を総括する上で非常に象徴的な数字は、中国企業のアメリカでの新規株式上場件数だ。2021年1~6月の上場数は36社で過去最高だったが、7月~12月上旬はわずか3社にとどまった。
背景には米中摩擦により、両国が中国企業の米上場について規制を強化していることがある。
米証券取引委員会(SEC)は12月、アメリカで上場する外国企業向けの新規則をまとめた。中国企業が米当局の監査を長年拒否してきたことを念頭に置いており、今後も監査を受け入れない場合、早ければ2024年にも上場廃止になる可能性がある。
中国政府も対抗するように、中国企業の海外上場について2020年から監視を強化し、配車アプリのDiDi(滴滴出行)が2021年6月に上場すると、その2日後に同社への調査を発表した。
中国での事業に足かせをつけられたDiDiは11月、アメリカでの上場を廃止し、香港での上場準備に着手すると発表した。
中国企業はこれまで、資金を調達しやすいアメリカでの上場を好んできたが、今後は香港市場への鞍替えが進みそうだ。
「共同富裕」でIT企業が標的に
2021年夏、習近平国家主席は貧富の格差を是正し、すべての人が豊かになることを目指す「共同富裕」のスローガンを打ち出した。そこで標的にされたのが、データを独占して巨大な利益を生み出したIT企業や芸能人、インフルエンサーだ。
2021年4月、EC最大手のアリババグループは独占禁止法違反で182億2800万元(約3000億円)の罰金を命じられた。
テンセントグループに所属する生活サービス大手の美団(メイトゥアン)も10月、同社のネット出前サービスを利用する飲食店に競合との取引をしないよう迫ったことなどが独禁法違反と認定され、34億4200万元(約600億円)の罰金を科された。
オンラインゲームは、未成年から時間を搾取している毒物とみなされ、厳しく規制されたほか、芸能界への規制も強化された。
12 月20日には、中国で知らない人はいない「ライブコマースの女王」ことインフルエンサーの薇婭(ウェイヤー)氏が、約6億4300万元(約115億円)の所得隠しを摘発され、追徴課税や罰金などで計13億4100万元(約240億円)の支払いを命じられた。
ウェイヤー氏の脱税は、インフルエンサーがいかに巨額の収益を上げているかを国民に知らしめたと同時に、2022年はライブコマースやインフルエンサービジネスに逆風が強まることを示唆している。
教育改革、少子化対策の切り札になるか
経済格差とそれに伴う教育格差を縮小し、進行する少子化に対処するため、7月には宿題と学習塾の規制「双減」政策が発表された。
その後、中国当局は学習塾の非営利化を進め、国内の学習塾の8割以上が閉鎖された。
極端な学歴社会や激しい受験戦争、教育の負担で親も子も疲弊しており、教育規制は一定程度理解されているが、この改革によって中国人の学力にどの程度影響が出るのか、そして出生数が好転するかは数年経たないと検証できない。
「リーマン・ショック再来」世界を震撼させた恒大危機
9月に入って突如日本で大きなニュースになったのが、不動産大手・恒大集団の債務危機だ。恒大の債務問題は1年以上前からくすぶり続けていたが、巨額の利払いの償還期限を控える中で、同社が9月13日に「未曽有の困難にある」と声明を出したことで、「中国版リーマンショック」が来るとの懸念が世界で高まった。
現時点で恒大の債務は一部デフォルトにあるとみられ、格付会社数社が12月に同社の格付けを引き下げている。一方で中国政府が恒大の経営再建に関与する方針を明確にしたことで、市場の動揺は限定的だ。
恒大だけでなく、中国の不動産業界全体の財政は過去数年にわたる闇雲な規模拡大によって傷んでおり、景気減速と不動産バブル退治をどう両立していくか、中国当局は2022年も難題と向き合うことになる。
期待先行のメタバース、株式市場の希望に
中国の不動産バブルの背景には、投資先が限られていることもある。中国不動産プラットフォームの経営者は、「中国では不動産と株式市場くらいしか投資先がない。株式市場が低迷すると不動産を買い、不動産市場がだめだと株にお金を移す。それでどちらも投機的な動きが起きる」と指摘した。2021年は海外投資への規制も強まり、中国企業株、不動産市場全てが低迷する中で、降って湧いたのが「メタバース」だ。
「メタバースの実現に最も近い企業」と言われる米ゲームプラットフォーム「ロブロックス(Roblox)」の上場を機に、中国でもゲームやVR/ARなど関連企業の株価が上昇し、10月のフェイスブック(Facebook)の社名変更で、メタバースへの投資意欲はさらに過熱した。
テンセントやバイトダンスは以前からこの分野に投資を進めているが、バブルに巻き込まれることを警戒し、メガIT各社が慎重な発言に終始している。一方で、スタートアップは次々にメタバース参入を宣言し、関連講座や専門家、団体が湧いて出るなど、情報商材化も加速している。
2022年は2月に北京冬季オリンピックが開催されるが、アメリカなどによる外交的ボイコット、そしてオミクロン株の拡大などでお祭りムードは薄い。オリンピックや緩和的措置などを通じて、2021年下半期の沈滞ムードを早い段階で払拭できるかも注目される。
(文・浦上早苗)
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。