ファミリーレストランの「ロイヤルホスト」が、この12月に1号店のオープンから50周年を迎えた。
高度経済成長期の1971年にファミレスの先駆けとして生まれてから半世紀。競争の激しい飲食業界の中、いかにして生き残り、いかにして顧客から長年愛されるブランドになったのか。
2022年1月、ロイヤルホストなど外食事業を運営するロイヤルフードサービスの新社長に就任する生田直己氏(現:取締役、ロイヤルホスト事業部長)は、バブル崩壊後の1990年代こそ「ターニングポイントだった」と語る。他社の低価格攻勢の中にあっても「安易な値下げ」をせず、味とサービスを守ったことが後にブランドの再生につながったという。
時代やライフスタイルの変化とともにアップデートを続けてきた老舗ファミレスの歩みを生田氏に聞いた。
「ロイヤルホスト」とロイヤルグループの歩み
Business Insider Japan編集部が作成
1号店のオープンは高度経済成長期。「特別なごちそう」「非日常」を演出
1971年にオープンしたロイヤルホスト1号店(福岡・北九州市黒崎)
資料提供:ロイヤルフードサービス
——「ロイヤルホスト」は1971年(昭和46年)に1号店がオープンしました。この頃は、戦後の日本経済が急成長を遂げた「高度経済成長期」のピークでした。
弊社もそうですが、最近「50周年」という言葉をよく耳にするように思います。
外食業界では昨年(2020年)は「すかいらーく」さんと「日本ケンタッキー・フライド・チキン」さん、今年(2021年)は「日本マクドナルド」さんが同じく創業50年の節目を迎えています。
当時の大きなイベントといえば、1970年の「大阪万博」(EXPO70)でしょうか。日本と世界の交流が深まり、成長から成熟へと差し掛かっていった時代と言えると思います。
——「ロイヤルホスト」の前身はフランス料理のレストランでした。
創業者の江頭匡一(えがしら・きょういち)は、もともとは戦後に米軍基地でコック見習いでした。
その後、米軍基地への物資調達や国内航空会社への機内食の納入などの事業を興し、1953年11月には福岡市東中洲にフランス料理店「ロイヤル中洲本店(現:レストラン花の木)」を開業しました。これが「ロイヤルホスト」の前身です。
「ロイヤル」は当時としても本格的なフレンチレストランでした。お客様においしい料理を提供したいという哲学は、この頃から受け継いでいるものです。
現在のロイヤルホストのグランドメニュー。前身の「ロイヤル」やマリリン・モンローとジョー・ディマジオの夫妻が来店したことが紹介されている。
撮影:吉川慧
—— 1954年、結婚間もないマリリン・モンローとジョー・ディマジオの夫妻が「ロイヤル」に来店し、オニオングラタンスープを食べています。このエピソードは現在のロイヤルホストのメニューでも紹介されていますね。
江頭は、より多くの人に「ロイヤル」のような体験をしていただきたいという気持ちで1971年12月に郊外型ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」1号店を北九州にオープンしました。
私も今年で57歳になりますが、小学校の頃は家族みんなで食べるご馳走といえばファミリーレストランだったなぁ……なんて思います。
—— 1970年代、団塊ジュニア世代が子供のころ、海外旅行はまだまだ高嶺の花。ファミリーレストランは身近にあった「非日常」だったのかもしれません。
ロイヤルホストでは1974年以来、海外料理のフェアを続けています。
1980年のイタリアンフェアでは、ファミリーレストランとしては先陣を切ってパスタをアルデンテで提供しました。私が店舗勤務をしておりました1997年のタイ料理フェアでは、本格的なトムヤムクンもお出ししました。
(左から)開店当時、80年イタリアンフェア、97年タイ料理フェアのメニュー。
資料提供:ロイヤルフードサービス
ただ、アルデンテのパスタやトムヤムクンも、その当時の日本では一般的ではなかった料理でしたのでお客様の評価はあまり……(笑)。でしたが、海外の食文化を、時代に先駆けて、チェーンとして、お客様にご紹介できたかと思っております。
これからも海外の食文化や新しいものは積極的に取り入れ、美味しいと思うものをお客様にご紹介したいと思っています。
私たち社員もみな食べることが好きで、「食べ物屋」としてのプロ意識があります。部署を問わず、日頃から美味しいものや珍しいものを探していますね。
時代、ライフスタイルの変化に合わせて店舗・内装もアップデート
1971年にオープンしたロイヤルホスト1号店の内装(福岡・北九州市黒崎)
資料提供:ロイヤルフードサービス
—— この50年間でロイヤルホストが変化したところはありますか。
特にライフスタイルの変化に合わせて、店舗のかたちや内装はアップデートしてきました。
たとえば、1号店が生まれた1970年代は自家用車が移動手段として拡がったモータリゼーションの時代です。まず、お店には駐車場が必須でした。
そして天井は高く、オープンキッチンに。大家族でも座っていただけるような広々とした開放的なダイニングでした。
ただ、ダイニングがあまり広いと従業員も働きづらい。サービスも行き届きにくいですし、結果としてお客様にご不便をおかけする可能性も出てしまいます。
また、昼食時や夕食時にはたくさんのお客様にお越しいただけても、その間のアイドルタイムはそうとは限りません。繁閑の差も大きくなってしまい、従業員の配置も難しい。
そこで、ダイニングを2〜3つに区分けしたり、L字型にした店舗なども生まれました。アメリカなどにある従業員の「担当テーブル制」も取り入れました。
1975年にオープンした関西1号店となった東神戸店。
資料提供:ロイヤルフードサービス
—— 自動車での来店が前提となると駐車場が必要ですが、用地の確保が難しそうですね。
そこで生まれたのがピロティタイプの店舗です。1階が駐車場で、2階が店舗というスタイルですね。昭和50年代の終わり頃〜平成初期にかけての店舗に多いタイプですね。
それ以降も店舗の改装は順次進めています。もちろん、ロイヤルホストの歴史が長くなればなるほど設備や設えが古くなったことによる改装もしますが、お客様が心地よく過ごしていただける意匠や、スタッフが働きやすいように動線や設備を考慮しての改装を今後も行っていきたいと考えております。
ライフスタイルの変化をメニューに反映、コロナ禍で「2名席」需要増
ロイヤルホスト桜新町店
撮影:吉川慧
── 最近は「ファミリーレストラン」とはいえ、昔のような大人数の「家族」ばかりとは限らない時代です。ここ数年、ライフスタイルの変化に合わせた改装を進めていると聞きました。
ロイヤルホストもポジティブな意味で「少し変わったね」と思っていただけるためにはどうすれば良いのか。そこで考えたのが2名用テーブルのリニューアルです。
実は2018年にお客様のご利用スタイルを調査したのですが、1組あたりの来客数平均は2名強だったんです。
ただ、2名様でのご来店が増えていたのに、店舗での従来の2名用テーブルはあまり広くなかった。これではお客様にゆったり過ごしていただけない。
かといって、昔ながらのドーンと広い4名席ばかりでも稼働率は下がってしまいます。
そこで全体の席数やテーブル数は減らしても2名様にも十分にくつろいでいただけるゆったりした空間をつくることにしました。
はじめは個室やボックスのようなお席を増やす改装も進めましたが、そればかりだとレストランならではの「食事の臨場感」が失われてしまうことがわかりました。
なので、開放感はありつつ居心地の良さを感じていただけるように、ランプなどインテリアなども誂えて、より居住感が出るような工夫をしました。
50周年の記念メニュー「洋食小皿」。オムライスや人気の黒×黒ハンバーグ、伝統のオニオングラタンスープなどを一度に味わえる。
撮影:小林優多郎
—— 時代やライフスタイルの変化はメニューにも反映されたりしますか。
はい。最近、お客様一人あたりの皿数に変化が見えてきました。
例えばお客様のオーダーはこれまで「メイン料理+スープ+ライスかパン」と3皿程度がスタンダードでしたが、この皿数がここ数年は増えてきています。
色々な料理を食べたいから、2〜3人でお越しになり、複数の料理をシェアする……というスタイルも増えています。
そうなると、おのずとテーブルに乗せる料理の数が増えている。これも2名用のテーブルを広くする背景になりました。
また、お一人でも「色々なものを食べたい」というニーズにお応えするメニューも開発しています。50周年記念メニューの「洋食小皿」はまさにその一つです。
こうした施策は2018年ぐらいから考えはじめ、2019年から本格的に進めることになりました。そして、2020年の頭にコロナ禍が始まった。
ただ、コロナ禍で大人数での食事機会がなくなり、ソーシャルディスタンスが求められるようになると、ゆったりとした2名席の需要がますます高まりました。
今後も居住感とお客様の利便性を第一にしつつ、稼働率を確保できる店舗づくりがさらに大事になってくると思います。
——「目的来店」の利便性を向上するために予約サービスの拡充も試験的に始めたそうですね。
きっかけは政府の「Go To Eat」施策でした。外部のグルメサイトを通じてお店を予約すると、お客様はそのサイトで利用できるポイントを獲得できます(※Go To Eatの実施要項は、2021年12月現在)。
ただ、ファミリーレストランである私どもは予約サイトを使ったことがありませんでした。そこでこの機会に試しに採用してみたところ、お客様の予約需要が高いことがわかりました。
お店としても、予約をいただけたほうがお迎えの準備をしやすい。効率的に働けることで、お迎えの準備にこれまで以上に費やすことができ、各店舗でサービスの特色を出すこともできます。
お客様をお迎えするカードなどを作った店舗もありましてご好評をいただきました。
この50年続いた中で培ってきた「地域に愛されるレストラン」として、ブランドは一緒でも各店舗の従業員がオーナーシップを持ったお店をつくり上げたいなと思っています。
安易な価格競争には参加しない。味・サービスを守るための「ロイヤルらしさ」
50周年記念メニュー「厚切りアンガスサーロインステーキ」。厚さ約3.5cmのボリューム。
撮影:小林優多郎
—— 時代が変わってもロイヤルホストの本質は「おいしい料理」と「楽しい食事の時間の提供」にあると。顧客に愛される料理をつくるために、どんな努力があるのでしょうか。
一口に「料理」といっても、新鮮な食材を新鮮なまま店舗で調理するものと、店では難しくてもセントラルキッチンであれば美味しく調理できるものがあります。
特にロイヤルホストでは「お店でのひと手間」を大切にしており、それがおいしい料理をご提供するポイントになっています。
そのためには店舗とセントラルキッチン、それぞれの強みを使い分けることが大切です。
例えば、ステーキのお肉であればアメリカから船便で塊肉の「原木」のまま仕入れますが、アメリカでパッキングされたものをそのまま店舗に運び、チルド庫で保管します。
店舗のキッチン担当の従業員がお肉を、原木からトリミングをし、一枚ずつ丁寧にカットできるように訓練しています。一枚ずつ丁寧に切り出したお肉を、グリルで焼いてご提供する、ここはロイヤルホストがプライドを持って行っているところです。
ステーキの肉はアメリカから船便で「原木」を仕入れ、店舗でシェフがトリミングから調理まで担当する。
撮影:小林優多郎
一方で(クリスマス限定商品の)トルテのように調理が難しいものはセントラルキッチンの技術で調理し、お客様にお出しできるようにしています。
ただ、その際にもソースを彩りよくかけるなど「最後のひと手間」の仕上げはお店で完成させるようにしています。
ロイヤルホストのクリスマススペシャルメニュー。
撮影:小林優多郎
—— この50年間には、同業他社との競争もありました。
ファミリーレストランが競うポイントとなりがちなのが「価格競争」ですよね。
1990年代にバブルが崩壊すると、リーズナブルでコストパフォーマンスを重視したチェーンも増え、ファミリーレストランにも価格競争の波が訪れました。
そうなると、やはりお客様からも「ロイヤルホストって高いよな」というお言葉をいただきました。
低価格攻勢に押されたあの時代は、働いている我々としても「ロイヤルホストはどこに行くんだろう……」と不安になったこともありました。
ただロイヤルホストは、そこで低価格路線には入りませんでした。
お客様に愛していただいている料理の味など「ロイヤルホストらしさ」を守るためにも、安易な値下げはしませんでした。ここがロイヤルホストにとっての、一番のターニングポイントだったと私は思っております。
現在も牛肉を中心に材料費が高騰しています。これは飲食業界の最大の課題の一つです。でもだからといって、お値段を大きく引き上げたり、料理の分量を減らしたりすることは現実的ではありません。
今のお値段に見合う「値打ち」を出し続けつつ、効率化を進めながら、値上げはできるだけ避ける工夫を続けています。
2022年1月、ロイヤルホストなど外食事業を運営するロイヤルフードサービスの新社長に就任する生田直己氏(現:取締役、ロイヤルホスト事業部長)
撮影:小林優多郎
——「ロイヤルホストらしさ」とは、どういったもので表現されますか。
抽象的でございますけども「ロイヤルスタンダード」とでも申しましょうか。
まず一番大事なのは「美味しい料理」をご提供することです。だからこそ、お客様にお越しいただけるわけですから。
そして、期待していただく以上のサービスがあり、本当に「居心地の良い空間がある」ということです。
居心地の良い空間をご提供するためにも、私たちは店舗のある「地域」というものを大切にしています。創業者も「地域に愛されるレストラン」と、ずっと言葉にしておりました。これはコロナ禍でも意識していたことです。
一方で、私どものアイデンティティは「レストラン」です。お客様がロイヤルホストという空間に何を求めていらっしゃるのか。
そこで私たちに何ができるのか、何がしたいのか。
「ロイヤルホストならではの価値」を考え、それをご提供できる「空間」をつくらなければなりません。
そのことは2020年からのコロナ禍で改めて痛感しました。
<後編へ続く>