コロナ禍が続いているにもかかわらず、世界のCO2排出量が過去最高を記録する理由とは?
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2022年、世界の二酸化炭素(CO2)排出量は過去最高を記録する――。
アメリカのエネルギー調査大手S&Pグローバルプラッツ(S&P Global Platts)が、こんな見通しを発表した。
背景にあるのは、世界経済の回復にともなう運輸燃料(石油製品)の需要と、産業用の石炭需要の増加だ。
新型コロナウイルスのデルタ株が猛威を奮った2021年、2020年を超える感染者が発生したにもかかわらず、感染拡大が一服して行動制限が徐々に解除されたこともあり、世界経済は回復基調に転じた。
その傾向が2022年に加速し、CO2の排出量を押し上げるというわけだ。
未来エネルギー分析責任者のアナリスト、ローマン・クリマチャク(Roman Kramarchuk)氏によれば、世界の国内総生産(GDP)は2021年の年末までに5.7%以上増加し、2021年の最終エネルギー消費における直接的なCO2排出量は、コロナ禍前の98.3%に相当する33.8ギガトンにまで“回復”するという。
これは、コロナ禍で移動が制限されていたにもかかわらず、ベースロード電源(季節や昼夜を問わず発電する電源)や産業用燃料として、石炭と天然ガスの需要が予想を上回ったためだ。
「天然ガスから石炭への転換も行われたため、工業生産や熱・電力需要における石炭由来のCO2排出量は、0.7ギガトン以上増える見込みです。これは、増加分の排出量の5割強に当たります」(クリマチャク氏)
【図1】化石燃料の燃焼にともなう年別CO2排出量と予測(●は増減のパーセンテージ)。
出所:S&P Global Platts
一方、2022年はと言うと、いまのところオミクロン株による世界経済への悪影響は限定的と見られることから、経済の回復基調は続き、「CO2排出量は過去最高を更新する」とエネルギー経由分析責任者のアナリスト、ダン・クライン(Dan Klein)氏は指摘する。
「2022年には世界のGDP成長率が4.2%に達し、エネルギー燃焼由来のCO2直接排出量は2.5%増加する見通しです。2022年のCO2排出量は過去最高の34.6ギガトンに到達。2019年のCOVID-19前の水準を0.5%上回ると予測しています」(クライン氏)
石炭の燃焼にともなうCO2排出量は0.1ギガトン増加する見込みだが、それ以上に排出増に“貢献”するのが運輸部門だ。排出増加分の過半、66%を運輸部門が占めるという。
S&Pグローバルプラッツは、道路、航空、海上における運輸活動が徐々にコロナ禍前の水準に戻ることで、石油製品の燃焼にともなうCO2排出量は2年連続で5%以上増加すると予測。
オミクロン株やインフレなどによって下振れする可能性はあるものの、石油需要は前年比460万バレル/日以上伸びており、航空、海上輸送、乗用車、商用道路輸送におけるCO2排出量は0.5ギガトン増加すると見込んでいる。
ただし、今後10年スパンで見ると、再生可能エネルギーの生産能力が増加することからCO2排出量は横ばいになり、2050年にはコロナ禍前の見通しに比べ、1.3ギガトン削減されると予想している(【図2】緑の折れ線グラフ)。
【図2】世界のCO2排出量の見通し(紫=コロナ禍前、緑=現状、黄=「2℃目標」を達成する場合)。
出所:S&P Global Platts
それでも、国連気候変動枠組条約(COP)のパリ協定で合意した「地球の気温上昇を産業革命前に比べて2℃未満に抑制する」といういわゆる「2℃目標」を達成するには、「2022年を境に減少に転じる必要がある」と警鐘を鳴らす。
「多くの国がネットゼロ(CO2排出量実質ゼロ)の達成目標を2050年に設定していることは、すなわち、中期的な経済成長がCO2排出量増加を促すという可能性を示しています。
アメリカの中間選挙など、2022年に予定されている(各国の)選挙でどのような環境政策の公約が打ち出されるか。大きなリスクをはらんでいると言えるでしょう」(クリマチャク氏)
(取材、文・湯田陽子)