Eclipse Ventures; Greylock; UP Partners; Toyota Ventures; Rachel Mendelson/Insider
2022年、電気自動車(EV)ビジネスの勢いが加速するとベンチャーキャピタリスト(VC)は見ている。しかも加速するのは自動車関連だけではない。
2021年は、EVとモビリティにとって重要な年だった。ゼネラルモーターズやフォードなどの自動車メーカーは数十億ドル(数千億円)の投資計画を示し、バイデン政権は電気輸送を拡大すると公約した。
そこでInsiderは、VCトップ8社に2022年の動向を訊いた。
2022年はEVに加えて、自動運転技術や電動自転車が伸びるほか、飛行輸送機も導入されるとVCは予想する。
EVのサプライチェーンがタイトに
トヨタ・ベンチャーズの初代マネージングディレクター、ジム・アドラー。
Toyota Ventures
自動車メーカーは、EV生産に必要な部品や原料を確保するべくサプライチェーンの再編に取り組んでいる。特に必要なのは、EVバッテリーに不可欠なレアメタルだ。既存の自動車メーカーが互いに競って供給を確保しようとしているのに加え、新興企業との競争もある。
なかでも今は、EVに不可欠なリチウム、ニッケル、コバルトに対する需要が供給を上回っており、自動車メーカーはバッテリー開発のためにこうした原料の確保に奔走している。
サンフランシスコを拠点とするトヨタ・ベンチャーズの初代マネージングディレクター、ジム・アドラー(Jim Adler)は、「(生産を)より弾力的に行うため、新たなサプライチェーンマネジメント(SCM)技術を積極的に取り入れ、サプライチェーンはより冗長になって多くの工場が世界各地につくられるだろう」と見ている。
予想される混乱
メンローパークのマネージングディレクター、アレクセイ・アンドリーブ。
AutoTech Ventures
EVの未来は明るい。しかし、VCは2022年に業界再編もあると予想している。カリフォルニア州を拠点とする自動車技術VCのメンローパーク(Menlo Park)でマネージングディレクターを務めるアレクセイ・アンドリーブ(Alexei Andreev)はこう述べる。
「車両を製造・販売するためには大規模な設備投資が必要ですから、これからまだ市場の混乱があるでしょう。EVのスタートアップや新興企業が、投資に必要な資金を十分に確保できるとも限りません」
実際、自動車生産設備を新たに構築する費用は莫大だ。一から設備をつくることの難しさを認識しつつある新興企業もある一方、既存自動車メーカーはEVシフトを進めつつある。
「需要がないわけでも、(新興企業が)自動車メーカーとして劣っているわけでもありません。要は、生産設備だけでなくサプライチェーンを構築するための投資資金を確保できるかどうかです」
SPACバブルが崩壊
トラックス・ベンチャーキャピタルの創業者兼ゼネラル・パートナー、レイリー・ブレナン。
White/Getty Images for TechCrunch
2021年には、SPAC(特別目的買収会社)と合併するスタートアップ企業が増加した。ルーシッド・モーターズ(Lucid Motors)、アライバル(Arrival)、チャージポイント(ChargePoint)などがその例だ。しかし、VCはこの流れが変わると予想する。
サンフランシスコを拠点とするトラックス・ベンチャーキャピタル(Trucks VC)の創業者兼ゼネラル・パートナー、レイリー・ブレナン(Reilly Brennan)は、「自動車業界における上場手続きには長い時間がかかることもあります。しかし今では、SPACを通じてそれがたった12カ月でできるようになりました」と言い、次のように続ける。
「SPACを通じて上場した企業の株価は低迷しています。市場は企業が業績を上げるまで待っていられないからです。むしろ、非上場化して買収する機会を探るのです。SPACを通じて上場した企業の株価が安ければ、市場では買い手有利となります。大手完成車メーカーやそのサプライヤーにしてみれば、魅力的な買収対象はたくさんあります」
一例を挙げれば、2021年2月にSPACを通じて上場した自動車保険会社メトロマイル(Metromile)は、上場から9カ月後に別の新興保険会社レモネード(Lemonade)に買収された。
充電インフラの発展
フォンティナリスのパートナー、クリス・ストールマン。
Fontinalis
2021年はEV充電インフラに多大な投資が行われた。しかし、この分野はまだまだ課題が多いとVCは見ている。デトロイトに拠点を置くフォンティナリス(Fontinalis)のパートナー、クリス・ストールマン(Chris Stallman)は、公共、家庭、集合住宅などなど多様なEV充電設備の拡大を見込んでいる。
「公共の充電インフラが十分でないことは誰の目にも明らかです。特に、今後数年におけるEV拡大を支えるうえでは不十分です。家庭における充電対策については、まだ改善も必要です。
自動車メーカーは、家庭用充電設備を持たない消費者や、必要な充電設備密度のない市場を含め、充電インフラや充電方法をどのように成り立たせるのかを真剣に検討しなければなりません」
自律制御技術の進化
VCグレイロックのパートナー、リード・ホフマン。
Greylock
2021年はEVが注目を集めたが、自律制御技術におけるイノベーションも進んだ。
カリフォルニア州メンローパークに拠点を置くVCグレイロック(Greylock)のパートナー、リード・ホフマン(Reid Hoffman)はInsiderの取材に対し、こう答える。
「2021年は、出荷停止、在庫不足、価格上昇など、サプライチェーン危機が大きく影響しました。その危機を軽減する手段として自動運転車が話題になり始めましたが、2022年にはその話題がさらに増えるでしょう」
加速する自律制御技術の進化は、自動車だけでなく、生産工場でも起きるとVCは予測する。トヨタ・ベンチャーズのアドラーズは次のように言う。
「未来の工場を考えると、自律制御技術によって、工場内でロボットが作業するだけでなく、製造工程がより安全かつ予測可能で標準化されたものとなり、欠陥やエラーが減り、効率化が進むでしょう」
空飛ぶ車は物流から
UPパートナーズのマネージングディレクター、サイラス・シガリ。
Up Partners
空飛ぶ車については、VCは短期的には慎重な姿勢だ。しかし、物流や小荷物の輸送に飛行体を利用することには強気な見方をしている。
カリフォルニア州サンタモニカに拠点を置くUPパートナーズ(UP Partners)のマネージングディレクター、サイラス・シガリ(Cyrus Sigari)は「空飛ぶ車の開発に取り組んでいる企業は多くありますが、少なくともあと10年は、特に大きな影響を与えるような成果は期待できません」と述べる。
一方、「航空輸送によって、人類に素晴らしい価値を提供するだけでなく、インフラ、規制、社会的受容の観点からも道を切り開いていている、心躍るような企業が数多くあります」
ウォルマートは、ジップライン(Zipline)などのドローン配送企業と協力し、陸路より効率よく空路で荷物を届ける実験を行っている。
「実は自動運転車より自動飛行の方が実現はシンプルなんです。空の環境の方が統制が利いているからというのが主な理由です」と、カリフォルニア州パロアルトに拠点を置くエクリプス・ベンチャーズ(Eclipse Ventures)のパートナー、グレッグ・レイチョウ(Greg Reichow)は言う。「人の輸送を行う前に、物流から始めることになるでしょう」
電動自転車市場の拡大は止まらない
マニヴ・モビリティのプリンシパル、メイア・ダーダシュティ。
Maniv Mobility
パンデミックによって、都市における車道、自転車レーン、公共交通、歩道の再考が必要となった。
イスラエルのテルアビブに拠点を置くマニヴ・モビリティ(Maniv Mobility)のプリンシパル、メイア・ダーダシュティ(Meir Dardashti)は次のように述べる。
「都市において小型電気車両のために道路を整備するという公約が実際に守られれば、電動自転車が最速の移動手段となる可能性は高いです。電動自転車市場の拡大は一定レベルまで止まることはないでしょう。2022年に焦点となるのは、その市場が実際にどこまで伸びるか、です」
電動自転車の導入は、特にヨーロッパにおいて加速している。ズーモ(Zoomo)など各社は、混み合った都市部におけるギグワーカー向けサブスクリプション型サービスに投資するなど、さまざまなビジネスモデルを試行している。
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)