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独学の達人・読書猿が語る“リスキリング”の注意点。「スキルはどんどん陳腐化する」

読書猿さんのイラストが表示されたパソコン。

顔や年齢などを公表していない読書猿さん。今回のインタビューもオンラインで実施した(画面のイラスト:塩川いづみ作)。

撮影:横山耕太郎

2022年こそは、学びたい——。そう思っている人は多いはず。

特に2021年は、リスキリング(学び直し)への関心が急激に高まった1年でもありました

ただ、その必要性は感じていても、実際に取り組むのはなかなか難しいのが現実です。

かく言う筆者もその一人。「勉強しなくては……」と思っていても、「そもそも何を勉強しようか」と考え始め、気が付けば2021年も終わってしまいました。

しかし「2022年こそは」という気持ちに燃えています。

リスキリングが求められている社会をどう生き抜いていけばいいのか?そして、何をどう学べばいいのか?

2020年9月の発売以来、24万部(紙と電子版の合計)を売り上げた『独学大全』の筆者で、独学の達人の読書猿さんに聞きました。

読書猿:2008年から始めたブログ「読書猿classic」で注目され、これまでに『アイデア大全』『問題解決大全』(共にフォレスト出版)を出版した。昼間は「いち組織人」として働いているため、年齢などは一切公開していない。近著には、千葉雅也さんらとの共著『ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論』 (星海社)がある。

「コストカットのための独学」でいいのか?

本屋の店内

読書猿さんは「明治以降の歴史で初めて、毎年のように独学本が増え続ける時代を迎えている」と話す(写真はイメージです)。

shutterstock

——2021年はリスキリング(学び直し)が注目されました。先日もヤフーが全社員8000人を対象に、業務でAIを使えるように社内教育を始めたことが話題になりました。学びを取り巻く環境の変化をどう感じていますか?

新しいスキルを身に着けることが注目される一方で、コストをかけずに学ぶことがもてはやされていると感じます。

いま独学書の歴史を調べているのですが、実は2000年以降、独学書の数は増え続けているんです。明治まで遡(さかのぼ)っても、こんな時代はなかった。

では、どんな内容の本が増えているかというと、「塾に行かなくても東大に入れる」とか、「学校に行かなくてもYouTubeで学べる」とか、要するにコストカットのための独学なんです。

不況が続いたということも、学習にコストをかけたくないという気持ちの背景にあるのかもしれません。

時間的にも金銭的にもコストをかけない、いわば「ファストラーニング」が注目されていますが、僕は「スローラーニング」こそが大事だと言いたいですね。

すぐに学べるファストラーニングは参入障壁が低く、スキルとしてもすぐに陳腐化してしまうリスクが大きいと思います。

——ただ時間をかけて学ぶとなると、腰が重くなってしまいます。読書猿さんは、2020年12月のBusiness Insider Japanのインタビューで、「いま学ぶべきは数学」と言っていました。インタビュー後、私も数学を学んでみようと思ったのですが、なかなか手がでませんでした。

もちろんスローラーニングでは、時間をかけて勉強するので、その分リスクはあります。選択を間違えると、長い時間投資が無駄になりますから。でも、陳腐化しない知識を学んだ方がいいのは間違いない。

その意味で昨年は数学を学ぶことをおすすめしました。

そもそもすぐ身に付くスキルはスキルとは言えません。マニュアルを見れば、トレーニングしなくてもすむ仕組みであれば、誰でもできます。

最終的には大きなリターンを得るためには、聖書の表現を借りれば「狭き門から入れ。滅びに至る門は大きく、その道は広い」。困難な道を進んだ方が、競合も少なく得るものは大きいはずです。

「勉強」は時間がかかるもの

道を歩くサラリーマン

社会人が仕事をしながら学び続けるのは簡単ではない(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

——とはいえ、「すぐに身に付く、役立つプログラミング」などと言われると、時代に合致したスキルをすぐに身につけたいとも思ってしまいます。

ファストラーニングが注目されるのは、個人の問題だけでなく、社会の在り方にも問題があると思っています。

学校現場では2000年以降、ゆとり教育の延長として、旧来の座学重視ではなく、コミュニケーション重視の新しい学力観が重視されるようになりました。ただそこで起きたのは、学力観の、しいては知識観のデバイド(格差)です。

学力上位層は、新しい学力観を「建前」として捉え、旧来型の詰め込み教育も続けました。英語教育なんかが典型で、コミュニケーション重視といっても、上位校や塾・予備校では文法も日本語訳も徹底してやってきた。

旧来の学力観を否定することが、コストをかけずにすぐ学べるというファストラーニングが注目される土壌になっていると思います。

でも考えてみてほしいのは、例えばYouTubeでまともな内容を動画配信している人は、しっかり教科書や専門書を読み込んだ上で、わかりやすく語り直す学力がある人です。動画を見るだけでは、動画を配信する側にはなれないのが現実だと思います。

だからこそ、安易なファストラーニングに流されず、「勉強には長い時間がかかる」という当たり前のところから始めないと。

学ぶ方法こそ学ぶべき

飲食店の休業を知らせる張り紙

新型コロナによるDX推進が、リスキリングへの関心が高まった背景にはある。

撮影:今村拓馬

——リスキリングがここまで注目される背景には、時代に合ったスキルがないと「この先、どうなってしまうのだろう…」という強い不安があるように思います。いたずらに不安にならないためには、リスキリングをどう捉えればいいでしょうか?

リスキリングと一言で言っても、「身に着けるべきスキルはなにか」を考える必要があると思います。

例えば「会計ソフトが使える」というのも一種のスキルですが、そのスキルは、会計の仕組みを理解していることとは別の水準にある。会計スキルを例にすると、そこには3つのレベルがあると思います。

  1. 会計ソフトを使える
  2. 簿記検定などの資格を取る
  3. 会計の仕組みや歴史を理解する

すぐに役立つのはもちろん1です。でも会計ソフトが刷新されれば、見向きもされないスキルになってしまうでしょう。であれば、時間をかけて3を目指したほうが、結果的に応用がきくし、長期に役立つと思います。

スキルや知識は、どんどん陳腐化していきます。現代を生きる私たちは、新しいことを学ばざるを得ない状況に際限なく直面しています。

簡単な個々のスキルを身に着けるよりも、その根っこにあるものを学ぶ。さらに言えば、どうすればうまく学べるのかその方法を見つける方が優先順位は高いはずです。

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