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ワールドツアー中止でも勢い止まず。BTSが仕掛けた「3つのメディア戦略」

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韓国アーティスト初の、全米ビルボードシングルチャート1位という快挙を宣言する中吊り。2020年9月撮影。

撮影:西山里緒

世界ナンバー1の人気ボーイズグループ、BTS (防弾少年団)。2021年もアメリカ、韓国で数多くの音楽賞を受賞し、日本でもオリコン年間ランキングでアーティストセールス1位(総売上金額184億円)を獲得した。

米ロサンゼルスで2年ぶりに開いたコンサートでは11月末から12月初めの4日間で3300万ドル(約37.6億円)相当のチケットを売り上げたという(米ビルボード誌調べ)。いま7人のメンバーは地元韓国でデビュー後初めてとなる、年末年始休暇を取っている。

そんな中、所属事務所は12月24日と25日に、メンバーのうち3人(RM、ジン、シュガ)が相次いで新型コロナウイルス陽性となったことを公表。世界中のメディアが報道した。 ニュースが一巡したあとの27日、シュガはファン向けプラットフォームで「僕は元気です、あまり心配しないで」と一言つぶやいた。マス向けのニュースには載らないが、ファンには届く絶妙のタイミングだ。

コロナ下の制約に国内外の音楽業界が苦しむなかで、BTSが所属する総合エンタメ企業HYBEは、コロナ前の2019年をしのぐ成長を続けている。 BTSはなぜ、コロナで立ち止まらなかったのか? 彼らの快進撃の裏にある、ファンの熱狂を引き出すメディア戦略を3つのポイントで解説してみたい。

人気TV番組よりも「ファンの気持ち」

「ジェームズ! アーミーと揉めてたって聞いたよ。大丈夫?」

11月23日、米CBSの人気深夜トーク番組に出演したBTSのリーダー、RM (本名キム・ナムジュン)は開口一番、人気ホストのジェームズ・コーデンに流暢な英語で語りかけた。

2年ぶりにスタジオ出演

「アーミー」とはBTSファンの総称で、アメリカのエンタメ界ではすっかり市民権を得た言葉だ。そのアーミーとジェームズ・コーデンがなぜ「揉めた」のか。 コーデンは9月20日の番組で、BTSが国連総会のSDGs関連イベントに登壇し演説したニュースでBTSファンを「15歳の女の子たち」にたとえたジョークを飛ばし、アーミーの反感を買ってツイッターでトレンド入り。番組側は炎上に驚いたのか、該当する動画を公式YouTubeからそっと削除し、沈黙を続けていた。

「たった2カ月前にそんなことがあったのに、どうしてBTSはコーデンの番組に出演するの?」 多くのアーミーはそんな気持ちで番組を見守っていただろう。 RMの最初の一言に、コーデンはしどろもどろになって2分近く言い訳を続けた。コーデンが「アーミーの気持ちを傷つけるつもりはなかった」とまで話したところでRMはすかさず「わかったジェームズ、謝罪してくれてありがとう」と発言し、一気にその場を収めた。

人気テレビ司会者を、自分たちのファンに謝罪させるアイドルが、未だかつていただろうか。

このRMの言動は、BTSがなぜ8年にわたり支持され、ライブができないコロナの2年間で新たなアーミーを増やしていけたのか、その理由を象徴している。 「何よりもファンの気持ちに寄り添う」というBTSの姿勢は、ポーズでなく本気なのだ。実際、BTSのメデイア戦略は、アーミーたちの熱狂的な声援なくしては考えられないものになっている。

1. コロナ下でファンを増やした無料コンテンツの「先行投資」

デビューから8年、ファンを増やし続けるBTSのパワーの源泉は、徹底したアーミーとのコミュニケーションだ。

2020年4月から9月にかけ、BTSは世界20都市を周る大規模なワールドツアーを計画し、メンバーはリハーサルを重ねていた。ところがコロナで全てがキャンセル・延期になった(※2021年8月に全公演中止を発表)。全米ツアーはすでにチケットを発売済みで、BTSを擁する総合エンタメ企業HYBE(当時はBig Hit Entertainment)にとって大きな打撃だったはずだ。

あらゆる音楽関係者がコロナのなかの「正解」を模索するなかで、BTSは立ち止まらず、ツアーを待ち望むファンに対して、無料コンテンツを大量供給する道を選んだ。

豪華な専用セットを組んだパフォーマンスの数々には目を見張る。国立美術館、朝鮮王朝宮殿の「景福宮」、ソウル空港、CGを駆使した巨大スタジオ……同じ曲でも毎回必ずセットを変え、服を変え、メンバーは振り付けにも工夫を加える。

大韓航空機をバックにDynamite を披露するBTS(2020年11月)。

無料パフォーマンスの大量供給の先駆けとなったのが、2020年8月にリリースした初の英語曲「Dynamite」だ。底抜けに明るく、コロナで沈みがちな気分を晴らす陽気なディスコナンバーで、Dynamite後にBTSファンになったアーミーは筆者の周囲にも大勢いる。(かくいう私もDynamite後の新参アーミーです)

コロナ下のBTSは米韓日のテレビ・ラジオ番組に積極的に出演し、地元韓国の特設セットで撮影した演奏を披露してきた。放送直後、または少し間を空けてYouTubeで配信するのが王道パターンだ。改めて数えると驚くが、週に1本のペースで新たな演奏を披露している。

セット費用は放送局の制作費と按分したと想像するが、ときに映画並みのセットを組み、日本の通常の歌番組とは比較にならない規模の費用がかかっているように見えるバージョンもある。他にダンスプラクティス(ダンス練習動画)やクリスマス版アレンジなども加えると、とんでもない数のDynamiteパフォーマンスが無料で見られる。

2020年8月から2021年3月までに公開された、今も無料で見られるDynamiteパフォーマンス動画(筆者調べ)

2020年8月MTV Video Music Awards (MTV)
9月The Tonight Show Starring Jimmy Fallon(米NBC)
TODAY citi Music Series(米NBC)
Tiny Desk Concert (米NPRラジオ)
iHeart Radio Music Festival(米ラジオ)
10月The Tonight Show Starring Jimmy Fallon(米NBC)
America’s Got Talent (米NBC)
Radio.com LIVE(米ラジオ)
Billboard Music Awards(米NBC)
11月Good Morning America (米ABC)
The Late Late Show with James Corden(米CBS)
ベストアーティスト(日本テレビ)
American Music Awards (米ABC)
12月CDTV (TBSテレビ)
FNS音楽祭 (フジテレビ)
KBS Song Festival(韓国KBS)
MMA (韓国MBC)
MAMA (韓国Mnet)
2021年2月MTV Unplugged(MTV)
3月グラミー賞 (米CBS)

彼らが無料で提供するコンテンツはまだある。

BTSがゲームやスポーツ、料理にチャレンジする配信専用バラエティ番組「走れ!BTS(Run! BTS)」は155話にのぼり、HYBE傘下のWeverseおよびVLiveというファンコミュニケーションプラットフォームで無料閲覧できる。2020年からの2年間で64話を配信、単純平均して11日に1番組のハイペースだ。 さらにメンバーは気が向くとVLive上でライブ配信し、ときにスッピンのまま、ファンがリアルタイムで書き込んだコメントに直接答える。 こうなると、もはや友達よりも頻繁にBTSに会っているような感覚だ。

Dynamite後の新参アーミーに話を聞くと、共通するのは「外出できなくなり、やることがなくてYouTubeを見て、気がついたら“沼”にはまっていた」。 かくいう筆者も「沼」にハマりたての最初の2カ月ほどは毎晩2-3時間、BTSの関連動画を見ていた。それでも尽きないほどの無料コンテンツが、この2年というライブなし期間のファンとのコミュニケーションの大きな支えになっていた。

2. SNS時代の著作権の考え方が、ファン動画の渦をつくった

BTSの特徴として、膨大な量のコンテンツを新参者にナビゲートしてくれる、先輩アーミーたちの「まとめ」動画の存在がある。 例えばこちらは大量のDynamiteの素材をまとめて比較したファン動画。

【BTS】振り付け全部違う!?Dynamiteの魅力を7分にまとめてみた

そもそもこうした動画がたくさんアップされている理由は、K-POPの事務所が(ビジネス慣習的に)著作権に寛容であることで知られているからだ。

HYBEはこれまで、ファンによるBTSコンテンツの二次創作を幅広く容認している。有料オンラインコンサートなど明示的にNGを宣言したコンテンツは厳しく取り締まるが、それ以外の無料コンテンツ創作はほぼ放任だ。

膨大な量の過去パフォーマンスやバラエティ番組の名場面は、世界中のファンが繰り返しピックアップし、「アーミーとBTSとの共通の楽しい記憶」として刻まれる。新参者でも先輩のまとめを見れば、BTSとの楽しい8年分の記憶を追体験できるのだ。

例えば1995年生まれのメンバーのVとジミンは高校の同級生でずっと親友で、デビュー当時、餃子を練習前に食べるか練習後に食べるかで大げんかしたことがある。昔のインタビューで2人が明かしたこのエピソードはあちこちの先輩アーミーの動画で取り上げられ、多くのアーミーの共通の記憶になっている。知っていれば、パフォーマンスでの2人の絡みが2倍楽しめる。

ファンの二次創作動画はクオリティが高いと数百万再生されることもある。クリエイティブなファンたちが自ら最高のマーケティング素材を創作し、それを今のファンと未来のファンが消費する。マーケティング費用をかけなくてもファンが最高のマーケターとなってBTSをサポートしていく。ファンにオープンに素材を使わせる姿勢は、SNS時代の著作権戦略とも言えそうだ。

日本のアーミーがまとめたBTS苦難の歴史(デビュー時の苦労や、互いに支え合うメンバーたちの様子まとめ)。

名場面集の編集には手間暇がかかるが、もっと単純な拡散方法がある。「リアクション動画」だ。

リアクション動画とはその名の通り、コンテンツを見ながらリアクションする様子を撮って、YouTubeなどで公開するものだ。 Dynamite以前はファンが新たなパフォーマンスを見ながらキャーキャー言う動画が多数派だったが、Dynamite以降は音楽プロデューサー、ボーカルコーチ、ダンサーといった「プロ」たちが、新たなパフォーマンス動画が投じられるたびに彼らのダンスや歌のレベルの高さを解説している。

BTSの新規動画がない期間になると、過去のライブ動画を見ながら過去のBTSをプロっぽく解説して称賛する。リアクション動画も面白いものはすぐに数十万再生される。ファンはBTSが褒められて嬉しい、リアクションするプロは自分を宣伝できて嬉しいというサイクルが回っている。これもユーザーが勝手に最高のマーケティング素材を制作していると言えるだろう。

音楽プロデューサーのリアクション動画。

ボーカルコーチのリアクション動画。

二次創作コンテンツはYouTubeだけでなくTwitterやInstagram、TikTokそれぞれのプラットフォームに適したスタイルで大量に出回っている。

BTSの場合、アーティストがプラットフォームを利用するというより、「アーティスト自身がプラットフォーム」と化して、その上で多くのプレーヤーが活動しているように見える。

その規模の大きさをみると、UGC(User Generated Content)という次元を超えて、ユーザー発の大規模マーケティング、UGM(User Generated Marketing)と呼ぶべきではないか、とすら思える。

3. サブキャラを活用したコラボ商品戦略〜「プラットフォーム」としてのBTS

これだけ大量に無料コンテンツを投下して、コンサートもほとんどできなかったBTSは、コロナ下でどのように稼いでいたのだろうか。

コロナ前の2019年とコロナ中の2020年のBig Hit Entertainment(現HYBE)の業績を比較すると、コンサート収入は98%減だったが、アルバムと関連商品および有料配信コンテンツの売り上げが大きく伸びて、36%の増収、19%の増益を達成した。2021年に入ってもアルバムとコンテンツ販売が伸び続け、3四半期いずれも増収増益を記録している。

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筆者も今年発売のシングル「Butter」のCDを二枚も買ってしまったが、CDの箱のデザインが2種類、ポスターやメンバーの写真やメッセージ付きカードもかなりの分量入っていて、満足度は高かった(音楽は配信で聴くので、CDは結局一度も使っていない) 。

このような「付属品の魅力でCDを売る」戦略は、日本のアイドルたちの方が歴史が深いかもしれない。

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2021年7月発売の「Butter」シングルCD。パッケージは2種類、中には撮り下ろしミニ写真集に加え、メンバー1人分だけの写真カードとメッセージカードも入っている。「推し」のカードが入っていると喜びもひとしお。

筆者提供

ただ、BTSにとってもう一つの収益の柱である、マーチャンダイジング・ライセンシングでの彼らの戦略は、頭ひとつ抜けている。

彼ら自身がCMキャラクターをつとめるのは、原則、韓国の大手企業だ。現代自動車、サムスン、FILA、ロッテ、COWAYはグローバル展開に彼らの人気を活用している (インドネシアの大手通販tokopediaと、ラグジュアリーブランドLouis Vuittonのアンバサダーもしているが、やはり全体としては韓国企業が中心) 。

これらビッグブランド以外でも、BTSはコラボ商品を大量に世に送り出している。ただCMキャラクターとして使うのは彼ら自身ではなく、彼らの「サブキャラクター」だ。

ファンの間ではよく知られた話だが、サブキャラには2種類ある。BTS自身が創作に関わった「BT21」と、BTSメンバーを3頭身にしたCGキャラクターの「Tiny TAN」だ。

BT21はLINE傘下のLINE FriendsとBTSが共同で開発したキャラクターで、メンバー自身による落書きに近い下絵をベースに作り上げられた。創作過程は今もYouTubeで見ることができる。

食いしん坊のアルパカ「RJ」(食通のジンが創作)、マイペースな宇宙人の「タタ」 (マイペース美形のVが創作)、甘えん坊の「チミー」(セクシーと甘えん坊のギャップで知られるジミンが創作)など、メンバーのキャラクターを反映している。アーミーたちはそれぞれの「推し」のキャラクターを見ると、つい買いたくなる。

BT21ができるまで

BT21は化粧品やタオル、安価なお菓子といった雑貨が日々大量に出回り、日本でもコンビニ各系列や衣料品チェーン店などで毎週のように新商品が発売されている。直近では大手寿司チェーンのくら寿司までBT21コラボメニューを出した

韓国では化粧品とのコラボが盛んで、「cruelty free(残酷でない= 動物実験を行なっていない)」「vegan(ビーガン=完全菜食)」などZ世代が大事にする価値観を打ち出した商品も多い。

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「cruelty free(=動物実験を行なっていない)」をうたったウェットティッシュ(左)。そのほかプチプラ化粧品など多数のラインアップがある。

一方のTiny TANは凝ったCGでディズニー並みのハイクオリティのミュージックビデオを制作し、YouTube上で無料配信。小さくなったBTSメンバーたちが「夢を持って頑張る女性をそっと励まし応援する」という設定でアーミーたちに浸透した(筆者はTiny TANのビデオを見て涙を流した大人の女性アーミーを複数知っている) 。

日本では2021年8月、日本コカコーラの「紅茶花伝」が大々的な販促キャンペーンに採用したが、韓国では絆創膏などにも使われているようだ。

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筆者提供

BT21にしてもTiny TANにしても、それぞれのメンバーのサブキャラは、前述の「アーミーとBTSの共通の記憶」に基づいてしっかり設計されている。BTSメンバーを軸にした世界観を壊さない一貫性を保つには、優秀なマーケターたちの手間とコストがかかっているはずだ。サブキャラに賭けるHYBEの本気度を感じる。 商品展開のプラットフォームがまさにアーティストであるBTSメンバーそのものであり、BTSとHYBEに深い信頼関係がなければ実現し得ない戦略だ。

アーティストと事務所で株式を持つ、という新しい形

HYBEは2020年10月に韓国証券取引所に上場した(上場時はBig Hit Entertainment)。このとき、創業者でありBTSプロデューサーでもあるパン・シヒョク氏は、BTSメンバー全員に株式の一部を譲渡した。パン・シヒョク氏はファンとのコミュニケーション方法も含めてかなりの裁量をメンバーに与えてきたが、それが会社の成功に大きく寄与したことは間違いない。メンバーの貢献を高く評価し、信頼関係があるからこその株式譲渡だろう。BTSは、自分たちがプラットフォームとなったさまざまな事業が成功すれば、資産が増える。会社もBTSメンバーも、BTSブランドを大切にするインセンティブが強く働く、新しい形といえそうだ。

HYBEは11月4日、3Q決算発表と同時に、BTSメンバーをキャラクターとして使ったオリジナルウェブ小説・ウェブ漫画シリーズ「7 FATES: CHAKHO」のリリース(2022年1月15日)と、BTSメンバーが登場するゲームのローンチ(2022年前半)を発表。さらにNFTを活用した新たな形のフォトカード(メンバー写真)の計画を明らかにするなど、アーティストをプラットフォームにした新事業を次々に打ち出している。

BTSとアーミーの強い絆をベースにしたHYBEの新戦略だが、オリジナルストーリーやゲームの内容がファンの期待を裏切れば失敗に終わりかねない。ファンの気持ちに寄り添い続けながら、どこまで業容を拡大できるのか。メディア人としても、1ファンとしても、BTSの次のステップから目が離せない。

本稿の執筆中に、ロサンゼルスのツアー後に年末年始の休暇に入っていたメンバー7人のうち3人が相次いでPCR検査で陽性になったとのニュースが飛び込んできた。韓国帰国後の隔離を終え、しばらくしてから陽性が判明したメンバーもいる。国連総会での演説で若い世代にワクチン接種を呼びかけていた彼らの感染は、コロナの収束が遠いことをあらためて自覚させられるニュースだった。

彼らの1日も早い回復を祈りたい。

(文・山本名美)


山本名美:テレビ東京で長く経済報道畑を歩み、WBSトレたまなどを担当。2016年よりメディア戦略や技術戦略、データ・マーケティング戦略に携わり、放送局の変革を裏方として支える。 現在は総合マーケティング局顧客データ統括部長。ニューヨーク支局、日本経済新聞社への出向(日経電子版立ち上げ)も経験。音楽好きで最近BTS沼にハマった。経営学修士(MBA)。記事は個人の見解で、所属組織のものではありません。

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