2021年1月、コロナ禍のさなか神田明神(東京都千代田区)の新春参拝に集まった企業関係者ら。2022年はどんな年に……。
REUTERS/Issei Kato
2021年の金融市場は前年に続いて新型コロナウイルスの感染拡大・縮小にふり回された。
2020年1月にパンデミックという言葉が意識された当時、その後2年にもわたってこの騒動が続くと考えた人たちは多くなかったように思う。
それでも、2022年こそは世界が「正常化」に向けてシフトしていくことを前提に、この先のシナリオを検討すべきと筆者は考えている。
ここで言う正常化にはふたつの意味がある。ひとつは「社会活動」の正常化。もうひとつは「金融政策」の正常化。より重要なのは言うまでもなく前者だ。
2020年11月、米ファイザー・独ビオンテック連合および米モデルナが開発を進めてきたワクチンの有効性が確認され、そこから1年あまりが経過したいま、少なくとも先進国で7~8割の高い接種率が実現している。
デルタ株やオミクロン株などいわゆる変異株の出現により、いまだに終息宣言には至っていないものの、重症や死亡といった深刻な被害は劇的に減った。2021年12月にはアメリカなどで経口治療薬の緊急使用も許可されている。
パンデミックを一種の「戦争」だとすれば、ワクチンと経口治療薬はさしずめ強力な「武器」「防具」であり、その獲得によって社会活動の正常化は確実に近づいていると考えられる。
足もとでは欧米ともにオミクロン株の感染拡大が深刻化しているが、入院者数や死亡者数はピーク時に比べて(少なくとも現時点では)かなり低く抑えられている。
2021年10月半ばから感染拡大が進んだドイツで、ピークアウトまでに2カ月弱を要したことを考えると、アメリカやイギリスでも2022年第1四半期(1~3月)の後半には、行動制限解除に伴う社会活動の正常化に再び向かうのではないか。
ここであらためて確認しておきたいのは、欧米諸国においてワクチンや経口治療薬はあくまで「手段」として存在し、社会活動の正常化という「目的」のために使われているということだ。
2021年にみられた欧米諸国の高い成長率は、手段によって目的が達成されたために実現したもの。そのような発想を持つ為政者のもとで、2022年も堅調な成長が予想される。
2022年、各国の「格差が明確化」する
そして、そうした「社会活動」の正常化の行き着く先が「金融政策」の正常化だ。
パンデミック以前の世界経済は、アメリカが循環的な減速局面にあったものの、もともと大型の金融緩和を必要とするような状況にはなかった。
したがって、社会活動の正常化が実現すれば、そのために緊急対策として必要とされた財政・金融政策は手じまいされることになる。
金融政策の正常化は2021年半ば時点ですでに有力なテーマとして浮上していたが、2021年が「議論の年」だったとすれば、2022年は「実行の年」と位置づけられるだろう。
イギリスが先陣を切って2021年12月に利上げを実施。主要7カ国(G7)のうちアメリカやカナダも2022年中に追随するとみられる。
アメリカについては、量的緩和の段階的縮小(テーパリング)を2022年3月に完了させると同時に、バランスシート縮小(いわゆる量的引き締め)に着手するとの観測が浮上している(引き締めにまで踏み込むのは過剰と筆者は考えるが)。
なお、ユーロ圏と日本は正常化に出遅れた感があるものの、ユーロ圏については、2022年3月末にパンデミック緊急購入プログラムを終了することを発表している。インフレ動向次第では前倒しの可能性もある。
金融政策の正常化は「日本以外の」先進国の中央銀行にとって、2022年の既定路線と言っていいように思う。
上記のような正常化に向けた各国のタイムラインの「差」を理解するため、下の【図表1】をみておきたい。
【図表1】2021年の主要7カ国(G7)の名目実効相場と実質GDP成長率。数値は2021年12月20日時点。
出所:Macrobond資料より筆者作成
2021年は、「経済活動」の正常化が経済・物価情勢を押し上げ、結果として「金融政策」の正常化が進んだ国(の通貨)ほど高い評価を受けた。
高い評価を受けた国の多くは、春先の時点で高いワクチン接種率を実現し、早くから行動制限解除に踏み切っていた。
そして、「金融政策」の正常化に関する議論を早々と終えた国々は、2022年にその金融政策を実行に移す。その結果、2021年に生まれた相場の動きは確固たるものになるだろう。
アメリカが実際に利上げに踏み切れば、アメリカへの資本流出に苦しみ、混乱に陥る新興国があらわれる可能性もある。これは過去にも世界が経験したことで、危機から正常化に向かう際に伴う「成長痛」のようなものとして割り切るしかないように思う。
日本円の立ち位置はどうなるか
こうした世界の動きのなか、日本円はどのような立ち位置になるだろうか。
結論から言えば、社会活動の正常化、金融政策の正常化、いずれも実現できない唯一の先進国として、2022年も劣勢に立たされる……というのが筆者の基本認識だ。
岸田首相は12月6日の所信表明演説で、厳格なコロナ対策を経済正常化に優先させる姿勢を示し、その後も「(厳格なコロナ対策を)やり過ぎるほうがマシ」と念押ししている。
そうした基本姿勢のもとで打ち出される今後の防疫政策は、ワクチンや経口治療薬が登場する前と同じか、それ以上に厳格な内容になると考えるのが自然だ。
最近も、大学入学共通テストでのコロナ感染防止策として、オミクロン株感染者の濃厚接触者に本試験を受験させない方針を打ち出し、世論から大きな批判を浴びて(無症状者の別室受験を認めるなど)軌道修正を迫られる一幕があった。
ストレートに言えば、厳格なコロナ対策が内閣支持率の上昇に直結するとの思惑が政府・与党にある限り、同じような展開は今後もくり返されるのではないか。
先の比喩をもう一度使うなら、パンデミックという「戦争」の過程でせっかく獲得した「武器」「防具」を倉庫にしまったまま、戦場を目的もなく駆けまわっているのが現在の日本と言える。
「我が国はG7のなかで最高のワクチン接種率」「行動自粛への国民の協力についても世界が称賛している状況」(岸田首相)といった現状評価に満足し、一歩先、その先を見据えた議論が乏しい。
ワクチン接種など「手段」を確保することが「目的」になってしまった結果、成長率や物価、為替、株価……あらゆる面で日本が劣後する結末を招いたのが2021年だった。
このままでは、2022年も同じことがくり返されそうだ。
円の「実力」はどこまで低下するのか
もちろん、強毒性の新たな変異株の登場や、軍事衝突を伴う地政学リスクの高まりなどで、世界が「ふたつの正常化」を目指している場合ではなくなる可能性もある。
そうなれば、相場のテーマは「需給」に移り(=外部の材料に左右されず、需要と供給だけで価格が決まる相場になり)、世界第3位の経常黒字大国かつ世界最大の対外純資産国である日本円が突如として評価される展開もゼロではない。
しかし、デルタ株より感染力が強いと言われるオミクロン株の拡大をもってしても、相場のテーマは需給に移っていない。
それは、年初来の主要通貨の対ドル変化率を比べたときに、経常黒字国のパフォーマンスが総じて見劣りしている(=経常黒字国の通貨に需要が集まっていない)ことからも明らかだ【図表2】。
【図表2】主要通貨のスポットリターン(対ドル、2020年12月31日から2021年12月24日)。経常収支は2020年の数値。台湾の黒字は14%以上で、図表外にマーク。
出所:Bloomberg、IMF資料より筆者作成
筆者の見立て通りに2021年の相場の流れが続くとすれば、ドル/円の相場水準だけでなく、実質実効為替相場(=貿易量や物価水準を踏まえて算出された「通貨の実力」を示す総合指標)でみたときに円がどれくらいまで下落するのか(史上最安値更新はあるのか)も注目される。
そうした点も踏まえつつ、2022年はどんな年になるかを筆者なりにひと言でまとめると、「日本という国が円安とどう向き合っていくべきか」という構造的な問題について、議論を深める年になると考える。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
(文・唐鎌大輔)
唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。