「確率10%の当たりガチャ。10回引いて当たる確率は?」いまビジネスパーソンに数学的思考が求められる理由

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ビジネスの戦略を考えることは、数学の問題を解くことに似ているのかもしれない。

awon Shah/Shutterstock.com

「10%の確率でSSRの『当たり』を引けるスマホガチャがあったとします。では、10回ガチャを回したときにSSRを引ける確率は?」

当たりを引ける確率が10%なのだから、10回に1回は当たるはず……と考える人も多いかもしれませんが、実際に10回引いて当たりを手にする確率は約65%です

つまり、3割以上の人は10回ガチャを引いても、1度も当たりを引くことができません。

世の中には、こういった数字の「トリック」が至る所に隠されています。

また、数字を根拠に次の戦略を考えることは、ビジネスを動かす上での基礎能力です。

どうにか数字に強くなりたい。数学的な「センス」を身につけたい。そう思っているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。

実際ここ数年、書店には「文系」や「教養としての」などの枕詞と共に、数学を学び直したい社会人向けの数学本が並んでいる光景をよく見かけるようになりました。

数学本

書店を見渡すと、たくさんの数学本が並んでいる。

撮影:三ツ村崇志

一方で、「数字を見ると頭が痛くなる」など、数学への苦手意識をどうしても払拭できずに悩んでいる人も多いのではないでしょうか。

どうすれば数字に強くなれるのか。数字に強くなることのメリットとは何か?累計7万部を突破した『文系でもハマる』数学シリーズを著書に持つ「数学のお兄さん」ことmath channelの横山明日希代表(34)に、数学に触れることの面白さを聞きました。

(冒頭の答え合わせ)

ガチャを1度引いて当たる確率が10%ということは、外れる確率は90%。10回ガチャを回したときに当たりを引く確率は、言い換えると『10回中1回以上当たる確率』です。これは『10回全て外れる確率』を計算して、全体からその確率を差し引くことで求めることができます。

10回全て外れる確率の計算は、

0.9×0.9×0.9×0.9×0.9×0.9×0.9×0.9×0.9×0.9 ≒ 0.35(%に直すと、約35%)

です。

そのため、10回中1回以上当たりを引く確率は、

100%(全体)−35%(10回全て外れる確率)= 約65%(1回以上当たりを引く確率)

となります。

数学本、なぜ売れる?

横山明日希さん

math channelの横山明日希さん。

提供:math channel

横山さんは、2012年に早稲田大学大学院数学応用数理専攻を修了すると、早稲田アカデミー、サイバーエージェント、ビズリーチと社会人経験を積みながら、並行して「数学のお兄さん」として活動。その後、2018年に独立し、math channelを設立しました。

異色の経歴を持つ横山さんですが、数学の楽しさを伝えようと考え始めた2010年前後には、今のような数学ブームはまだ訪れていなかったといいます。

2010年代前半になると「ビッグデータ」の活用に社会の注目が集まり、データサイエンティストの需要の高まりとともに統計学など比較的高度な数学がブームに。2013年には、『統計学は最強の学問である』などのヒット書籍も生まれました。

同じ頃、教育業界でもSTEM教育(やSTEAM教育)の必要性やプログラミング教育の必修化に向けた議論が進展。社会として理数科目の教育を強化していく流れができました。

社会人にも「働き方改革」の波が押し寄せ、空いた時間に趣味として数学に触れようとするコミュニティなども一気に増えたと横山さんは指摘します。

「日本でも大人のための数学塾をはじめとして、ロマンティック数学ナイト、日本お笑い数学協会、日曜数学会、数学カフェなど、2015〜6年ごろに気軽に数学に触れられる母体が一気に増えていきました。

この時期くらいから出版業界も数学ジャンルに注目し始めて、その流れ(ブーム)がいまなお続いているようなイメージです」

「計算が苦手な人」=「数学ができない人」ではない

ルービックキューブ

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「朝、趣味の時間に読書として、あるいは動画や遊びの一貫として、1分1秒でも長く数学に『楽しい』と思いながら触れてもらえる時間を作ろうとしています」(横山さん)

「数学に触れる」と言われても、どうしても「数学IA」や「数学ⅡB」などの受験数学を想像してしまい、尻込みしてしまう人が多いかもしれません。

しかし、横山さんがいう「数学」の考え方は、いわゆる受験数学とは異なります。

数学嫌いの人のなかには「計算の過程は合っているのに、ちょっとした計算ミスで答えを間違えてしまい、テストの点数がいつも悪かった……」というような人もいるかもしれません。

しかし計算の正確性は、現代で求められている「数学的センス」の本質ではないと横山さんは指摘します。

では、現代で求められる「数学的センス」とはいったいどんなものなのでしょうか。

数学で「世界観を共有する」とは?

微分積分

数学の授業で習ったさまざまな公式は、数学という世界の「共通言語」だ。

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「『お互いが正しく世界観を共有できること』が数学の大事なことだと思います」(横山さん)

例えば、友人との待ち合わせに少し遅れそうな場合を想定してみましょう。

連絡をする際に、あなたなら次の2つの表現のうち、どちらを使いますか。

  • 「あとちょっとで着くから待っててね」
  • 「今、新宿駅だからあと5分待ってて」

この場合は、後者の方が具体性があります。受け手側も、数字を使うことで、状況を正しく捉えることが可能です。

これは「5分」という時間に対する共通認識がお互いにあるからです。 また、「新宿駅」という情報から、本当にあと5分で来ることができるのか、受け手もその信憑性を判断できます。

「抽象的な話ではあるのですが、数学の世界観というのはそういうことだと思っています」(横山さん)

数学には足し算や引き算をはじめ、負の数や複素数、三角関数に微分・積分など、さまざまな分野があり、それぞれにルールが決まっています。

「数学では、そのルールの中で『こう考えたときにこんな結論になる』とか、『初期条件を変えるとこんなことが起きる』と対話することができます」(横山さん)

数学の問題を解く際には、問題文からそのルール(共通設定)を理解し、数字や公式などの「ツール」を使って答えを求めます。ルールに反した手法を取ろうとすると、答えにはたどり着けません。

この考え方はビジネスシーンでも重要だと、横山さんは語ります。

『来年の売上をこれだけ上げるためにはどうしたらいいと思いますか。ただしまずはこの要素(たとえば経費や工数) は考えないものとします』

ビジネスはこういう数学の問題とも言えます」(横山さん)

ビジネスは「連立方程式」

ビジネス

限られた条件からビジネスの戦略を考え出すことは、連立方程式を解くようなものだ。

sasirin pamai/Shutterstock.com

ただ単に「売上を上げましょう」と檄を飛ばすだけで売上が上がるほど、ビジネスは簡単ではありません。

ビジネスは、規制などの「ルール」をベースに、人件費や広告費、マーケティング手法など、さまざまな「変数」が入り混じった、いわば連立方程式のようなものです。

「うまく戦略がハマって成果(売上増)が出ると、『自分の作った証明が合っていたな」という気持ちになりますよね」(横山さん)

数学とは、こういった問題を抽象化して「数式」という共通のプラットフォームで表現したものだといえます。

だからこそ、数学的な思考がいま世の中で重要視されているわけです。

もちろん、数字に強くなることで、冒頭で紹介したような数字のトリックに惑わされにくくなるなどの直接的なメリットもあります。

「データサイエンティストほどの数学的な知識がなくても、生データやグラフした結果を読み解けるだけでいいと思っています。いわば数学のリーディングです」(横山さん)

この人は何のデータを使ってどんな分析をした結果、こういう結論に到達したのか。

「コロナの感染者数の増減も、突然『減ります』と言われてもピンと来ません。数学を勉強すると、こういうデータを使ってこんな分析をしたから、だから減るんだ』ということが分かる。理解できなくても、ある程度捉えられるようになります」(横山さん)

結論に達する「構造」(過程)を理解できるようになれば、その結論が「正しそうか」を判断する、いわゆる「ファクトフルネス」的な思考を持つことにもつながるといえます。

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