2022年にはどんなテクノロジーが登場し、ビジネスの姿を変貌させるのだろうか。
1年前のベンチャーキャピタリスト(VC)による予測では、SPAC(特別買収目的会社)ブームから企業のメンタルヘルス対策予算の増加まで多彩なテーマが挙がり、その多くが実際に2021年を象徴する潮流となった。
そこでInsiderは今回もVCたちに取材を敢行、彼らがウォッチしている投資テーマや、働き方の未来、2022年に顕在化しそうな新たなトレンドは何だと思うか尋ねた。
その結果挙がってきた19のテーマを、前後編の2本立てで紹介する。
1. Web3が主流になる
「Web3」はブロックチェーン技術が生んだ新しいインターネットだ。
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テック業界は今、新しい「インターネット」が誕生する瞬間を目撃している。第3世代のインターネット「Web3」は、暗号トークンで運用し、現在のインターネットサービス上で分散化型ネットワークを実現することを目的としている。
ベンチマーク(Benchmark)のゼネラルパートナー、サラ・タベル(Sarah Tavel)は言う。
「何年かに一度、新しいテクノロジーが登場して消費者体験の新たな可能性が開かれることがあります。暗号技術は何年も前からインフラ構築の段階にあって、今まさに新たな消費者体験をそのインフラ上に構築できる段階に達しつつあります」
投資家たちは、Web3が2022年の主流になることを期待している。サイエンス(Science)の共同創業者でマネージングパートナーのマイク・ジョーンズ(Mike Jones)は、ユーザーも気づかないうちに暗号技術を積極的に活用する企業が増えるだろうと述べている。ベッセマー(Bessemer)のパートナー、タリア・ゴールドバーグ(Talia Goldberg)も同意見で、「ブロックチェーンの複雑さがなくなり、消費者に受け入れられるようになれば、『Web3』は単なる『Web』になるでしょう」と述べている。
Web3上にユニコーン企業が現れる日もそう遠くないかもしれない。
「この分野には優秀な人材があふれているため、Web3経済における“次のウーバー、ツイッター、ストライプ”を見つけようとみんな必死です」と語るのは、ウーバーやツイッターでの勤務経験もあるNEAのパートナー、アン・ボルデツキー(Ann Bordetsky)だ。
2. 「パーティーラウンド」による資金調達がブームになる
スタートアップの間では、パーティーラウンドで資金調達をする動きが増えている。
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スタートアップに関する情報を発信しているサム・アルトマン(Sam Altman)は、2013年のブログ記事で「パーティーラウンド」型の資金調達(訳注:広く多数の出資者から少額ずつ出資を集めること)の盛り上がりを宣言した。それ以来スタートアップは、少数の大口投資家から多額の資金調達をするよりも、小規模投資家から広く少額の資金を集めるようになってきた。
起業家たちはラージキャップテーブル(大型資金調達)の利点を認識しつつも、このようなパーティーラウンド型資金調達がアーリーステージのニューノーマルになる可能性がある——そう指摘するのは、オープンビュー(OpenView)のパートナー、ブレイク・バートレット(Blake Bartlett)だ。「パーティーラウンドでは、自社を支持してくれる人の集まりを、熱心な株主の集団に変えられますから」と彼は話す。
このような動きを加速させるべく最近創業したのが、その名も「パーティーラウンド(Party Round)」というスタートアップだ。起業家のための資金調達ツールを作り、書類の送付、署名の収集、資金の受領など、煩わしさを解消するサービスを提供している。
「これは、パーティーラウンドをスムーズに進めるために作られたプロダクトで、彼ら自身がパーティーラウンドで資金調達を行いました。とても画期的な発明であり、将来有望なサービスです」とバートレットは言う。
3. 「クリエイターエコノミー」がスタートアップの新たな収益源に
クリエイターエコノミーはさらに花開くとVCたちは見ている。
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コロナ禍の影響で、クリエイターやSNSインフルエンサーが会社を辞めて独立し、個人事業主になるパターンが増えてきている。エマージェンス・キャピタル(Emergence Capital)のパートナーであるカルロッタ・シニスカルコ(Carlotta Siniscalco)によると、こうした変化が、インフルエンサーがSNSで生計を立てるのに役立つツールの需要を後押ししているという。
「適切なテクノロジーツールを導入すれば、どこにいても生活費を稼げます。自分の創造性、時間、知識を使って思いのままに収益化できるというわけです」と彼女は言う。
デジタルコンテンツをギグワークに変えるビジネスの一種である「クリエイターエコノミー」は、数十億ドル規模の産業にまで成長した。フィーメール・ファウンダーズ・ファンド(Female Founders Fund)のパートナー、アヌ・ダッガル(Anu Duggal)は、この傾向は今後も続くと予想する。Z世代を中心により多くの人が会社から独立し、そうした新たな仕事での成功を目指すとなると、そのためのツールが必要になるからだ。
「この1年で、リモートワークやより柔軟なライフスタイルに対する需要があることがますます明らかになってきました。コロナ禍がこうした変化の要因の1つだったことは確かですが、Z世代の旺盛な起業家精神は、従来型の労働環境のあり方も変えつつあります」とダッガルは言う。
4. VCが湯水のように資金を注ぎ込む状況は収まりつつある
VCの資本は潤沢だが、誰もがそれを手にできるわけではない。
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ベンチャー業界はこの1年であらゆる記録を更新し、1四半期で2020年通年を上回る数のユニコーン企業が誕生し、かつてないほどの資金が投入された。
しかし、エマージェンス・キャピタル(Emergence Capital)のパートナー、カルロッタ・シニスカルコ(Carlotta Siniscalco)は、資本黒字は永久に続くわけではないと釘を刺す。彼女は起業家に対し、必要な運転資金を調達し、社員の採用・維持に注力したほうがいいと助言する。そのためには「資金調達を取り巻く環境が現在よりも厳しくなった時に備えて、強固な企業文化を築いておく」ことが重要だという。
NEAのパートナー、アン・ボルデツキー(Ann Bordetsky)は、資金調達を検討している企業にとって、ファンダメンタルズ(基本的指標)がこれまでにないほど重要になっていると言う。投資家は、キラープロダクトと優れたチームを求めているのだ。
「起業家が知っておくべきなのは、投資家の元には十分な資本があるとはいっても、それが起業家に等しく配分されるわけではないということです。資金調達のために必死に努力しなければならないスタートアップがまだほとんどです」と彼女は言う。
5. 優秀な人材をめぐる戦いはまだまだ続く
優秀な人材をめぐる獲得競争は2022年さらに熾烈になるだろう。
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コロナ禍で労働者が大量に流出したため、数百万人分のポストが空いたままになっている。しかしテック関連の求職者にとっては朗報がある。このような人材不足の現状がこれまで以上に有利に働くだろうと言われているのだ。
「この人材不足の傾向は収まる兆しがまったくありません。しばらくは売り手市場が続く見通しです」と、ボストンのベンチャーキャピタル、オープンビュー(OpenView)の人材パートナーとして知られる採用担当者、スティーブ・メリア(Steve Melia)は言う。
「候補者が働く場所を柔軟に選べること、競争力のある報酬パッケージ(75パーセンタイル)を用意すること、高い地位の肩書を与えることなどは言わずもがなですね。こうした点で競争力がなければ、競合他社に後れをとってしまいます」
採用担当者自身が市場で最も求められている人材である、という点もメリアは付け加える。
6. 「在宅+オフィス勤務」のハイブリッド型企業が有利になる
従業員が以前のようにオフィスに戻ることはないだろう。
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オフィスで9時間を過ごすことになると予想がついてしまう企業は、以前(例えば2019年)に比べると魅力が薄れてきている。
スティーブ・ケース(Steve Case)率いるレボリューション・ベンチャーズ(Revolution Ventures)のパートナー、クララ・シーグ(Clara Sieg)によると、人材獲得競争が続く限り、雇用主は従業員をオフィスに呼び戻すことはできないという。その結果、企業は大幅な人員減少に見舞われることになるため、対面による面接だけでなく、リモートによる面接も取り入れざるを得ないという。
「勝者となるのは、効率的で魅力的なハイブリッドモデルを採用している企業と、そのようなハイブリッドモデルの職場向けプロダクトです」と、シーグは言う。
ノーウェスト・ベンチャー・パートナーズ(Norwest Venture Partners)のパートナー、パーカー・バリーレ(Parker Barrile)も、従業員が以前のようにオフィスに戻ることはないだろうとの見方に同調している。バリーレによれば、人々はコロナ収束後も会議はオンラインで行い、同僚との交流は会食やイベント参加など、直接顔を合わせることで図っていくだろうと言う。
7. 新しい働き方が普及して「ブロカルチャー」が終焉を迎える
在宅勤務が進み、社員が福利厚生として企業に求めるものも変わりつつある。
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「ハイブリッド型」という新しい働き方の形態は、「ブロカルチャー(訳注:自分と同じようなタイプの若い男性同士がパーティーなどをして過ごすサブカルチャーのこと)」の終わりを告げるものになるかもしれない、と言うのは、CRVのゼネラルパートナー、サール・ガー(Saar Gur)だ。
「シリコンバレーは長年にわたって、従業員にゲームルームや無料のドリンクや食事といった特別待遇を与え続けることによって、年中無休で24時間働くというライフスタイルを醸成してきました。しかし、家族も大切なのです」
ガーはそう語り、こうしたインセンティブの提示による採用活動も今後は立ち行かなくなるだろうと指摘する。
それに代わって、企業がワールドクラスの優秀な人材を獲得するには、よりフレキシブルなスケジュールで働くことができるという点を強調して人材募集を行っていく必要がある。ガーは次のように語る。
「今後は柔軟性を重視することで、従業員はクリエイティブな活動や趣味、そして一番大切な人のために、コロナ以前には想像もできなかったようなやり方で時間を割けるようになるでしょう。長期的に見れば、このことによって生産性を高め、従業員の満足度も上げられます」
ベンチャー市場はより分散化する
起業家にとって、資金調達はシリコンバレーのVC一択ではなくなりつつある。
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シリコンバレーのサンドヒルロードと言えば世界のVCが集まる場所として知られているが、最近では多くの起業家が、ここに立ち寄ることなく巨額の資金を調達できるようになっている。
アセットマネジャー、ヘッジファンド、企業のベンチャー部門など、いわゆる「ツーリスト・バッカー」(訳注:旅行者のように一時的に立ち寄る人の支援者)が関係した案件の数は、過去10年で倍増している。一方、起業家、著名人、インフルエンサー、新興のファンドマネジャーといった従来とは違うタイプの投資家もベンチャー分野に参入し続けており、市場シェアを増やしている。
フューエルキャピタル(Fuel Capital)のゼネラルパートナー、リア・ソリバン(Leah Solivan)はこれを「ベンチャーキャピタルの分散化」と呼んでいる。ソリバンはタスクラビット(TaskRabbit)を創業し、後に売却した経験を持つ。
「特にシードステージでは、従来型企業から、多種多様なバックグラウンドを持つ新しい投資家集団へと重心が移りつつあります。起業家が多くの利益を得られるとすれば、それは参入障壁が下がって資本へのアクセスが拡大するためでしょう」とソリバンは指摘する。
8. カナダのテックハブがさらに賑わう
スポーツ関連のニュースレターを配信するザ・ジスト(The Gist)はトロントで創業。2021年には売上高が100万ドルに達した。
画像提供:The Gist
投資家らは、カナダのテック関連企業のエコシステムについては強気の予想をしているという。スタートアップへの投資額は2021年第3四半期までで93億ドル(約1兆円)と2020年の3倍に急増し、ダッパーラボ(Dapper Labs)、クリアコ(Clearco)、ブロックストリーム(Blockstream)などカナダの国内スタートアップが大きなシェアを獲得した。
トロントとモントリオールにオフィスを持つリアルベンチャーズ(Real Ventures)のマネージングパートナー、ジャネット・バニスター(Janet Bannister)は、次のように語る。
「カナダの成長を牽引しているのは国際的なワールドクラスの投資家です。彼らはカナダのエコシステムの強みを分かっているため、成長著しいレイターステージにある企業に投資しています。私たちはこうしたトレンドは2022年も加速し続けると予想しています」
カナダ政府は現在、コロナ禍前よりも迅速に移民申請を処理しているため、より多くのIT労働者がカナダへ移住する可能性がある。
9. NFTはブームか本物か、投資家たちの意見が分かれる
クリプトパンクスは、イーサリアムのブロックチェーン上で保管され、所有権証明が付与される、世界に1つしかないデジタルアートだ。
画像提供:Rokas Tenys
ここ2年間の暗号通貨ブームによって、NFTと呼ばれるデジタルコレクションの新しい市場は記録的な盛り上がりを見せた。唯一性を証明できるこのデジタルアイテムは2021年にブレイクし、総売上高は120億ドル(約1兆4000億円)に達したとMarkets Insiderは伝えている。
しかし、この熱狂がずっと続くと誰もが確信しているわけではない。ノーウェスト・ベンチャー・パートナーズ(Norwest Venture Partners)のパートナー、パーカー・バリーレ(Parker Barrile)は次のように語る。
「デジタル資産は、代替性のある(無限に拡張可能で共有可能な)ものとして設計されていました。このため、コンテンツは所有権を取得するために支払いをするモデルから、アクセス権を取得するために支払うモデルへと移行したわけです」
一例を挙げれば、今ではアルバムを買うよりも月額課金で音楽配信を利用している人がほとんどだ。「いずれNFTは全く価値のないものになるでしょう」とバリーレは見る。
10. クラウドコンピューティング分野が資金調達の黄金時代に突入する
クラウド分野ではアーリーステージでの資金調達も目立つ。
画像提供:Diane Miller/Getty Images
クラウドコンピューティング分野で将来のユニコーンを狙う投資家たちは、かなり早いステージでスタートアップに大きな賭けをする可能性があると、B to Bインフラソフトウェアを専門とするバッテリー・ベンチャーズ(Battery Ventures)のゼネラルパートナー、ダルメシュ・タッカー(Dharmesh Thakker)は指摘する。
「成長著しいクラウド企業となると、投資家は売上データの代わりとしてアーリーステージのデータを使うことにも抵抗がなくなってきたようです」とタッカーは言う。
こうしたデータがあれば、投資家たちはシリーズAや、さらに後のシリーズBでも、収益を上げる前の企業への投資に前向きになれる。
※この記事の後編は1月19日(水)公開予定です。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)
[原文:VCs say Web3, party rounds, and New York's resurgence are among the tech trends to watch in 2022]