ルーシッド・モーターズの高級セダン「ドリーム・エディション」シリーズは16万9000ドル。ピーター・ローリンソンCEOは、これが手の届く価格帯にしていくための第一歩だという。
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電気自動車(EV)が一般に浸透するための大きな障壁のひとつがコストだ。EVのコストがガソリン車と同等になるのは2026年以降になるとマッキンゼーは予想している。テスラやルーシッド・モーターズなど、EVスタートアップは大衆向けに価格を下げようと激しい競争を繰り広げている。
大衆向けの価格帯にするまでのルーシッドの道のりはまだまだ長い。売りにしている高級セダン「ドリーム・エディション」の「エアー(Air)」は16万9000ドル(約1940万円)からだ。しかし、ピーター・ローリンソン(Peter Rawlinson)CEOは、これが、さらに手の届くEVを提供できるようになるための一歩だと話す。
大手の車メーカーが既存のEVの航続距離を伸ばそうとするなか、ルーシッドはその逆を行こうとしている。つまり、世界で最も航続距離の長いEVをまず販売し、最後に最も小さい(そして最も手頃な)バッテリーを搭載した車種を出すという手法だ。
「レクサスもテスラもそうでした。素晴らしいブランドはまず高級路線からスタートして、だんだん価格帯を下げていったのです」とローリンソンは2021年の夏に話していた。
実際、テスラが出している標準的な航続距離のモデル3は4万ドル(約460万円)で買えるようになっている。これは最低価格8万8740ドル(約1020万円)のモデルSと比較するとかなり安くなっている。イーロン・マスクはモデル3の3万5000ドル(約400万円)バージョンを販売すると2019年に宣言していたが、それを有言実行したことになる。
航続距離は220マイル(約354km)で安全性も最高格付けを獲得していたモデル3だが、テスラはまもなく販売を中止した。その後マスクは、顧客はモデル3にあまり興味を示さなかったと話している。
ローリンソンも同じことを実行しようとしているが、もっとスピーディに進める計画だ。そのためには台数を増やして電池のコストを下げることが重要になってくる。1キロワット時(kWh)当たりのバッテリーのコストは通常100ドル(約1万1500円)強で、ルーシッドのエアーは113kWhの電池パックを使用している。
ブルームバーグNEFは、1kWh当たりのバッテリー価格が2024年には約92ドル(約1万円)に下がると予想しており、EVは今より価格競争力が高まることになる。
「その第一歩として、効率性を高めることで航続距離を伸ばします。その次にやろうと考えているのがそこから逆行して、エアー・ピュア(Air Pure)のような車を作ることです」とローリンソンは言う。エアー・ピュアはルーシッドの基本モデルであり、価格帯は7万7400ドル(約890万円)からとされている。
つまり、価格を下げるために、一度伸ばした航続距離を短くしていくということだ。航続距離を伸ばして電池容量を大きくすれば車の価格は高くなっていくわけだが、それでも航続距離が顧客にとってのネックとなっているため、ここがカギになる。
ローリンソンは言う。「大量生産でスケールメリットを出し、バッテリーパックと電池のコストを下げることが必要です。EVの中で最も高い部品は電池パックです。例えば将来400マイル(約644km)くらいの航続距離にして価格競争力をつけるならもっと小さいパックにすればいい。そうするとコストも下がるわけです」
その次のステップは、さらに航続距離を短くすることだ。このまま充電インフラが広がっていくことと、EVの使われ方を考慮すれば、ほとんどのドライバーが250~350マイル(約400~560km)の航続距離で足りるようになるだろうと専門家は予想している。
急速充電施設が潤沢にあって家での充電が簡単になれば、「そこまでの航続距離が必要なくなり、その場合150マイル(約240km)くらいで足りるのではないでしょうか」とローリンソンは言う。
1kWh当たり6マイル(9.7km)走れるとすると、150マイル(約240km)にするなら25kWhのバッテリーということになり、現在EVに必要と考えられている電力よりもはるかに少なくて済む(ゼロやハーレーダビッドソンの電動バイクには約15kWhのパックが使われている)。
「電池の値段が1kWh当たり100ドル以下、例えば90ドルくらいになるなら、パックに必要な電池の値段は2300ドル(約26万5000円)になり、3000ドルを切ります。そうすれば車の価格は2万5000ドル(約290万円)になる。将来はそうなると考えています」
[原文:How Lucid could beat Tesla to the $25,000 electric car for the masses]
(翻訳:田原真梨子、編集:大門小百合)