IPOを目指す経営者なら知っておくべき、「成長戦略型段階的M&A」という手法

イグジット(出口戦略)として、IPOを目標に掲げる経営者は多いだろう。ただ現実的には、ガバナンスの強化や管理会計の導入など、さまざまな壁が立ちはだかる。その壁を乗り越える手法として注目されているのが、M&Aで株式を一部譲渡した後にIPOを目指す「成長戦略型段階的M&A」だ。なぜこの手法で成長が加速してIPOが近づくのか。M&Aの専門家に解説してもらった。

IPOを目指す若い経営者の4割はM&Aにも興味がある

企業のM&A・資本提携のアドバイザリー業務を行うfundbook(ファンドブック)は、2020年11月、IPOに関心を持つ未上場企業経営者を対象に行った実態調査の結果を公表した。

Q.M&Aに関心はありますか?

提供:fundbook

それによると、IPOを目指す20~30代のうち42.1%が、M&Aに関心を持っていた。従来、M&Aは後継者不在の承継手段というイメージが強かったが、イグジットの手法としても検討に値するということだろう。

M&AにはIPOより早期にイグジットしやすいメリットがある。一方で、IPOは、企業価値を更に上げることによってイグジットによる利益をより多く得られる可能性を持つなど、それぞれ固有のメリットがある。

だが実は、IPOとM&A、両方のメリットを享受できるスキームがある。それが「成長戦略型段階的M&A」だ。fundbook取締役の西村将明氏は、このスキームを次のように解説する。

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fundbook作成の図を編集部にて一部改変

「まずオーナー経営者が株式の一部をPE(プライベートエクイティ)ファンドに売却します。PEファンドは少なくとも株式を過半数持ち、経営者にも株式を一部残します。ケースバイケースですが、経営者には30%程度残すことが多いですね。その後、経営者は経営の舵取りを続け、PEファンドの支援を受けながらIPOを目指します。実際にIPOが実現すれば、自分の株式を売却してもいいし、大株主として経営に携わり続け、株式市場から調達した資金でさらなる成長を目指してもいい。二段階で会社を成長させることから、私たちは『成長戦略型段階的M&A』と呼んでいます」(西村氏)

ファンドの支援でIPOが現実的に

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西村将明(にしむら・まさあき)氏/fundbook取締役。これまでに100件以上のM&Aを支援し、成長戦略型M&Aも数多く手掛けるM&Aアドバイザー。大学卒業後にリクルートにて、人材採用・育成・組織コンサルティング営業に従事した後、日本M&AセンターにてM&A仲介業務や名古屋支社の立ち上げに関わる。その後M&Aアドバイザリー業務などを行う会社を設立し代表取締役に就任。2021年に自身の株式を譲渡後、fundbook入社。同年9月、fundbook取締役就任。

経営者が成長戦略型段階的M&Aを選ぶメリットは多い。まず、社長として引き続き経営に携われる。株式の過半数を譲渡するため実質の経営権は手放すが、西村氏は「PEファンド側が経営者の続投を望むことが多い」と明かす。

「PEファンドが譲り受けるのは、上り調子でまだ成長余地のある企業です。そのためグロースさせるには、これまで事業を率いてきた経営者に任せるのが一番いい。そこで経営者に引き続きコミットしてもらうため、成長戦略型段階的M&Aのスキームで経営者に株を持ってもらうのです」(西村氏)

IPOに向けた支援も魅力だ。PEファンドは投資家から出資金を預かり、そのお金でM&Aを行う。買収先の企業価値を高めてIPOすれば、投資家に大きなリターンを返せる。上場に向けて買収先の足りない部分を補うことは、PEファンドにとって重要なミッションとなるため、より強力なバックアップが見込めるのだ。

「上場には、ガバナンスの強化や管理会計の導入が求められます。ただ、オーナー経営者は、ビジネスを成長させることが得意でも、コーポレート業務についての専門知識が乏しい方もいます。一方、PEファンドはM&Aを実施した企業に対してCFO候補などをヘッドハントするノウハウを持っている。つまり、IPOに足りないコア人材の採用支援をしてくれるわけです」(西村氏)

コーポレート業務の支援だけではない。ビジネス的には追加買収にも期待ができる。PEファンドは買収先の成長スピードを加速させるため、競合企業やシナジーを見込める異業種企業を追加買収するケースがある。自社単独では資金的に買収が難しくても、PEファンドの支援を受けることで今度は譲受側としてM&Aを行う可能性が広がっていく。

そして忘れてはならないメリットが、創業者利益を確保できることだ。仮にある企業のバリューエーション(企業価値評価)が10億円だったとしよう。M&Aで株式100%を売却したら、経営者が得られるのは10億円だ。一方、30%を残して成長戦略型段階的M&Aを行うとどうなるか。

「経営者はM&Aの段階で一度7億円を得ます。その後、ファンドの支援を得てIPOが実現すれば、残りの3億円分の株式は少なく見積もっても2~3倍になるでしょう。仮に3倍とした場合は9億円となり、最初の譲渡益と合わせて16億円に。段階的にイグジットすることで、確実に一定の創業者利益を確保しつつ、さらにアップサイドを目指せます」(西村氏)

最適なファンドとのマッチングは、最適な仲介サービスから

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メリットが多い成長戦略型段階的M&A。その実行にあたっては、ファンドごとに得意領域や実績が異なるため、自社に合ったパートナーを見つけることがポイントだ。西村氏は一例として、主幹事となる証券会社や監査法人とのコネクションをあげた。

「主幹事となる証券会社次第で上場時の公開価格は変わります。また、近年は監査法人がIPO監査に消極的なケースも多く、コネクションがないと“監査難民”になりかねません。すべてのPEファンドが証券会社や監査法人と太いパイプを持っているわけではないため、どのPEファンドと組むかでIPO戦略は大きく左右されるでしょう」(西村氏)

そこで重要になるのが、PEファンドとの間を取り持つM&A仲介会社の存在だ。PEファンドごとに得意領域や実績が異なるように、M&A仲介会社にもそれぞれ特徴がある。たとえば事業承継型M&Aを中心に扱う会社であれば、最適なPEファンドとのマッチングは望み薄となってしまう。

つまり、成長戦略型段階的M&Aを検討するのであれば、やはりPEファンドを幅広く扱う仲介会社がよい。

専門組織で、ファンドへのM&Aの高度なニーズにも対応

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fundbookは、2021年9月にPEファンドへのM&A支援や上場企業のFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に特化した組織、ストラテジックセールス本部を立ち上げた。成長戦略型段階的M&Aには、特有の複雑なプロセスが求められ、より適切なサポートを行うためには、経験やナレッジが蓄積された専門組織が必要だからだ。

「PEファンドは投資家に対して説明責任があるため、譲受先について詳細な資料を求めます。デューデリジェンス(譲渡対象企業に対する事前調査)においても広範囲かつ詳細です。以前からこうしたニーズに個別に対応してきましたが、成長戦略型段階的M&Aの案件が増えてきたため、組織化して体制を強化することにしました」(西村氏)

もともと成長戦略型段階的M&Aを得意としていたfundbookだが、ストラテジックセールス本部の設立により、将来のIPOを目指す経営者にとってより心強い相談相手になるはずだ。

実際にfundbookに相談を持ちかけるのは「30~50代の経営者が比較的多く、成長戦略がキーとなる企業が多い」と西村氏がいうように、それまで培ってきたノウハウが蓄積されている。

そしてそのノウハウを平準化し高いレベルで提供するために、fundbookでは「分業制のアドバイザリー×M&Aプラットフォーム」という業界初のハイブリッド型のサービスモデルを構築した。

「一般的なM&A仲介は、案件化からバリュエーション、相手探し、ディール、成約まで、担当者が一人で行います。この方法は属人性が高いため、M&Aの成否が担当者のスキルや経験に左右されるという課題があります。そこでfundbookはプロセスを分業化し、各工程の専門家が担うことでアドバイザーがお客様のサポートに専念できる独自の体制を構築しています。

また、マッチングでは、全国の譲受企業が登録するプラットフォームも活用。人の手で選んでリスト化する場合より多くの候補に打診できるため、最適な相手とマッチングしやすいし、譲渡価額も比較的高くなりやすいのです」(西村氏)

最後に西村氏は、新組織設立に込めた思いを語ってくれた。

「成長戦略型段階的M&Aが普及して経営者の選択肢が増えると、新たに起業したり、エンジェル投資家になったりといった可能性も増える。IPO一択ではなく、M&Aも視野にいれることでベンチャー企業のエコシステムが新たに形成されれば、日本の経済にとってもプラスとなるはず。私たちは引き続きこのサイクルを回すお手伝いをしていきたいと思います」(西村氏)


fundbookの詳細についてはこちら

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