2021年12月7日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)には、「パンデミックで若年層のメンタルヘルス危機が悪化」という見出しが躍った。
NYT:The pandemic worsened a mental health crisis for young people.
記事は、アメリカ公衆衛生局の医務総監がこのほど発表した、新たな調査結果を報じる内容だ。調査では、アメリカでこの10年、若年層におけるメンタルヘルスの危機が拡大しており、コロナ禍を通じて深刻なレベルにまで悪化していることが明らかになった。
今回公表された中で最も気掛かりなのはおそらく、2021年2〜3月の1カ月間で、自殺未遂で緊急治療室に担ぎ込まれた女子の数が、2019年同期と比べ1.5倍に増加したことだ。
ところがNYTの記事には、「学校」の文字がどこにもなく、代わりにソーシャルメディア(SNS)が思春期の子たちにもたらす悪影響を主に取り上げていた。確かに必要な話ではあるが、知りたいのは、休校やオンライン授業がどれほど子どものメンタルヘルスに影響を及ぼすのか、という点だ。
調査報告書を読んでみても、「子どものメンタルヘルスは確かに学校閉鎖から悪影響を受けた」とは指摘しているものの、それ以上のことは言っていない。
しかし、1年以上にわたり閉鎖された学校では、かつてウイルスがどう感染するかも分からず、ワクチンもなかったころのようなコロナ安全対策を、現在も求めている。
その対策は本当に必要なのか?
2020年10月22日、ペンシルベニア州ウェスト・ローンにあるウィルソン高校の教室にいる生徒たち。対人距離を取るために、机の数は普段の倍になっている。
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筆者の娘が通うニューヨーク市の公立学校(教職員はほぼ全員ワクチン接種済み)では、中学生は昼食時を含め終日同じ席に座ったまま動けない。その分、各教科の教師が教室を行ったり来たりする。しかしこれはまだましな方で、ミネソタ州のある学区では、生徒が冬の寒空のなか屋外で昼食をとっている学校もある。
また、ニューヨーク市では学生アスリートは州レベルの競技会に参加する機会を奪われている。屋外での新型コロナ感染リスクはかなり低いにもかかわらず、小学生は屋外でもマスク着用を求められているところもある。
なお、子どものマスク非着用については、筆者が新型コロナ否定論にのめり込んでいるのではなく、世界保健機関(WHO)が出しているアドバイスによるものだ。WHOは、5歳以下の子どもにマスクをさせないよう、そして12歳までは「子どもが暮らしている地域で感染が拡大しているか否か」など、さまざまな要因をもとにマスクをさせるか決めるよう助言している。
ちなみに、感染規模の縮小に伴い、小学校でのマスク着用を廃止していたフランスでは、最近、全国規模でのマスク着用義務を再び導入した。しかしこれは学校での集団感染が理由ではなく、新型コロナ感染者の全国的な急増を受けてのことだ。
そもそも、学齢期の子どもの場合、新型コロナで深刻な症状になるリスクはかなり低いとされている。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のデータによれば、17歳以下の子どもが新型コロナに感染して死亡する確率は0.01%だ。そして今や、5歳の子どもからワクチンが打てるようになり、子どものリスクはさらに軽減されている。
また、学校が大人数への感染源となるリスクは決して高くなく、生徒や職員の新型コロナ感染率も、概してその地域の感染率に相関するとされる。しかしそれでも、アメリカでは民主党が優勢な地域において、学校はまるで危険な「コロナ培養センター」であるかのように扱われ続けている。
もちろん、新型コロナの感染者数や入院者数が急増している場所では、学校でのマスク着用義務を一様に課したり、子どもたちが大人数で集まれないよう厳格化したりするのは、道理にかなっているかもしれない。しかしこれは最後の手段であるべきで、最初かつ唯一の手段ではない。
パンデミックが変化し続けるなか、効果が疑わしい新型コロナ安全策を、どんな状況であれ常に全て必要なものとして扱うべきなのか。子どものメンタルヘルスへの悪影響が指摘されている以上は、慎重に取り組んでいく必要があるのではないだろうか。
(翻訳・松丸さとみ、編集・野田翔)