アップルのティム・クックCEO。
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2022年1月3日(現地時間)、アップルの時価総額が初めて3兆ドル(約345兆円)に達した。3兆ドルの大台を超えたのは同社が初めてとなる。
アップルの株価は2021年、S&P500指数平均を8ポイント上回る35%の上昇を見せた。しかしこの成長が2022年も継続するかをめぐっては、アナリストの間で意見が割れている。
イギリスに拠点を置く金融商品仲介業AJベルの投資ディレクター、ラス・モールドは先ごろ同社ウェブサイト 内の記事でこう述べている。
「アップルに3兆ドルの値が付いたことに対して、人々の生活を豊かにするプロダクトやサービスを提供してきた同社のイノベーションや能力を考えれば当然だと考える人もいます。
一方で、株式市場が過熱してバブルの様相を呈してきた兆候に過ぎないと考える人もいます」
アップルは1980年に上場したが、当時の時価総額はわずか16億ドルだった。時価総額はその後1900%近く上昇し、2018年8月には1兆ドル、2020年8月には2兆ドルを突破した。
アナリストによると、アップルの株価急騰はiPhoneの永続的な人気のおかげだ。
「憧れの3兆ドルクラブの会員資格を手にしたということは、いかにiPhoneがうまくいっているかを物語っています」と話すのは、ハーグリーブス・ランズダウンの投資および市場アナリスト、スザンナ・ストリーターだ。「15年前の1月に初めてiPhoneがお披露目されて以来、株価はうなぎ登りの5800%増となりました」
アップルは次の10年で、ARヘッドセットのアップルグラス(Apple Glasses)など新しいプロダクトを発表し続けるだろう。ARメガネが株価を20ドル(約2300円)近く押し上げる可能性があると予測する向きもある。
本稿では、このタイミングでのアップルへの投資は「あり」か「なし」か、5人のアナリストに意見を聞き、その考えと戦略をまとめた。
強気筋の見解
多くの人が依然としてアップルの株を「買い」だと考えている理由の1つは、その高い利益水準だ。2021年度は、売上高3650億ドル(約42兆円)、営業利益1090億ドル(約12兆5000億円)、営業利益率は30%弱だった。
「アップルは金のなる木です」と前出のモールドは語る。「同社の収益性は高く、純利益は2020年に65%増で最高記録を更新しました」
アップルは近年多角化を進めており、ストリーミングサービスのApple TV+など新規のプロダクトを立ち上げたほか、アップルグラスや電気自動運転車アップルカー(コードネーム「プロジェクト・タイタン」として知られる)などの技術開発も手がけている。強気筋は、こうした動きが引き続きアップルの株価を押し上げると見ているのだ。
モルガン・スタンレーのマネージング・ディレクター兼エクイティ・リサーチ・アナリストであるケイティ・ヒューバティは、2021年12月時点で次のように見ている。
「AR/VR(拡張現実/仮想現実)と自動運転車という、大規模な市場に向けたプロダクトをアップルが開発中であることは周知の通りです。これらの実用化が近づくにつれて、こうした将来的な機会のオプショナリティを株価の評価に織り込む必要があると、当社は考えています」
加えてウェドブッシュのリサーチ・チーフ、ダン・アイブスは、2022年下半期にアップルグラスがうまくローンチされれば、株価は20ドル近く上昇するだろうと予測する。アイブスによると、アップルカーの製造は「水面下で急ピッチで進められて」おり、2025年には発売される可能性があるという。
アイブスはまた、強気シナリオの場合、株価は現在の180ドルの水準から25%増となる225ドル近辺にまで上がる可能性があると話す。米CNBCによると、ヒューバティは先ごろ、目標株価を164ドルから200ドルに引き上げている。
弱気筋の見解
弱気筋はとりわけ、規制と競争という2つの懸念材料を挙げる。AJベルのモールドは、アップルが2022年に世界中で規制に直面する可能性を指摘する。
「アップルは、複数の市場で規制面の抵抗に遭っています。イギリスの競争市場庁は、スマートフォンとウェブアプリ市場でアップルとグーグルが複占状態にあるとして調査に乗り出しています。インドは現在、アップルがApp Storeで開発業者に30%の手数料を課している件を調べています。
また、開発業者のエピック・ゲームズがアメリカで起こした訴訟では、エピックの訴えが一部認められました。アップルは控訴していますが」
スマートフォン市場は依然として競争が激しく、アップルは先ごろ、iPhone 13の需要が期待を下回ったと報告していた。調査会社モーニングスターは、同社の競争優位性はわずかだとしている。同社のテクノロジー・エクイティ・ストラテジストであるアビナブ・ダブルリは先ごろ、同社ウェブサイト内の記事で次のように書いている。
「アップルの高いレピュテーション、忠誠心の高い顧客基盤、個性的なプロダクトをもってしても、一般消費者向けハードウェア市場は、多くの機能を求める顧客の欲求を十分に満たせない企業に対して容赦ありません。 アップルの製品サイクルの短さや、その支配的な地位を突き崩そうと多くの企業が虎視眈々と狙っていることを考えると、アップルの“経済的な堀(Economic moat)”はそれほど広くない、と当社は考えています」
アップルは、新しいプロダクトでも激しい競争に直面している。ハリウッド・リポーターによると、Apple TV+はストリーミング戦争でネットフリックス(Netflix)やディズニープラス(Disney+)ら競合に後れをとっており、その立ち位置は依然として不透明だ。
「(Apple TVは)多額の投資を継続的に行う必要があります」とストリーターは指摘する。「ハードルは何年にもわたって非常に高いところに設けられており、怪我をする可能性もあります」
最後にモーニングスターのダブルリは、AIテクノロジーの開発に関してはアップルはアマゾンやグーグルなどのライバルに後れをとっているとみなされている点を指摘する。アーク・インベストメントやUBSなどの資産運用会社は、今後10年の重要な成長ドライバーとしてAIを挙げており、AIという投資テーマは2030年までに総額80兆ドル(約9200兆円)に急増すると見られている。 ダブルリはアップル株の適正価格を、現在の株価より30%強低い124ドルだとしている。
(翻訳・松丸さとみ、編集・常盤亜由子)