日本最大級のテーマパークが直面した「コロナ禍」「周年事業」はどのようなものだったのか?(写真は2021年11月撮影)
撮影:小林優多郎
日本各地で新型コロナウイルスの第6波到来がささやかれているなど、コロナ禍はいまだに人々の生活やさまざまなビジネスに影響を与えている。
そんな中、日本最大級のテーマパークであるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)は2021年3月18日に新エリア「スーパー・ニンテンドー・ワールド」をオープン、さらに同月末で開業20年を迎えた。
コロナ禍での20周年はどのようなものだったのか。また、アフターコロナを見据えた観光業の在り方など、USJ副社長の村山卓氏に直撃した。
「コミュニケーション」の重要性
ユー・エス・ジェイ 副社長の村山卓氏。
出典:USJ
── USJは開園20周年を迎えました。一方で、2020年〜2021年は新型コロナウイルスの影響で閉園していた時期もあります。コロナ禍を振り返りを聞かせてください。
村山卓(以下、村山):コロナの影響で、我々が当初予定していたいろいろなことができませんでした。いくつかは変更して実施するなど、社員全員が柔軟に対応してくれたと思います。
特に、テーマパークという会社は1つの「町」のようで、色々な部署があって成立しています。そのため、(部署間での)コミュニケーションがなかなかうまく行かないこともあります。
コロナ禍でも特に印象深かったのは、社内横断でイベントの運営方法を変更する話をする時に、いろんな部門の人が一斉に集って、社内横断的なコミュニケーションがスムーズにいったことです。
会社としてのチームワークの強さや柔軟性の高さを改めて感じました。
── 特に大変なチャレンジというのはありましたか
村山:初めてではないのですが、コロナ禍でパークをクローズしなきゃいけなかったことがありました(USJは2020年2月29日〜6月7日、2021年4月25日〜5月30日で休業、それ以外の期間も入場制限などを随時実施)。
パークをクローズするという時、逆に何ができるかを考えました。今一度、USJがこの社会になぜ存在しているのか、存在意義みたいなことを私もマーケティング本部のみんなにも問いかけたわけです。
そこで我々が行き着いたのは、「エンターテインメントを通して、社会を元気にしていきたいし、我々はできるんじゃないか」ということです。
パークが閉まっていても社会活動を通して、社会を「超元気」にできる。若手からいろいろなアイデアが出てきました。コロナ禍がある意味「起点」の1つになったと思います。
── とはいえ、テーマパークはお客さんに来場してもらうことが前提にある体験の場です。USJは「オンライン・パーク・ツアー」やオンライン物販などを新しく実施や強化していますが、手応えは。
11月23日に限定開催された「呪われたオンライン・パーク・ツアー」のイメージビジュアル。
出典:USJ
村山:2021年11月23日に実施した「呪われたオンライン・パーク・ツアー」については、精査しきれていないところがあります(本取材は12月下旬に実施)。
ただ、私の中ではオンラインツアーは食事で言うところの「アペタイザー(前菜)」だと思っています。
例えば、遠方からのお客さまは、物理的にも、ましてやコロナ禍でUSJに遊びに来づらい状況だと思います。そういった中でUSJをちょっと味わってもらいたい。そして、最終的には実際にUSJに行きたい……要はメインを食べたいと思っていただけるのではないかと。
そのような仮説を考えていて、これからもオンライン・パーク・ツアーのようなものは引き続きやっていきたいと思っています。
(物販などを含めて)戦略的にオンラインビジネスをどう置いていくかと言うことは、社内でも議論している最中です。“新しい施策”としてやっているので、私たち自身も学んでいる最中です。
コロナ禍で披露した「スーパー・ニンテンドー・ワールド」
2020年10月に「スーパー・ニンテンドー・ワールド」について記者からの質問に答えていた村山氏。
撮影:小林優多郎
── そんな中の新エリア「スーパー・ニンテンドー・ワールド」は、開園延期や開園後1カ月強での臨時休業など、コロナ禍の準備期間も含めてまさに波乱のオープンだったと思います。
村山:非常に難しかったです。とにかく新しいことをこのコロナ禍で発表することは常にリスクが伴います。
それをやりきれた理由は、単に「USJのための新エリア」と言う意味だけではなく、大阪や関西の経済が動き始めて、しいては日本の観光自体も活性化していきます。
そういう想いもないと、私も記者さんの前で「新しいエリアがオープンします」と胸を張っていえません。「こんな時期になんで?」と言われますから。
社会的な意義を考えながらやってきた、というのが本音のところです。
アプリ連携などさまざまな施策が施された「スーパー・ニンテンドー・ワールド」。
撮影:小林優多郎
── USJの従来からの繁忙期はハロウィン(10月下旬〜末)の期間で、そこからも年末年始、春休みなどと来場者数が比較的多い時期が続きます。コロナ禍で来場者数を絞らないといけない中で、ブレーキ(人流の制限)とアクセル(集客施策)のバランスはどうとっているのでしょうか。
村山:実はコロナ禍で象徴的なことがありました。
各産業がガイドラインを策定しましたよね。USJはテーマパーク・遊園地のガイドラインをつくるときに、他の施設の方と一緒にですが、中心的な立場で意見を出すなどの活動をしていました。
私自身も夜間まで作業をしたり、(経済産業省からの)発表の直前まで調整をしていました。また、実際に他のテーマパークの方が「どうやって安全に営業できるか」と、USJを視察に来られたんですよね。
そう言う意味で「アクセルか、ブレーキか」ということを考えたとき、私たちには1つの「安全にお客さまに来ていただけるテーマパーク像」を、社会に示す義務があると考えています。
なので、例えば入場者数を減らしても、それは私たちの中では「あるべき姿」であり、アクセルとブレーキを同時に踏むみたいな感じではないんですよね。
ダンスの中で自然とソーシャルディスタンスを保てるようになっていた「NO LIMIT! タイム ~ハッピー・クリスマス!~」(2022年1月10日まで開催)。
撮影:小林優多郎
── あるべき姿、という意味では20周年イベントの取材時に、演出上違和感のない形で来園者同士の距離が広がるようクルー(園内スタッフ)の方が誘導していたのが印象的でした。
村山:やはりエンターテイメントなので、いろいろな規制がある中でも。楽しく、元気にやらないといけないですね。
例えば、アトラクションに乗っていただいたら「できるだけ声を出さないでください」と伝えますが、「心の中で叫んでください」とお願いしたり。
そういうちょっとしたことでもエンターテイメントでも追求しないといけない。クルーひとりひとりもそう思っていると思います。
「東の夢の国、西の元気の国」
USJは新しいコラボ・アトラクションとして、2022年3月4日から「ハンター×ハンター・ザ・リアル 4‐D」を開催すると予告している。
出典:USJ
── ニンテンドーワールドに限らず、USJにはさまざまなコラボコンテンツがあります。どれもIP(知的財産)を持つステークホルダーとの調整など、USJ側の負担が大きい事業だと思います。
村山:ライセンサーと話す私たちサイドの担当者の“熱量”は半端ないものがあります。担当しているIPに対する愛情などが、相手側にも伝わっていると思います。
それと、ここ数年で実施しているIPを使ったコラボレーションは、実際に形のある証拠としてIPホルダーのみなさんにお見せできており、それが下地にはなっています。
そして何より、USJのDNAとして「市場が何を望んでいるのか」「今はない新しいことをやってみる」と言う環境が会社内にもあり、私自身もそれを信じています。
── よくUSJのマーケティング部では「東の夢の国、西の元気の国」と競合を表現していますが、多数の外部IPとのコラボは競合との差別化も意識して取り組むのでしょうか。
村山:同じビジネス形態でも、かなり違うビジネスモデルなんじゃないかなと思います。
例えば、自動車業界でも同じようなプロダクトを提供しているけど、会社のカルチャーがまったく違ったりとか、ビジネスモデルが違う例はありますよね。
もちろん(東の夢の国は)我々より長く運営されている会社なので、多くのことで勉強させてもらうことはあります。一方で、DNAがやはり違うと思います。(コラボ施策は)それを具現化している事だと思います。
次の20年キーワードは「万博の後」「人材育成」
USJでは、パーク従業員を「クルー」、ダンサーやシンガーを「キャスト」、来園者を「ゲスト」と呼ぶ。
撮影:小林優多郎
── コロナ禍そしてコロナ終息後の「USJにとっての次の20年間」はどのような姿を考えていますか。
村山:次の20年の中では、万博が開催されたり(2025年4月〜10月予定)、IR(統合型リゾート)の話が大阪だけ残っているだとか、USJのある大阪のベイエリアが大きく変わっていく年になると思います。
そんな中で、USJが単独で「超元気、超元気」と言っててもしょうがない。今まで以上に大阪や関西を盛り上げる役になっていきたいです。
その1つの表れが、大阪観光局と大阪商工会議所と共同で出した12月7日のリリースです。万博だけではなく、万博の後も見据えて一緒にやっていこうという話です
こうしたことは1度きりのことではなく、毎年継続してやっていきたいなと、今は考えています。
大阪全体の観光業について語る村山氏。
出典:USJ
あと、「観光人材の育成」も非常に重要です。
これは前々から考えていたのですが、若者が大阪から離れて東京で就職すると言うことがよくあります。意外かもしれませんが、大阪でもそうなんです。
具体的な計画はまだありませんが、観光を勉強するのなら大阪に行こうといったそんな大学があってもいい。
ただ単に、引き続き“超刺激的な体験”をお客様にパーク内で届ける、と言うことに加えて、僕らがいる場所である大阪・関西っていうのを、さらにどう盛り上げていくか。それは戦略的にも、色々みんなでやっていきたいと思います。
── 育成も含めて長期的な目線でやっていくという意味でしょうか。投資規模など想定しているものは
村山:一朝一夕には結果も出ないことです。ここは自分たちの社会的な意義を信じて、じっくりとやっていくことになりますね。
今後、何か投資規模などを出していくかもしれませんが、今は走り始めたばかりです。
(文、撮影・小林優多郎)